あのキャラクターも…!? ド肝を抜く「中国遊園地」の面白ポイント【インタビュー】

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公開日:2018/8/22

『中国遊園地大図鑑 南部編』(関上武司/パブリブ)

 中国の遊園地「石景山遊楽園」がワイドショーなどで連日紹介されていたのは2007年頃のことなので、知らない読者も多いかもしれない。「ディズニーランドは遠いので、石景山遊楽園に行こう!」というスローガンのもと、童話をモチーフにしたという園内のキャラクターはどう見てもディズニーやサンリオのパクリだった。しかもどのキャラも相当にザツな造りだったことから、見る人すべてに忘れられないインパクトを残す、世界に類を見ない遊園地だった。

 その石景山遊楽園を2011年に訪れて以来中国の遊園地に魅せられ、中国全土を巡り続ける関上武司さんによる、『中国遊園地大図鑑』(パブリブ)の南部編が刊行された。2016年から執筆を始めた同シリーズの3冊目になるが、今回もド肝を抜くような遊園地ばかりだったそうだ。そこで関上さんに、中国遊園地の面白ポイントを教えていただいた。

園内で作付け! 亜種とパクリが同居!ありえない世界がそこに

 関上さんは留学で1年、仕事で2年と計3年間中国に滞在していたことがあるだけに、中国の文化や習慣には理解がある。しかしそんな関上さんでも、「今回もありえないものばかり見てビックリした」そうだ。

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「たとえばマカオのすぐ隣の珠海市にある珍珠楽園(ちんじゅらくえん)というレジャー施設(1)は、廃れっぷりが半端なくて。老朽化がひどくて廃墟遊園地のような雰囲気だったのですが、中に入ってみるとスタッフの手作りソーセージが干してあったり(2)、畑に作付け(3)してたりしていて。

▲(1)珍珠楽園。関上武司さん撮影

▲(1)天幕が破れている珍珠楽園のチケット売り場。関上武司さん撮影

▲(2)自家製ソーセージが吊るしてある。関上武司さん撮影

▲(3)作付けする従業員。関上武司さん撮影

 ここは日本のレオマワールドというテーマパークを経営していた会社が出資していたのですが、その会社自体が倒産しているせいか、とにかく老朽化がすさまじい。でも最初から廃墟だと知っていたわけではなく、偶然行ってみたら予想外のものを見てしまった。というか、見てはいけないものを見てしまった気になりました」

 関上さんによると、2015年時点で中国国内には914台のジェットコースターがあり、これは世界ランキング1位になる。しかし国土が広いことから、立地が悪い上に老朽化が進んで、ますます客足が遠のいてしまう廃墟遊園地も多いのだとか。そんな中Googleマップなどであたりをつけて、高速鉄道で移動しながら1日に3つ程度、多い日で5つの施設を廻るそうだ。

「高速鉄道に乗って行って撮影してまた高速鉄道に飛び乗って、みたいな。1週間の滞在中に毎回15ヶ所前後の施設を撮影しています。地域による違いは植生ぐらいしか感じられませんが、中国のオリジナルキャラクターはどれもその園でしか認識されていない、メジャーではないものが多い気がします。でも日本でもディズニーやサンリオみたいな有名なキャラ以外は、園外で販売されることは少ないですよね。で、中国オリジナルのキャラクターはかわいくないというより、色々ツッコミどころが多いです」

 虎やライオン、パンダなどモチーフがわかるキャラもいるが、正体不明だったりどう見てもミッキーマウスに激似……というものもある。さらに元ネタキャラをデフォルメしすぎて、何がなんだかわからないものになっているのもいる。そのひとつが広西チワン族自治区南寧市の「南寧鳳嶺児童公園」(なんねいほうれいじどうこうえん)の、ピカチュウもどき(4)だ。似ているようで似ていないような微妙なもどきキャラになっているが、同園の驚くべきところは、オリジナルのパクリ……? と思しき着ぐるみの数々が、10体以上も園内に放置されている(5)ことだ。

▲(4)南寧鳳嶺児童公園」の人気キャラもどき。関上武司さん撮影

▲(5)野ざらしの人気キャラらしき着ぐるみ。関上武司さん撮影

「南寧市内のバスに乗っていたら液晶モニターで、ピカチュウらしき着ぐるみが踊っているCMを放送していたんです。『これは!』と思い訪ねてみたのですが、まさか着ぐるみが野ざらしになってるとは……。僕もスーツアクターのアルバイトをしていたことがありますが、普通こんなものは夢をぶち壊すとかいたずらされるとかの理由で、客の前には出しませんよね。しかもこの着ぐるみ、口の部分から中の人の顔が見える構造なので、隙間から人の目が見えるんですよ……」

かつては日本の遊園地も通ってきた道

 同シリーズではモロにパクリとしか言いようがないものからデッサンが狂いまくり、独自の進化を遂げてしまった「亜種」まで、元ネタがあるキャラクターをこれまで紹介してきた。しかし今回は中部編の上海ディズニーランドに続き、本物しかいない香港ディズニーランドも取り上げている。正真正銘のディズニーのはずなのに、なぜだか怪しく見えてしまうのだが……。

「ニセモノの中に本物を並べると、どれもニセモノに見える錯覚が起きるんですよ(笑)。でも中国の人も、本物を求める人が増えました。香港ディズニーランドは上海に比べると狭くてキャッスルも小さいから赤字と言われていますが、それでも僕が訪ねた年末は、人であふれていました。空港から近いし、近くに鉄道駅もありますから集客力はありますね」

 景徳鎮の里・景徳鎮市の隣の南昌市にはジャック・マー(アリババ創業者)と並ぶ富豪として知られる、王健林率いる大連万達グループによる「南昌万達楽園」(なんしょうわんだらくえん)もある。このパークはキャストの多くが中国人で、園内には巨大な景徳鎮型のモール(6)が並んでいる。このように脱模倣の、独自色を打ち出した園も増えつつあるのだろうか?

▲(6)南昌万達楽園の巨大な景徳鎮型モール。関上武司さん撮影

「でも実はこの会社は、経営状態が黄信号なんです。男一代のたたき上げ会社で、レジェンダリー・ピクチャーズを買収したりと何かとお騒がせで。人口の多い地域では脱模倣かつパクリキャラも減りつつありますが、地方だと逆にまだまだ増えているところもあります。某ネズミ型コースター(7)の新型が投入されたりしていますし」

▲(7)あのネズミらしきキャラが(南昌人民公園)。関上武司さん撮影

 関上さんはネズミ型コースターなどを晒して「けしからん」と叱りたいわけではなく、むしろ紹介することで、中国政府を刺激してしまうことを危惧しているそうだ。

「日本でも版権的にヤバい看板を撮影して載せると、しばらくするとなくなってたりするので、『紹介して良かったのかな』と複雑な思いにかられることがあります。だから僕がこうして本にすることで、中国政府が『これはいかん』と規制に乗り出したりすると、本末転倒なんです。だってキャラの模倣は、かつて日本も通ってきた道ですから」

パクリには、キャラへの愛情も漂っている

 さらに関上さんは「ソースを広く利用することで、発展するものがある」とも言う。たとえば西遊記があったからこそ『ドラゴンボール』が生まれたのだから、キャラクターも版権管理者だけが独占するのではなく、広く使われていくことで継承されるものがあるのではないかと考えているそうだ。

「アメリカや日本のキャラはこれから歴史に残る可能性があると思いますが、作品を作っている側は、そういう意識は総じて薄いと思うんです。たとえば僕の住んでいる愛知や岐阜では、荻野目洋子さんのダンシングヒーローが盆踊りに使われている。でも曲を作った人も荻野目さんも、そういう使われ方で後世に残るとは思ってなかったと思うんですよね。作者が想定していない使われ方をされていくことで、後世に継承される文化もあるのではないか。またキャラがなぜここまでパクリも含めて氾濫しているのか。それは需要があるからだしキャラへの愛情もあると思うので、『パクリはけしからん』と目くじらを立てるだけではなく、そこに漂う愛情も感じてほしいです」

 この愛情は遊園地やキャラクターだけではなく、中国の人たちにも感じて欲しいと考えている。抗日的な発言をされることがあるのは事実だが、日本人に親切な人はそれ以上にたくさんいる。だから抗日的な要素ばかりを探していても意味がないと語る。

「以前タクシー運転手に抗日的な発言をされたことがありますが、そういう時は言い返さず、心の中で中指を立ててます。だって、親切な人はそれ以上にたくさんいますから。広州市に向かう高速鉄道の車内で隣のおばちゃんに『安い宿を探している』と言ったら、別車両にいた息子さんを呼び出してガールフレンドまで紹介され、宿を予約してくれました。さすがに2日連続で抗日発言をされた時はまいったし、たまには言い返す時もありますが、中国にはこのように優しくておおらかな人も多い。それに一般市民に政治問題をふっかけても、何の解決にもなりませんから」

 同書では各園で販売されているグルメも紹介されているのだが、どれもあまりおいしそうに見えない。実際のところ、味はどうなのだろう?

「それは僕の撮影技術の問題で、おいしいものはたくさんありますよ!(苦笑) ただ1人で撮影に廻っているので、どうしても炒飯とか麺とかの単品メニューばかりになってしまって。あとはどれもこれも『おいしい』と書いてしまうと信ぴょう性がなくなるので、日本人の口に合わないであろう『臭豆腐』(チョウドウフ)を生贄的に入れました。このにおいは言葉では説明が難しいですが、明らかに日本人にとってはダメな香りです」

 書店に行くとガイドブックのコーナーに置かれていることもあるが、住所やアクセス方法を紹介しているものの、同書を片手に遊園地巡りをするのはハードルが高く、関上さん自身も「実用的な本ではない」と思っているそうだ。

「想像以上に広いですからね、中国は。もし僕の本を見て中国遊園地に行かれるのであれば、短時間であれこれ廻ろうとしないこと。とにかく無理するなと言いたいです。あとはパクリや亜種は中国政府に狩られる可能性があるので、行くならできる限り早い方がいい。いざ行ってみたらキャラがなくなってたり、閉園していたり、なんてこともよくありますから」

オリジナルTシャツとともに現れた、関上武司さん。

取材・文=今井順梨