王者サメvs.怪物級ライバルの死闘!『ジュラシック・パーク』よりサメが先に誕生!? 約5億年におよぶ海洋生命史

スポーツ・科学

更新日:2018/8/21

『海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲』(土屋 健/文藝春秋)

 古代の生物と聞けば、恐竜を思い浮かべる人は多いだろう。今年の夏は映画「ジュラシック・パーク」シリーズの新作も公開されたばかりだし、恐竜の人気は根強い。マンモスやサーベルタイガーなんかも見た目のインパクトから印象深い存在だ。

 しかし、地球の生命の進化の源は、海にある。恐竜やマンモス、サーベルタイガーはもちろん、現代の地球に生きる人間を含めたあらゆる生物は、海で生まれた生命から進化してきたもの。海の生命のことはなんとなく忘れられがちだが、こちらにも現代まで脈々と続く壮大な歴史がある。本書『海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲』(土屋 健/文藝春秋)は、そんな約5億年におよぶ海の生命史をテーマにした一冊だ。

 陸には陸で生物の栄枯盛衰があったように、海においても時代ごとに生物としての覇者が存在していた。本書では各時代の覇者となった生物に注目し、その移り変わりから海洋生命史を見ていく構成になっている。

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 第1章は「壮大なる“序章”」。肉眼で構造が確認できる大きさの生物が突如として現れた5億7500万年前の海草のような「ランゲオモルフ」に始まり、先カンブリア期からシルル紀(約4億1900万年前まで)の“珍奇な生物”の繁栄が紹介される。本書の大きな特徴は、オールカラーでこうした古生物の再現イラストや化石写真が100点以上も収録されていること。海洋史上最初の覇者とされる「アノマロカリス」をはじめ、その仲間たちの“宇宙人感”たるや半端ではない。「こんな生き物、本当にいたの!?」という新鮮な驚きに満ちている。

 約4億1900万年前に始まった「デボン紀」という時代から、ようやく魚の仲間たちが海の主役となっていく。そこで幅を利かせていたのが甲冑魚。その名の通り、頭と胸の部分が骨の板で覆われていて甲冑を来ているようなゴツい魚で、最強の甲冑魚として紹介されている「ダンクルオステウス」の強面っぷりは見ものだ。甲冑魚は「板皮類」というグループに属していたが、原生動物にはもはや存在していない。デボン紀の海ではこの板皮類が生態系の上位に君臨していたが、“初期のサメ”ともいわれる軟骨魚類も徐々に繁栄。これが“サメ帝国”の始まりだ。第2章はこうした甲冑魚と初期のサメを主に紹介する。

 続く第3章は「最強と最恐。海洋派遣をめぐる決戦」。陸で進化を遂げて海洋進出を果たした爬虫類=モササウルス類の台頭、生存競争に生き残った軟骨魚類から勢力を拡大した「新生板鰓類(しんせいばんさいるい)」の勢力拡大を解説。どちらの種も見るからに獰猛で巨大なやつらのオンパレードである。新生板鰓類は現在のサメやエイを含むグループで、その絶対的な王者と見られている「クレトキシリナ」は「最強にして最恐」といわれているとか。最終章である第4章では恐竜絶滅後の海に注目。今度は哺乳類が陸から海に移動、海棲哺乳類=クジラ類として進出して古代サメと海の覇者の座を争う――。

 約4億年前に登場した最古のサメから現代のホオジロザメに至るまで、サメの仲間は海の王として君臨しながら、さまざまなライバルとの覇権争いを繰り広げてきた。その海の生命の物語はまさにダイナミック。脇役として登場する生物も実に奇妙かつユニークな外見、生態で飽きさせず、海洋生命の多様性には驚かされるばかり。その悠久ともいえるスケールの海洋生命の進化と歴史に思いを馳せれば、子供でも大人でも、きっとワクワク胸が躍るような思いがするはずだ。

文=橋富政彦