31歳で亡くなった梶井基次郎の『檸檬』 あ、丸善にレモンを置く話? 「桜の樹の下には屍体が埋まっている」で始まるあの話も収録
更新日:2018/8/24
読み返せば読み返すほど、さらに魅力が増していく本がある。特に教科書に載せられていた名作の数々は大人になってから読み返してこそ、じわじわとその魅力が感じられるものだ。その最たるものとして挙げたいのが、梶井基次郎の『檸檬』。「ああ、丸善に檸檬を置く話ね」と侮ってはいけない。ひとたび本を開けば、作者の感性に圧倒。作品の力に思わず魅せられてしまうことだろう。
『檸檬』の文庫版は梶井基次郎の短編集となっている。特に近年発刊された文庫の装丁はなんともオシャレ。見ているだけで清々しい気持ちになり、どの文庫で読もうかと悩んでしまうほどだ。そして、装丁に負けないほど、その内容もみずみずしく、青春の味わいがする。表題「檸檬」は、冒頭から、主人公が、憂鬱さ、不吉さに苛まれている物語。好きな音楽や詩にも癒されず、文具書店の丸善でも満たされない。借金取りに追われているし、身体の具合も芳しくない。そんな主人公は、寺町通の果物屋で見つけた檸檬によって、少し晴れやかな気持ちを取り戻していく。
この作品を読書メーターユーザーたちはどう読んだのか。
さゆき
「檸檬」他15篇を収めた短編集。倦怠や、特に後半にいくにつれ病床の憂鬱が濃く描かれている。澄んだ絶望というか、絶望が徐々に研ぎ澄まされていく感じが良い。
玄趣亭
言いようのない焦燥感にとらわれ、書店に「檸檬」という爆弾を仕掛けたと想像する私……。梶井基次郎の「檸檬」を文学青年の端くれ? だった頃に読み、青春の文学として記憶に留めた。今回かなりの時がたって「檸檬」や「Kの昇天」「桜の樹の下には」などを読み返し、幻視のイメージ、瑞々しさとヒリヒリする感受性がもたらす印象に、改めて青春の文学として再会出来たのに驚いた。時を経て、読み手側の事情が変わろうとも、梶井基次郎の作品は変わらない世界として存在し続ける。
chimako
こんなにも情景の浮かぶ作家だったのだと、何十年ぶりに読んで思う。差し色と言うのだろうか、暗い色彩の中のレモンイエロー、闇夜に光る月。爛漫の桜でさえ思い浮かぶのは闇の薄桃色。漆喰に吐く血痰。どれもが行きどまりを感じさせ気味悪く頭から離れない。
ヤスギタちゃん
著名な作品で名の知られているものだが、読むのは初めてである。檸檬は短い話であるがその世界観は色濃く、檸檬の様に瑞々しく、酸っぱい青春の思い出を感じさせるものである。瑞々しいものにダークな灰色が混じり合って、ヒリヒリとした思い出が加わり、段々と違う味を出していき、また別の青春の甘みと苦味が加わり、時には絶望感を味わう場面もあり、それらが徐々に研ぎ澄まされていくような感じであった。青春文学の感受性豊かな物語だなと感じる。
梶井基次郎は若くして結核で亡くなった。彼の作品の多くには病で苦しむが故の気だるさがある。だが、病に限らず、誰にだって梶井のような憂鬱を感じるときがある。そんな時にあなたを救うのは『檸檬』。すべての人には“檸檬爆弾”が必要なのではないか。アンニュイな雰囲気のなかで描かれる色彩豊かな世界。その鮮やかな世界にぜひあなたも浸ってみてほしい。
文=アサトーミナミ