幕末は“流れ”を知ると面白い!『超現代語訳 幕末物語』 房野史典さんインタビュー

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公開日:2018/8/26

『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』
(房野史典/幻冬舎)

 2016年、応仁の乱~戦国~江戸時代の出来事を軽妙な現代語へと大胆にトランスレートし、時系列でぐんぐん読み進められると各方面で話題となった『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』。その面白さに気づいたダ・ヴィンチニュースではいち早く著者の房野史典さんをインタビューし、その際に次回作に期待する旨を伝えていたのだが、早いものであっという間に2年の歳月が……。そして待ちに待った2018年8月、「ようやくできました!」との連絡を受け、著者の房野さんを直撃した!


房野史典
ぼうの・ふみのり お笑い芸人。1980年岡山県生まれ。名古屋学院大学卒。2000年、大学の先輩の吉村憲二と結成したコンビ「ブロードキャスト!!」でツッコミを担当。2016年『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』を出版、歴史関係のイベントに登壇するなど活躍の場を広げている。歴史好き芸人のロバート山本博、はんにゃ金田哲らと結成した6人組ユニット「六文ジャー」のメンバーでもある。

■大事にしたのは「フラットな視点」と「勧善懲悪にしない」こと

――ちょうど2年ぶりとなる第2弾は『戦国時代』を上回る出来事と登場人物の多さ、しかも約400ページという大ボリュームになった『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』ですが……2年間も何やってたんですか!

房野史典さん(以下、房野) いろいろあったんですよ!(笑)

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――ですよね……追々伺います(笑)。今回はペリー来航(1853年)から、明治が始まる(1868年)時代までの物語ですが、なぜ幕末をやろうと?

房野 ありがたいことに『戦国時代』が面白いという感想をたくさんいただいて。80歳のおじいさんから「歴史はこう学ぶべきだと思う」という読者ハガキをもらったり、「子どもが枕元に置いて抱いて寝てます」「面白いから学校へ持っていきたい」というお子さんを持つ親御さんからの感想を聞いたり、仕事も歴史関係のことが増えたんです。それで第2弾を、という話もいただいて。でも「第2弾はどうしても売り上げは落ちるのがセオリー」という話を聞いて、どうせ落ちるなら安全策取るよりちょいチャレンジの方がいいだろう、と思って「幕末やりたいです!」と担当編集さんに言ったら「よく言った!」みたいな展開になって。

――前回のインタビューでも、どの時代をやってみたいか伺ったら「時代だと幕末」とおっしゃってましたよね。

房野 幕末は好きなんですけど、知識がそんなにあるわけじゃないので、まずはたくさん本を読んで情報をインプットすることから始めました。そうすると、幕末って政治的要素とかむっちゃ絡んでくるので、『戦国時代』のときみたいに合戦や人物にスポットを絞るよりも、時代を大きな流れで見た方が絶対面白いと思ったんです。そのときに大事にしようと思ったのが「フラットな視点」と「勧善懲悪にしない」こと。幕末にはこういうことがあったよという流れを知ると面白い、そして歴史上の人物たちには各々やりたい、作りたい時代があったんだ、という事実を知ってもらえる本にしたかったんです。

――日本史の授業で出てきた人物名や出来事ってバラバラに覚えてるんですけど、この本を読むと、「あー、あの事件とこの人たちはこうやってつながってたのね」とグイグイ読み進めることができました。そして幕末の歴史だと西郷隆盛や坂本龍馬がヒーローになりがちで、彼らの功績ばかりがクローズアップされますけど、往々にしてヒール役の井伊直弼や徳川慶喜が「幕府をどうしたかったのか?」についてもキッチリ書かれてますよね。

房野 井伊のやった「安政の大獄」は普通に考えれば絶対ダメだけど、政治家としての行動ならそれもあるか、という視点ですね。幕府があった方が上手くいくって考えたのは慶喜で、幕府を倒した方が上手くいくと思ったのが薩摩や長州なんです。幕末は外国が日本へ次々にやって来て、みんなが「何とかしよう」とした結果「オレのやり方でやったら上手くいく!」がたくさん出てきて、せめぎ合ってたんですよね。

――それにしても登場人物も出来事も多いし、敵味方入り乱れるし、さらに外国も出てくる。

房野 いやホント、ちょっと腹立ちながら書いてましたよ。「なんでこんなややこしいことやってんだコイツら!」って(笑)。まあでもしゃあないですよね、そういう時代だったんで。


■芸人は「しゃべったことを文字にできる」のが強み

――それで書き出してみたものの……上手くいかなかった?

房野『戦国時代』は誰に頼まれもせずSNSで自由に書いたんで、幕末も自由に書いたんです。で、いつも最初に読んで判断してくれる担当編集さんと山口トンボっていう元芸人で同期の放送作家がいるんですけど、その2人に原稿を送ったら全く同じような「う~ん……」という反応で、「うわ、これぜってーダメだ!」と(笑)。最初の原稿はインプットしたことを全部入れようとして、拾うものと捨てるものを分けられないまま全部グワーッと書いてしまってて、メリハリなくてすごく長かったんです。あとは子どもが読んでくれたことで「やった!」となってたので、勉強要素も入れようとしたんですね。そんなの『戦国時代』のときは一切考えてなかったのに……しかも今回は最初から「本になる」のが前提だったので、意識し過ぎて気負ってしまったんでしょうね。

――そしてダメ出しを喰らい、書き直しに次ぐ書き直し……

房野 僕の文章での現代語訳なので出来事を端折っていいんだけど、思いっきりのウソは書けないので、いろいろ調べて、今日はなんとか1行進んだか、みたいな毎日でした。でもホントに書けなくて、ベッドの上で「うわあああああ! 全然進まん!」となってましたねー(笑)。

――書く苦しみですね……何か打開策はあったんですか?

房野 いつもお世話になってるキングコングの西野(亮廣)さんに相談してみたら、「もともと『戦国時代』はライブでしゃべってたことを文章にしたものなんだし、とにかくしゃべってみたら? オレたちは芸人で、文章のプロじゃない。芸人はしゃべったことを文字にできるのが強みでしょ」と言われて。それで幕末物語をトークライブでやってみると、ここはこんなに反応あるんだというところをしっかり書いて、これは全然ウケねぇや、というところを端折ったりしていきました。

――『戦国時代』を書くことを勧めた西野さんに今回も助けられたんですね。で、原稿は完成と?

房野 それで書いた原稿をWEBにアップして、それをまとめて本にしよう、となって……実はこれ、僕も担当編集さんも薄々感じてたんですけど、「これ長くて1冊に入らなくね?」ということが判明して(笑)。それで2つに分冊にするという話になったんですが、ペリーとか出てくる前半の歴史が地味で面白くないから、これじゃ下巻を買ってもらえないかもしれないとか紆余曲折あって、結局最終的に1冊にまとめるという話になって。そこからまた原稿をむっちゃ圧縮して……とやっていたら、2年かかってしまったんです。

■責任を取る男、西郷隆盛


――『戦国時代』では直江兼続が出した「直江状」を読んだ徳川家康がブチ切れして「殺す!!」と息巻くシーンなどが面白かったですけど、『幕末物語』で気に入ってるところはありますか?

房野 みんなに「面白いね!」と言われるのは『むすんでひらいて 幕末ver.』ですね。

――日米和親条約から始まって、イギリス、ロシア、オランダと次々と条約を結ぶのを「結んで(条約)」「開いて(開国)」「手をうって(合意して)」「結んで(条約)」「また開いて(開国)」「手をうって(合意して)」「その手を上に(お手上げ状態)」というところ(笑)。

房野「あ、ハマった!」という感覚はありましたけど、あまりに言われるんで、後付けで自分で自分をスゲェな、って思うようにしました(笑)。あと高杉晋作の出し方は工夫しましたね。調べてるときから「なんなの、この人? なんか起こるたび、そしてみんなが忘れた頃にいっつもババーンって出てくる!」って笑っちゃってたんで。

――高杉は何回も登場して、唐突に「奇兵隊」を作ったりするんですよね。これはぜひ本書で読んで、笑ってほしいポイントです。とにかく幕末はいろんな人たちが出てきますけど、今回書いてみて、房野さんは誰のことが好きでした?

房野 やっぱり西郷隆盛なのかなぁ。度量広いとか、あまりに僕の中にない部分ばかりある人なんで。「責任を取る」って、誰かとコミュニケーションを取る中で一番すごいことですけど、そのトップが西郷なんじゃないかなって。結局最後まで責任を取ろうとして、明治に入ってから「西南の役」を起こして、非業の最期を遂げるんですけど。あとはベタですけど、吉田松陰、高杉晋作、案外嫌いじゃないよというのが慶喜かな。慶喜は仲間を見捨てるようなこともするんだけど、幕府を一回立て直してるし、この人じゃないとおそらく大政奉還はできなかったはずなので、政治家としては優れているんじゃないかなって思いますね。

――計算高いし、打算的ですよね。

房野 その中でも坂本龍馬は特筆すべき人だなと思いましたね。全部を飲み込んでいって、個人的な恨みとかは置いといて、次の時代のために、日本のためになることをやる。スゴくないですか? そして人から聞いたことを実行する力がえげつない。大政奉還も自分のアイデアではないけど、こうした方がいいということを知って、誰もが実行できなかったことをポンとやっちゃう。机上の空論に終わることを全部やっちゃうんですよ。そりゃ龍馬好きっていう人多いわ、と改めて思いましたね。


■現代の日本は、黒船が来た時代にそっくり

――「はじめに」の1行目に「幕末は、現在の日本とそっくりです」とありますね。

房野 今の日本、というか世界って、完全に未体験ゾーンに入ってますよね。SNSとか、ブロックチェーンとか、仮想通貨とか、もしかしたら国とか銀行とかなくなっちゃうかもしれないという人類未体験ゾーンで、これってベタに言えば「黒船」じゃないかなって思うんです。そういう意味では、幕末は今とめっちゃ似てるなっていうのがあって。そういうことも考えながら読んでもらったらうれしいですね。

――いずれ龍馬みたいな実行力のある人が出てくるかもしれないですね。

房野 そして実はこの本を読み進めてる最中に「今って幕末のどの辺かな~?」と思ったら、「はじめに」へ戻ってもらうと、どの時代を読んでいるのかわかるようになってるんです。

――あ、歴史ガイドにもなっているんですか。これから読む方はぜひ参考にしてください! では最後に、本書の読みどころを!

房野 読みどころは……とにかく流れを読んでほしいんで、全部です(笑)。まあ、それは冗談として置いといて、まずは「はじめに」を読んでもらうと、この本のテイストだったり、幕末の流れが一通りわかりますんで、そこ読んで「面白い!」と思ったらレジへ持って行ってください。「あんまかな~?」と思ってもレジへ行ってもらって、「面白くないな~」と思ったとしても、一度手にしたらレジへ……いや、目に入った瞬間すぐレジへ持って行ってください!(笑)

――で、房野さん、第3弾なんですけど……やってみたい時代、あります?

房野 まだ早ぇわ! 『幕末物語』出たばっかだし!(笑) う~ん、もっと実力がついたらですけど「昭和時代」はやってみたいかなぁ。黒田官兵衛のことを書いた原稿もあるんで「戦国時代リターンズ」とかもアリですね。あとは平清盛や源頼朝も好きなんで「平安~鎌倉時代」も面白いかも……って、最初の方は藤原さんだらけになるけど(笑)。

――期待しています!


取材・文=成田全(ナリタタモツ) 撮影=中惠美子