気温50度超えの中働く看護師の壮絶体験! 紛争地域の光(希望)と影(現実)とは⁉

社会

公開日:2018/8/26

『紛争地の看護師』(白川優子/小学館)

 40度近い猛暑のつらさが身に染みた今夏の日本列島。だが、世界には50度を超える環境の中で、命の危険に身をさらしながら、人々の救済にあたっている人たちもいる。本書『紛争地の看護師』(小学館)の著者、白川優子氏もそんなひとりだ。

 白川氏は、2010年4月より「国境なき医師団」(以下、MSF)の看護師として、世界各地で任務にあたっている。MSFは、紛争地や自然災害被災地などに出向き、無償で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体だ。

 危険な任務となることも多く志願登録制だが、医療経験と語学力が求められるため、登録までのハードルは高い。

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 7歳の時にテレビでMSFの活動を観て、幼心に憧れた著者。1996年に看護師となり、日本でキャリアを積んでいた99年、MSFがノーベル平和賞を受賞したことで、自分の使命を思い出してMSFの門をたたくも、語学力不足で不採用。そこでオーストラリアへ留学して語学力と英語での看護師経験を積む。こうして著者は、日本で看護師となった14年後、念願のMSFスタッフになる。

 本書では、著者がこれまでに派遣された、イエメン、シリア、南スーダン、イラク、パレスチナのガザ地区など、中東・アフリカの「紛争地域」での人命救助活動の様子、命の危機を感じた瞬間、現地の人々と触れ合う中で痛感したことなどが綴られている。

 派遣地域はいずれも50度を超える暑さ。加えて、戦況などにより医療現場や宿舎でのエアコンはおろか、電気・水道・トイレさえも使えなくなる事態も、決して稀ではないことが記されている。そして、常に危険の恐怖と向き合い、悪化する体調ともうろうとする意識のダブルパンチに鞭を打ち人命救護にあたる。その過酷さは、経験者以外、想像など及ぶ世界ではないだろう。

 本書には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)のような症状に悩まされる著者の姿も描かれている。しかし、白川氏はこう記して、自身を律するのだ。

私の辛さには、帰国という終わりがある。私よりもっと辛いシリア人たちが頑張っているのに、終わりのある私が弱音など吐いてはいけないのだ。

 本書からは、著者を含むMSFスタッフたちの努力も十分に読み取れるが、著者の目的は他にもある。それは、その過酷な現場には、もっと過酷な現実と未来を抱えた、多くの老若男女、子どもたちがいるという現実だ。

 そして、そんな被害者たちをいまも無尽蔵に生み続けている、紛争・戦争の悲惨さや愚かしさを、本書を通して訴えることである。

 たとえばこんなケースもある。シリアと隣接国の国境沿いの地域で救護中、その国境を越えた先の大きな病院に搬送すれば助かる幼い命があった。そこで車に少女を乗せ、スタッフが国境警備隊と必死に交渉をする。しかし、かたくなに入国を拒否され、車内で少女の命は尽きたという。人の命があまりに軽んじられる紛争地の現実に、著者はこう嘆く。

やはりこの子の死も、紛争地医療の限界の中で受け入れなくてはならないのか。現実を受け入れるには私たちは、どの程度人間としての心を麻痺させなくてはならないだろう。

 また本書には、過酷な環境で暮らしつつも、著者やMSFスタッフたちに感謝のもてなしをしようとする地元の人たちの心の温かさや、将来への希望を抱きながら、必死に医療活動を手伝う地元の若者たちの姿なども描かれている。

 紛争地域にある光(希望)と影(現実)が交錯する本書。こうした環境下で必死に生きる人たちがいることを、他国のこと、他人ごとなどと思う前に、まずはそのリアルを知ることから始めてはいかがだろうか。

 各国のMSFの受け入れ態勢や各地域が紛争に至った経緯など、ジャーナリスティックな視点も兼ね備えた本書が、その絶好のガイドブックとなってくれるだろう。

文=町田光