テイ・トウワ「曲作りに煮詰まると、レコードジャケットを眺めて、どんな音楽が収録されているのかを想像する。それが僕の日課」
公開日:2018/9/6
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、先月、別名義の音楽プロジェクト、Sweet Robots Against The Machineのニューアルバム『3』をリリースしたテイ・トウワさん。紹介してくれたエッセイ集『天才たちの日課』にちなんで、テイさんの音楽制作の様子もうかがってみました。
今回、テイ・トウワさんがすすめてくれた本は『天才たちの日課』。ゴッホやフロイト、はてはマルクスまで、ジャンルにこだわらず、161人の天才たちの日常生活を追った新感覚のエッセイだ。この本を教えてくれたのは、テイさんのニューアルバム『3』のアートワークを手がけた五木田智央さんだという。
「五木田さんから教えていただくものは、本でもレコードでも、どれも興味深いものばかりで。これも、天才たちの仕事の裏側をのぞき見しているようで面白かったですね」
普段から雑誌や本はよく手にするほうだというテイさん。
「読むのはエッセイや日記が多いですね。アンディ・ウォーホルや大竹伸朗さんのエッセイ、それに日記だと『池波正太郎の銀座日記』や伊丹十三さんの『ヨーロッパ退屈日記』など。関心のある人たちの文章って、内容の面白さもそうですが、音楽でいうとその人ならではのリズムを聞いているようで、読んでいると気持ちよくなれるんです」
紹介してくれた『天才たちの日課』は、文字通り“日課”が綴られたものなので、一般的なエッセイや日記とは少し異なる。しかし、他人の“生活のリズム”を知るという捉え方をすれば、共通しているといえる。……と、そんな話を聞くと、どうしてもうかがいたくなる。テイさんの音楽づくりにおける“日課”はどのようなものなのだろう?
「僕はずっと朝型ですね。夕方の17時を過ぎるとお酒が飲みたくなるので(笑)。若い頃は、朝起きるとすぐにパソコンと楽器の電源を入れて、何のアイデアがなくてもとりあえず鍵盤に手を置いてました。楽器を鳴らしていれば、そのうち何か浮かぶんじゃないかなと思って。それも間違ってはいないんですが、最近はむしろ、何もしないことのほうが多くなりました。自分が本当に音楽をやりたくなるまで、ただただじっと待っているんです。もちろん、締め切りが危ないときは、そうも言ってられないんですけどね(苦笑)」
では、それでもなお、気持ちが音楽に向かない場合は……?
「そんなときは、とりあえずレコードを聞きますね。アトリエにたくさんのレコードがあり、ジャンル別に棚に並んでいるので、レコードショップに来たような感覚で、“今日はどれを聞こうかな”と、その日の気分の音楽を聞く。そうやって、自分の心が音楽に向くように仕掛けていくんです」
興味深いのがジャンルのセレクトだ。そのときに向き合っている仕事とはまったく関係のない音楽を選ぶこともあるという。
「僕はこれを“チャンオペ(チャンス・オペレーション)”って呼んでます。つまり、新しいひらめきが生まれる機会を探っているんですよね。ときには、買ってまだ一度も聞いたことがないレコードのジャケットを眺めるだけのときもあります。“たぶん、こんな感じの音楽なんじゃないかな”って想像をふくらませる(笑)。映画のDVDでもそうですね。音を消して、映像だけを見ながら、“どんな物語で、どんな音楽が流れているんだろう?”と考える。そうやっていろいろイメージをすることで、音楽制作の意欲も高めていくんです」
ちなみに今回のアルバム『3』は、あまり煮詰まることなくできたとか。
「やはり、バカリズムさんと一緒に作れたことが大きかったです。僕が作ったオケ(音楽)からバカリズムさんがインスピレーションでネタを考えたパターンもあるし、逆に先にネタを聞いて、そこに僕が音を付けていったこともある。作り方は本当にケース・バイ・ケース。ただ、作りながらお互いの意見を聞いて、さらに広げていったので、常に一緒に作っている感覚でした。おかげで、これまでにはない創作活動ができたのではないかと思います。また、最初は、バカリズムさんと一曲ぐらい面白いことができたらいいなという思いでスタートしたのですが、想像以上に素敵な曲がどんどんできていって。非常に楽しい作業でしたので、こうしたコラボは機会があれば今後もたくさんやっていきたいなと思いますね」
(取材・文:倉田モトキ 写真:山口宏之)
アルバム『3』
Sweet Robots Against The Machine 日本コロムビア:発売 CD 3000円(税別) アナログ盤(2枚組) 5500円(税別)
●エレクトリックサウンドの第一人者、テイ・トウワの変名プロジェクトによる16年ぶり、3枚目のアルバム。過去2作同様、砂原良徳が参加しているほか、バカリズムがネタ制作とパフォーマーとして出演。また、夏帆や麻生久美子らもゲスト参加し、軽妙な掛け合いや朗読、歌唱などを披露している。