人はなぜセックスをし、子供を産むのか? “宇宙人”からはこう見えている!
公開日:2018/9/7
人間は、働くのもセックスするのも本当は嫌いなんだよ。催眠術にかかって、それが素晴らしいものだと思わされているだけだ
芥川賞作家・村田沙耶香さんの2年ぶりの新作『地球星人』(新潮社)が刊行された。本作を手に取ったとき、このタイトルと表紙を見て「また、村田さんがすごいことをやってくれそうだ」と期待に胸が膨らんだ。
私たちは、宇宙の中で自分たちの存在を表すとき、普通“地球人”と表現するだろう。だが、作品のタイトルは、“地球星人”だ。“人”が“星人”に変わるだけで、その言葉のもつ印象はガラリと変わる。この小説は、地球人とは相容れない存在――“宇宙人”の側から“地球星人”を見る物語なのだ。
主人公の奈月は、小さいころから親戚や学校などの社会が求める“当たり前”の空気に馴染めず、自らを宇宙人――ポハピピンポボピア星から来た“魔法少女”――だと思い込むことで自分を保ってきた。彼女の持つ「宇宙人の目」から見た私たちの生活は、疑うこともなく本能に従い、子供を作り続ける「人間工場」だ。地球星人は、「恋愛をして子供を作り、労働をして金を稼ぐこと」を何よりすばらしいと信じ、種を繁栄させるためのパーツとして毎日を生きている…。宇宙人である奈月からしてみれば、こうした地球星人の生態は奇妙なものに映る。
幼少期のある出来事をきっかけに、性行為ができなくなった奈月は、自分がうまく「工場」の一部になれないことを自覚していた。そのため、サイトで知り合った“性行為完全排除希望”の男性と結婚し、人間を生産することを求める「工場」の目をごまかしている。だが、奈月と同じく、いや、それ以上に「宇宙人の目」を持つ夫が、ある日とんでもないことを言い出して…。決して分かり合うことができない“宇宙人”と“地球星人”。ついにその差はとてつもないズレにたどり着き、本作は衝撃の結末を迎える。
村田沙耶香さんは、芥川賞を受賞した前作『コンビニ人間』(文藝春秋)にて、コンビニアルバイトで働く36歳の未婚女性・古倉恵子を描いた。世の中にある恋愛や仕事に対する見えない空気に疑問を投げかけ、普通とは何かを読者に問うた。本作は、その一歩先に進み、社会のスタンダードである「工場」に馴染めなかった“宇宙人”たちの行く末を描く。あなたが“地球星人”であれ、“ポハピピンポボピア星人”であれ――この結末を受け入れるには相応の覚悟が必要だ。
文=中川 凌