日本のサウナはクレイジー!? 日本サウナ大使・タナカカツキが伝授する入門法

暮らし

公開日:2018/9/10

■はじめてのサウナ選びのコツと、サウナハットのすすめ

 さて、一括りにサウナといっても、その温度や湿度は施設によってさまざま。髪がカラカラになるほど乾燥して熱いサウナは、初心者向けではないそうで…。

「サウナを楽しめるようになるには、やはり“良いサウナに出会うこと”が大切です。特に女性の場合は、髪をいためる心配がありますので、熱々の乾いたサウナよりも、湿度が高くて熱すぎないものがいいと思います。呼吸が苦しいと、それだけでストレスがかかりますしね。今はサウナの検索サイトやアプリも充実しているので、事前に調べてみることをおすすめします。また、サウナは頭が熱くなるので、サウナハットもおすすめですよ」

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▲タナカさん着用のサウナハットはハンドメイド。作り方は本書のカバー裏側に掲載されています!

■サウナに徐々に慣れ、気づいた時には中毒になっていた

 タナカさん自身も、はじめはサウナの良さが分からなかったそうだ。そんなタナカさんがサウナの世界に魅了され、のめり込んでいった時期のエピソードを語ってもらった。

「僕は徐々にサウナの魅力に気づきました。たまたまですが、当時通い始めたジムが完成したばかりで人が全然いなかったんです。そこにあったサウナ室がピカピカで、木の香りが素敵だったんですよ。ただ単に居心地が良かったのでサウナ室に座って、体が火照ったら冷ますために水風呂に入ったりしていました。もちろん水風呂は冷たいので、最初は肩まで浸かれなかったですね。足を水に浸けたりしていると、今度は寒くなってきちゃって、温まるべくまたサウナ室へ…。これを交互にしていました」

「当時はコンピュータの仕事をしていたので、目と肩の凝りが酷かった。でもサウナを繰り返していると、凝りが解消されてきたんです。自然な流れで効果を実感したので、午前・午後で身体を一旦リセットしようという目的でサウナを始めました。最初は身体の調子を回復させるためでしたが、気づいた時には半笑いが止まらなくなったり、アイデアがポンポンと湧いてきたり、不思議なことが起こり始めたんです…」

「サウナには瞑想やリラックスといった精神面への効果もあると感じます。僕はお酒が飲めないので、多くの人にとってのビールみたいな感覚で楽しんでいるのかもしれません」

■サウナ大使って、どんな活動をしているの?

「サウナ大使」という聞き慣れない肩書を持つタナカさん。気になる活動内容を伺ってみると――

「フィンランドには毎年行っています。大きな会議が年1度、さらに『世界サウナ会議』という催しが4年に1度あるんです。それに出席してプレゼンテーションをします。各国のサウナ大使がその国のサウナ事情をレクチャーしたり、大学の研究チームなどがサウナや健康に関する研究やデータの報告をしたりと、サウナの情報交換を目的としたものですが、これがおもしろいんです(笑)」

「何がおもしろいかって、全員“超真剣”なんですよ! 日本人からすると『サウナの会議って何?』と笑っちゃいたくなるかもしれませんが、始終真顔でディスカッションすると、時には本気で喧嘩も起こったりします(笑)。彼らの多くにとってサウナの存在は、神殿とか教会とか、そういうニュアンスのものなんです。だから、サウナ会議は国をかけての一大事業であり、サウナの話をする時はみんな真剣なんですよ」

「多くの日本人は『サウナ=フィンランドのもの』と思っていますが、フィンランドのお隣のスウェーデンの人は『フィンランドなんか本場じゃない。サウナは俺たちのものだ』と本気で思っている。一方ドイツ人も、『俺たちがサウナの中心で、他はみんな間違ってる。サウナは音楽フェスのように心から楽しむエンターテインメント』と、みんなが本気で思っています(笑)」

■海外から見ると、日本のサウナは変態!?

 にわかには信じがたいほどの熱をサウナに傾ける世界のサウナーたち。では、彼らは日本のサウナをどう見ているのだろう。タナカさんがサウナ会議で発表を行った時のリアクションを聞いてみると――

「多くの日本人は『これぞ日本式というサウナは存在せず、もともとフィンランドから輸入したもの』と認識していると思います。前回の東京オリンピックの時に、フィンランドの選手が選手村にサウナをと要望したことで日本にサウナが普及したという事実は確かにあります。でも、日本には古来から蒸し風呂・岩風呂の長い歴史があるんですよ。蒸気浴という括りだと最も長い歴史があるくらいなんです。我々はそんな歴史を無視してのほほんと『サウナいいよね』とか言っているんですが、実はずっと日本人がやってきたことなんですよ。それを自己主張しない日本の姿勢は、外国のサウナーたちから不思議がられますね(笑)」

「我々にとって見慣れた、何の変哲もない日本のサウナの光景を海外で発表すると、みんなものすごく喜びます。『日本だけだよ、サウナ室にテレビなんか持ち込んでしまうのは!』『マンガ読み放題で、そのままサウナ施設に宿泊できるなんて、独特すぎる!』と、大騒ぎ(笑)。海外の場合は、サウナ施設は基本的にサウナ室だけなんです。湖や川のそばにサウナをつくるので、人工的な水風呂はないんです。日本の水風呂を見た外国のサウナーは、『え、水をわざわざ冷やしてんの!?』『すっげー技術! 発想がクレイジー!』と驚きます(笑)。例えばビルの上層階にサウナを作って、わざわざ地下から水を汲み上げて、それを冷やす。我々が当たり前だと思っているものも、外から見るととてもクレイジーでおもしろいようです。彼らはカプセルホテルの写真を見せても大興奮。各カプセルの中にテレビが付いている様子も大ウケ。名古屋のサウナ施設に実際にある、室温をマイナスにして表面を凍らせた水風呂の写真を見せたら、会場はスタンディングオベーションになりました(笑)」

 白熱した議論で少し険悪なムードになっていたサウナ会議が、タナカさんによる日本のサウナのプレゼンで、和やかなムードに落ち着いたのだとか。私たちのすぐ身近にある日本のサウナは、海外に広く誇れる魅力と可能性を秘めているようだ。

タナカカツキさん
▲フィンランドの伝統的な「ロウリュ(サウナストーンに水をかけ蒸気を発生させる)」を再現してくれるタナカさん

【お話をうかがったのは…】
タナカカツキさん●マンガ家。著書には『オッス!トン子ちゃん』『サ道』『すばらしきインドア大自然~水草水槽のせかい』、天久聖一との共著『バカドリル』など。水草レイアウトの世界ランカーであり、日本サウナ・スパ協会公認のサウナ大使でもある。カプセルトイ「コップのフチ子」の企画、デザインなども。 ( http://kaerucafe.com/ )

取材・文・撮影=K(稲)