10年後の日本の医療はどうなる? 「スマートコンタクトレンズ」に「治療アプリ」テクノロジーがもたらす最新医療
公開日:2018/9/13
近年、IoTやAIなどが各産業に導入され技術革新が進んでいるが、医療も例外ではない。だが、最先端の医療にかかる機会はそうなく、機械が人を診ることができるのかという疑問や、機械にケアされるのは嫌だという心理もあり、医療関係者でもなければ医療の未来は想像しにくいだろう。
しかし、医師の過重労働などが問題になる中、テクノロジーによる医療改革は必要であり、また、急速に進めるべきである。今から約10年後の2030年、医療はどうなっているのか。そのヒントとなるのが本書『医療4.0 第4次産業革命時代の医療~未来を描く30人の医師による2030年への展望~』(加藤浩晃/日経BP社)だ。
日本の医療の歴史は、戦後、1960年代に皆保険制度が実現して今の医療提供体制の礎ができた「医療1.0」、介護施策が進んできた1980年代が「医療2.0」、そして2000年代の医療のICT化が進んできた昨今を「医療3.0」とし、これからのさまざまな革新的科学技術により台頭するのが「医療4.0」と本書では定義している。
医療4.0は、医療との接点が医療機関以外にも広がる「多角化」、個人個人に応じたオーダーメード化が進む「個別化」、そして医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」が特徴です。
たとえば、体温、活動量、血圧、脳波といった生体データがIoTデバイスで収集され、デジタル情報として可視化される。遺伝子検査で自分の遺伝子情報を把握すれば、罹患の可能性が高い疾患を把握できるようになる。検査も、組織を採取する「生検」から血液や尿など採取しやすい液体によって異常を把握できそうだ。これらは個人の健康情報としてビッグデータとなり、それらを基にオーダーメードの治療方針が提案されるようになるだろう、としている。
例として、アップルウォッチなどのウェアラブルデバイスではすでに生体データを取得できるが、これらのデータをもとに疾患へのアプローチに利用しようとするものが開発されてきている。脳卒中の早期発見や妊娠予測をするデバイスなどはすでに開発されている。
では、現場の医師たちは、医療の未来をどのように予測しているのであろうか。本書では、積極的にテクノロジーを活用したり開発したりしている医師30人へのインタビューが掲載されている。
小橋医師は、バイオセンサーを組み入れたスマートコンタクトレンズが専門である。たとえば、緑内障診断のため眼圧を計測できるスマートコンタクトレンズが開発されているが、眼圧の日内変動をとらえることにより、個々の患者に合った眼圧管理をすることで、緑内障による失明を回避できることが期待される、という。2030年に向けては、従来、医師の役割とされてきた臨床、研究、教育を担うだけでは不十分で、これからは自らのアイデアを産業化し、継続的にイノベーションを起こせる人材が求められていると感じているそうだ。
呼吸器内科の佐竹医師は、治療効果のあるアプリサービス(治療アプリ)を開発している。きっかけは、米国の大学院で「糖尿病治療アプリ」について調べたところ、アプリが薬剤の内服よりも効果が高かったことに衝撃を受けたからだ。これまで禁煙治療アプリや、脂肪肝アプリなどを提供している。
たとえば、禁煙は生活習慣を変えなければならないが、ひとりで孤独に戦うのではなく、スマートフォンのアプリが心理的依存を自覚し、克服するためのフォローをする。2030年に向け、医療現場におけるソフトウェアの役割は飛躍的に大きくなると考えている、とのことだ。
整形外科医の北城医師は、むしろテクノロジーの進歩によって、「人間とは何か?」という哲学的な問題がより浮き彫りになってきたと感じているという。そして、医療は人間を対象にしている以上、この問いに対して真摯に向き合うべき立場にあり、最も人間らしいものは「共感する力=共感力」だと考えているそうだ。「触れ合い」や「つながり」を大切にした、共感力の高い空間を病院や診療所内にデザインすることが、理事長としての今の自分の仕事としている。
30人の医師たちは、それぞれ専門も状況も異なるが、よい医療サービスを提供したいという目指すところは同じであり、今の医療で問題だと思うところも似通っている。医療の現場というのは、テクノロジーの利用が遅れている印象で、これからかなりの変革が期待できる。また、AIによる診断や手術を含めた治療も現実化するだろう。2030年、医療は大きく変わっているに違いない。
文=高橋輝実