私を守る優しい先生の正体は……。迫り来る不気味さが癖になる“学園サイコ・ラブ”『ホームルーム』
更新日:2018/9/25
目に見えない幽霊も怖いが、身近な人間はもっと怖い……! そんなことを思ったことはないだろうか?
「次に何をされるかわからない恐怖」は幽霊も人間も同じだが、筆者は霊感が皆無ゆえ、幽霊の存在は、テレビや物語で恐怖を覚えるのみで済んでいる。
しかし、自らの欲求を満たすためなら、平気で嘘をつき、人を騙す類の人間は存在する。善人が大半だと信じてはいるが、身近に狂気的な人物がいた場合、日常生活もジワジワと脅かされる。その恐怖やストレスは半端ないことだろう。
『ホームルーム』(千代/講談社)は、そんな人間の凄まじいほどの「狂気」が描かれている、戦慄の学園サイコ・ラブである。
物語は、イジメられっ子の女子高生・桜井幸子が、椅子に接着剤を塗るイタズラを受け、動けなくなってしまったところから始まる。犯人は不明だが、幸子はなんと、その時間が嫌いではない。
なぜなら、彼女が困っていればすぐに、担任のラブリンこと愛田先生が救ってくれるからだ。明るくて生徒思い、爽やかなイケメンの先生は皆の人気者。
幸子は母親が出て行った家で一人暮らしをしているのだが、事情を知って涙を流し、以来、何かと気にかけてくれる先生は、彼女にとっても「ナポレオン」のようなヒーローだった。
だが、そんな優しい愛田先生にはとんでもない秘密があった。
実は、幸子の椅子に接着剤を塗っていた犯人は、生徒を巻き込み「犯人探し」を行っていたほかでもない愛田先生その人だったのである――!
先生は、彼女に度を超えた執着心を持っていた。
彼女のスマホを盗聴し、カメラもハッキングして盗撮。GPSにも細工し、常に居場所を把握しており、いつどこにいても「守れる」準備を万端にしていた。
それだけではなく、幸子が眠っている自宅のベッドの下に、こっそり全裸で待機し、這い出てくることもあったのである……。
一つ気になったのは、愛田先生が、自身の亡くなった母親を幸子に重ねて見ていることだ。夫に蒸発され、金銭苦に陥り、幼い先生を救うために自殺した先生の母親。
母を守れなかった心の傷を、幸子の「ヒーロー」となることで、ふさごうとしている様子が垣間見られる。
とはいっても、幸子に意図的に不幸を起こし、彼女に恋した同級生をも「駆除」していく様はどう考えてもアウトなのだが……。
異常な行動を次々に取り続けるラブリン。彼が次にどういう行動を取るか予想できず、全身に鳥肌が立つ展開が待っている。終盤には先生の行動を不審に思うセクシーな養護教諭も動き始め、ますます冷や汗が止まらない。
画力も非常に高く、人の息づかいが聞こえてくるようなリアルさも感じられるので、迫り来る不気味さも尋常ではない。
「とてつもなく気持ち悪い」のにページをめくる手が止まらず、興奮のまま読み終えてしまった。人間の不気味さを芯まで味わいたい方におススメだ。ぜひ読んでみてほしい。
文=さゆ