発達障害の僕が「食える人」に変わった、「片づけ」の極意
公開日:2018/9/18
『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(借金玉/KADOKAWA)で、仕事や人間関係がうまくいかない人にも役立つライフハックを学びましょう。
●発達障害の収納は、 箱ひとつでいい
全く片づけられない、モノをすぐなくす……。典型的な発達障害の僕が、なんとかモノをなくさなくなったのは、ある「片づけハック」のおかげです。
それが「本質ボックス」です。本質ボックスは、本質のあるボックスです。本質を入れることができます。本質が入っています。
あなたのお部屋には「行き場のない物品」が溢れているのではないでしょうか。
例えば、引越しで家具を組み立てた後のドライバーセット。どこに置いておけばいいかよくわからないと思います。そして、あなたは思い立ってどこかにそれを収納し、二度と思い出しません。埋められたドングリは、時々芽を出して立派な爆弾に育ちます。「おいおい、あれがないと大変なことになるんだよ!」と言いながら部屋中を探し回った経験のない方はあまりいないと思います。
いざというときに必要な物がない。とても辛いことです。ええ、会社実印が契約当日見つからない。僕もそんな人生でした。ご融資いただく銀行の皆様に「ADHD」という概念を理解していただくのは難しいので、とても辛いことになりました。
はい、そこで便利な概念が「本質ボックス」です。本質ボックスは、100均ショップなどで購入することができます。
サイズは任意です。アクリル製でもダンボールでも、適当な箱を1個買ってください。行き場のない物品はとりあえずその中にぶっこんでおけばいいのです。使い終わって「どこに収納しようか?」と思ったら、本質ボックスにポーンです。
使用頻度の低い、居場所の定まらない物品は全てこの箱の中に放り込む。たったこれだけのことで生活が劇的に変わります。ちなみにこの命名は、この本を書くきっかけにもなった、大変重い発達障害と極めて高い知能を両立する方によるものです。「まさしく!」と思ったものです。とにかく、買ってぶっこめ。溢れたら整理しろ。それだけのことで、世界はとても大きく変わります。「本質ボックスの中にはある」という安心感は他に代え難いものがあります。
●本質ボックスが増えてしまったらどうする?
なおこのハックにはひとつ欠点があり、「本質ボックス自体が増えて本質を失う」という現象が起こりがちです。
僕のツイッターフォロワーが「本質ボックスです」とアップロードした写真には、10個を超える本質ボックスが写し出されていました。
これは大分本質を見失っている可能性があります。もう少しで本質ルームになってしまう。本質ルームは典型的な発達障害者の部屋ですが、ここまで大きくなると本質は失われてしまいます。本質にはサイズ的な制約があるのです。もちろん、その制約は個人差があります。
僕の場合、本質ボックスは3つです。それぞれの箱には「雑多」「仕事」「貴重品」と書かれています。「雑多」は最もサイズが大きく、「仕事」はそれに次ぎます。ドリルとか電ノコとかクランプとかが入っています。会社を経営していると必要になりがちですよね。
「貴重品」は小さめの箱で、さすがにこればかりは部屋のちょっとわかりにくいところに隠してあります。
サイズ的制約がないのであれば「部屋の中にありさえすればいい」ということになるので、このハックは不要になりますよね。しかし、あなたの部屋には小型ブラックホールがいくつか存在しているはずです。そいつらに大事な物品を吸い込ませないための本質ボックスです。
●使う頻度の高い物は「聖別」しよう
さて、「本質ボックス」は使用頻度の比較的低い物を収納するためのハックでした。では、使用頻度の高い物はどうすればいいでしょうか。
これについては僕もほんの数カ月前まで確定的なハックを出せずにいました。ジッポーライターも電子煙草もどこかに消えてしまう。万年筆もすぐに神隠しに遭ってしまった。それは仕方ないかな、100円ライターを使えばいいかな、と思っていました。アイコスは諦めるかな、ボールペンは安いのを使うかな……と。
しかし、これには例外があります。僕には「普段から持ち歩くが、そうそう紛失はしない物」が2つあるのです。「財布」と「スマートフォン」です。かばんを丸ごと紛失したことはあっても、僕はこの2つを紛失したことはありません。これは、冷静に考えるととても不思議なことです。使用頻度が高いのだから、紛失頻度も一番高いのが妥当なはずです。
この点についてツイッターに書いてみたところ、第n回緊急ADHD会議が持たれ(実にしばしば持たれます)、結構多くのADHDに共通する現象であることがわかってきました。「確かになくさない物品がある」という声が多数寄せられたのです。
この現象について僕は「聖別」という名前をつけました。よくわからない理由でとにかく他の物品とは違う位階を与えられた物があり、その数には個人差がある、と。僕は2つですが、3つ以上の人もいました。「車の鍵はなくさない」という人もいました。ちなみに僕はなくします。バイクの鍵が見つからないから電車で出かけるというのは、とてもよくあることです。
●おばあちゃん流「大事な物は神棚に置け」
この「聖別」を意図的に起こすことができれば、それは恐ろしく便利です。高価な万年筆を持ち歩くという長年の夢が叶う可能性があります。
僕はその方法について考えてみました。そこで思い出したのが、僕の祖母のことです。祖母は、大事な物品を神棚に置くという、僕にとってよくわからない行動をしていました。例えば、実印とか通帳とか中国株を運用する投資信託のあれとか(その後、それは面白い値動きをして面白いことになりました。本人はあまり面白くなかったかもしれないですが)。
よくわからない現象を起こすにはよくわからないこと、すなわち儀式をやってみるというのが世界的な原則です。そういうわけで、僕はとりあえず部屋に神棚を作ってみました。机のスペースの一部を仕切ってクリーンに保ち、「神棚」と名づけたのです。
そこにひとまず名刺入れ(最も聖別する必要のあるアイテムでした)、ネクタイピン、腕時計、スマートフォンの予備電源などを置いてみました。毎日帰ってきたらそこに置き、効果はよくわからないけれど毎日拝んでみました。祖母がそうしていたように。
僕自身も驚いたのですが、すごい効果が出ました。
僕はそれらの物をなくさず、必要なときに持ち出し、またそこに戻すことができるようになったのです。名刺入れとネクタイピン、それにボールペンは完全な「聖別」に成功し、定期購入する必要がなくなりました。ネクタイピンやペンは定期購入すればいいですが、「名刺入れ」は紛失すると場合によっては結構危ないので、これは本当に助かりました。おかげで、僕は現在ちょっといいペンを使っています。とても書き味が良いです。
「聖別」された紛失リスクの小さいアイテムを5個くらいまで増やすと、生活の利便性はちょっと信じられないくらい向上します。ツイッターでも「効果が出た」という声がいくつも見られました。ぜひとも試してください。
【著者紹介】
借金玉(しゃっきんだま)
1985年生まれ。診断はADHD(注意欠如・多動症)の発達障害者。幼少期から社会適応が全くできず、登校拒否落第寸前などを繰り返しつつギリギリ高校までは卒業。色々ありながらも早稲田大学を卒業した後、何かの間違いでとてもきちんとした金融機関に就職。全く仕事ができず逃走の後、一発逆転を狙って起業。一時は調子に乗るも昇った角度で落ちる大失敗。その後は1年かけて「うつの底」から這い出し、現在は営業マンとして働く。やが話題となり、初著書『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』を刊行する。
【書籍概要】
『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』
KADOKAWA
うつでもコミュ障でも必ず成果は出る!発達障害だから書けた「弱者の戦略」。自分は「大人の発達障害」なのでは、と悩む人が多いなか、その解決策を具体的に示した本は少ないのが現状です。本書には、発達障害当事者である著者が、試行錯誤と度重なる失敗の末に身につけた「本当に役立つ」ライフハックだけを詰め込みました。発達障害の人はもちろん、グレーゾーンの人、仕事や人間関係がうまくいかない人にも役立つ1冊です。