「朝起きて この世かあの世か 確かめる」ユーモアたっぷりの悲喜を詠む『シルバー川柳』が話題!
公開日:2018/9/20
自身の老いた悲哀エピソードにユーモアを織り交ぜて、五七五の言葉にしたため詠んだのが「シルバー川柳」だ。公益社団法人全国有料老人ホーム協会が主催し、2001年から毎年作品を募る。
『シルバー川柳8 書き込んだ予定はすべて診察日』(ポプラ社)には、悲しくも可笑しい珠玉の88句が収められている。たとえばこんな感じだ。
朝起きて 調子いいから 医者に行く
なんという矛盾だ。
「インスタバエ」 新種の蠅かと 孫に問い
このあと孫が「なんのこと?」と怪訝そうに顔をしかめる場面が思い浮かぶ。
また、シルバー川柳には世相を表現する作品も多い。
ここにきて 家族に退位 せまられる
来年退位される天皇陛下。そのタイミングでご一緒に、ということのようだが、誰がどこに退くのだろう?……いや、これ以上の詮索はやめておこう。
Siriだけは何度聞いても怒らない
テクノロジーの進歩に感謝したい。
シルバー川柳のもう1つの魅力は、お年寄り特有の日常をユーモラスに描き出すことだ。
うまかった 何を食べたか 忘れたが
悲しいなぁ。
見学会 昔は宅地 今は墓地
ご自宅に負けない立派なお墓を建ててほしい。
不都合な 事には耳が 遠くなる
知っていますとも。年を食うほど聞こえないフリが上手くなる。
怖いのは 妖怪よりも 要介護
……胸が痛くなるのでそろそろやめておこう。
本書に収められた作品は、いずれも身近な題材に笑いをこめ、「あるある」と共感できるものばかりだ。思わず吹き出したり、なるほどと深く納得したり、五七五につまる悲喜から“人生”を感じる。作家の佐藤愛子先生が大絶賛するのも頷ける。
歳を取ることは実に悲しいことだ。脳みそは衰え、目や耳が鈍くなり、四肢の機能が弱って動きが遅くなる。そしてシャキシャキ生きる若人たちは、そんな彼らを邪魔者扱いしがちだ。しかし、それでも体の老いに負けることなく周囲に明るく振る舞い続けるのが、年の功を得た年長者のあるべき姿ではないだろうか。
シルバー川柳で悲しくも笑える作品を詠みあげた彼らにはぜひ長生きしてほしい。ゆっくり楽しく余生を過ごしてほしい。
朝起きて この世かあの世か 確かめる
末永く幸せに暮らしてほしいところだ……。
文=いのうえゆきひろ
イラストレーション=古谷充子