「頼むから静かにして…」主婦心の叫びと名画がまさかのリンク!?
公開日:2018/10/10
毎日続く家事、育児。主婦なら誰でも共感できる、ちょっぴり愚痴りたくなる日常の「あるある」を、「名画」にのせてツイートする「#名画で学ぶ主婦業」がTwitterで大流行中だ。その話題のツイートと名画をまとめて楽しめる1冊が『#名画で学ぶ主婦業』(田中久美子:著・監修/宝島社)である。田中久美子氏は、フランス中世・近世美術史を専門とし、現在は文星芸術大学副学長を務めている。
日々の家事や育児に疲れはてながらも、黙々と主婦業をまっとうする主婦の姿と名画は、絶妙のツイートにより、ぴったり重なる! 聖母マリアであれ、英雄ナポレオンであれ、ヘラクレスであれ、名画の主人公は「主婦」として、生き生きと輝いて見えるからおもしろい!
泡立つ海から誕生したヴィーナスを天使が祝福する構図の「ヴィーナスの誕生」(アレクサンドル・カバネル)は、時の皇帝ナポレオン3世に買い上げられたもので、1863年サロン・ド・パリでアカデミー芸術の傑作とされた名作だ。5人の天使が、横たわるヴィーナスの上をふわふわと飛んでいる、この名画へのツイートは、
「おかーさーん」「ねーおかーさーん」「ねーねーってばー」「あのねあのね」「頼むから1分くらい静かにして。てかひとりにして……」。
さっき公園であれだけ遊んで疲れたのは私だけ…!?なんで寝てくれないの……
上半身裸で、3色のフランス革命旗を掲げる女性が印象的な作品「民衆を導く自由の女神」(ウジェーヌ・ドラクロワ)は、19世紀ロマン主義の傑作。画面中央のこの女性は「自由」を人格化した女神であるという。
息子が寝てTwitterに繰り出す時の私
バスティーユ(息子)陥落!自由は我が手中にあり!
どちらも、つかの間の自由を求める涙ぐましい母の姿が見事に名画とリンクしている。
「オフィーリア」(ジョン・エヴァレット・ミレイ)はラファエル前派の最高傑作である。シェイクスピアの悲劇「ハムレット」の一場面であり、恋人ハムレットを思うあまり狂い、小川に横たわって天に召されたオフィーリアと、苔や水面や花々が細密な写実描写で描かれている美しい作品だ。しかしまさかの「主婦あるある」で、小川はお湯の少ないお風呂に…。
皆が入り終わった残り少ないお湯で全身を温めることを決意。「嫁は仕舞い湯」っていつの時代の話だよ……でも節約節約……!
そのほか、「日曜日の夜に体操服出すのやめて」「もう2度とベビースター食わせない」「おまえ父親になった自覚あるんか(怒)」などなどの、主婦の心の叫びと名画、58作が楽しめる。
「#名画で学ぶ主婦業」の生みの親の、「吾輩はたぶん猫」さんは、主婦業が忙しくなかなか美術鑑賞に行けないという主婦。「日ごろの苦労を笑いにかえて、いろんな方と交流できるツイッターの存在がありがたい」と述べている。主婦の仕事の大変さを、名画とのリンクで笑いに変える、主婦はやっぱり強いのだ!
本書は、宗教画、神話画、歴史画、肖像画、風俗画/寓意画のジャンル別に分けられ、それぞれの名画の解説も掲載されている。ツイートに共感し楽しみながら、本書を西洋絵画の扉を開く一歩としたい。
文=泉ゆりこ