「売春」「ドラッグ」…なぜ人は闇社会に惹かれるのか
公開日:2018/9/30
「クレイジージャーニー」(TBS)や多数の著書で、スラム街や麻薬汚染地域など世界の危険地帯をルポするジャーナリスト、丸山ゴンザレスさん。彼が10年近く、定点観測のように何度も訪れたニューヨークについてまとめた『GONZALES IN NEW YORK』(丸山ゴンザレス/イースト・プレス)が発売された。
なぜ誰もが知る大都市ニューヨークに注目したのか。人が闇社会を恐れながらも覗き見したくなる理由、そして彼が次に掘り下げたいことについて聞いた。
■危険地帯ジャーナリストが、大都市ニューヨークに魅了された理由
──今回、なぜニューヨークをフィーチャーしたのでしょうか。
丸山ゴンザレスさん(以下、丸山):今年41歳になるのですが、30代に入ってから、多い時は1年に3回ほどニューヨークを訪れる機会がありました。もともとニューヨークにはすごく惹きつけられていたので、住人ではなく訪問者としてこの街を見て、まとめたいと思うようになりました。
それで、より深いニューヨークを追い求めた結果、ニューヨークの地下住民や売春地域、ドラッグ事情にたどり着くことができました。地下住民はテレビでも放映されましたが、それはごく一部です。この本には、取材の経緯や移民たちの日常など、実際に訪れ見て感じたものをまとめています。
──あくまで訪問者の視点なんですね。例えば3カ月だけ住んでみるということは、選択肢にはなかったんでしょうか。
丸山:街は訪れるたびに変化していくから、少し期間を置いて行くとまた濃い体験ができます。ニューヨークの滞在期間を線、訪れた場所を点として示すなら、長い線をいくつか描くより、たくさんの小さい点をこの街に落としたかったんです。しかも、自分が取材するようなアンダーグラウンドな場所は「初めまして。話を聞かせてください」では、取材できない。何度も会いに行って信頼を得て初めてたどり着けるようなところなので、何度も訪れることに価値がある。
実際「また来るよ」と言って、本当に実践する人は少ないんですよ。2回目に会いに行って「本当に来やがった」と驚かれ、それが3回目になると「次はいつ来るんだ」となる。語学留学などの目的があれば住むのもいいんですが、僕の場合は訪米を繰り返すことで、見えて来ることがあるんじゃないかと思ったんです。
──そもそも、ニューヨークという街に惹きつけられた理由は?
丸山:自分が20代、まだ編集者になる前に読んだ、ハロルド作石先生の『BECK』で表現されていたニューヨークに憧れたということもあります。それに、忘れがちなんですが、アメリカは世界第1位の経済大国で、特にニューヨークには東京の経済水準を超えた、想像もつかないリッチな世界があるし、世界中の人々が集まる多民族の大都市です。信じられない金持ちもいればホームレスもいる。その多様性が自分の感性や、常識を揺さぶったという理由もあります。
──都会よりも、東南アジアやアフリカ、南米などの奥地を渡り歩いているイメージがありました。
丸山:貧困国や第三世界だけを見ているといろんなことが偏ると思うんです。だから、振り子のように、先進国と貧困国を両方見ることで、感性の鮮度を高めておきたかった。それに、自分が魅了された街、ニューヨークをもっと掘り下げてみたかったんです。
──ご自身が40代に突入することが、今回、1冊の本にまとめた理由でもあるんでしょうか。
丸山:それもあります。40歳になるまでに、何かひとつでもこの街に何かを見出したいと感じていましたし、それをまとめることで青年時代の終わり、ひとつの区切りにしたいと思っていました。とはいえ、これからも同じスタンスで活動していきますが、40歳という年齢に間に合わせることができたのは良かったと思っています。
■「ニューヨーカー」を演じることで、世界が憧れる魅力的な街になる
──ニューヨークで、一番心を揺さぶられた瞬間は?
丸山:何をしても高いしどこも敷居が高いと感じていた街が、等身大に見えた瞬間があったんです。ニューヨークには、夜になると観光客が消える場所があるんですが、そこに労働者が仕事終わりに集まって、ハンバーガーを食べたりビールを飲んだりして騒いでいる。移民が多いんですが、そこに入り込むと「どこから来たんだ」と気さくに話しかけられて、ぐっと街が身近になりました。世界中の人が憧れるリッチな側面もあるけれど、これもひとつの街の姿です。ひとつの都市がいろんな顔を見せてくれることで、自分の感性を揺さぶられると感じた瞬間でもありました。
──アメリカは人種差別や経済格差など、大きな問題も抱えていますが、現地でそれは感じましたか?
丸山:すでに多くの有識者が語っていることですが、もともとアメリカが潜在的に抱えていた問題が顕在化しただけのことだと思いますね。トランプ政権誕生前夜にもアメリカに渡りいろんな人に話を聞いたのですが、ニューヨーカーは少し特殊でした。インテリ層のある人によると「ニューヨーカー」という言葉は、出身地を表すのではなく、ニューヨーカーであろうとするアティテュードなんだそうです。
だから、この街は自由な空気が維持されているし、他人に親切にしたりカッコいい自分であろうするのだ、と。ニューヨークは劇場みたいなところで、そこに住む人々が「ニューヨーカー」を演じています。たとえ演技だとしても、理想のアメリカを作り出そうとすることはすごく素敵だし、そうあるべきなんじゃないでしょうか。日本も、戦後75年近く戦争に加担していない「平和立国」というレッテルを、自分たちで必死に貼ろうとしている。でも、それを自分たちで演じることがいかに大事なことか。人間は、生まれながらの平和主義者ではありません。でも、たとえ本質は変えられなくても、「そうあろうとする」ことで、表面だけでも演じることが大切なんじゃないかと思うんです。
──そういう意味では、テレビ出演によって「丸山ゴンザレス」を演じることが増えたと思いますが、ワイルドな風貌でも、うっかり犬の糞を踏んじゃうというギャップをいじられることもありますよね。
丸山:まあ、それはしょうがねえかなぁと(笑)。強面だからといって、強面のままでいてもしょうがないですから。意地を張らずに、負けは負けと認めるということでしょうかね。ただ、勘違いして街中で「おい、ゴンザレス! ウンコ踏んでんのか?」とか言われたら、しっかり無視しますよ。僕は意外と常識人ですから(笑)。
■見えないものは怖い。だから闇社会を覗きたい
──今後も、闇社会やアンダーグラウンドを探るのは、活動のテーマなのでしょうか。
丸山:そうですね。チャンスやコネクションがあるのなら、そこに近づいてその実態を調べたいですね。
──それは単純に隠された部分を見たいという好奇心?
丸山:それが全てです。僕は、「知りたい」というシンプルな動機以外の理由を持たないようにしているんです。基本的にひとりで動いているので、誰かに自慢したいとか、微妙に込み入った他の理由があると、それが途中で諦める言い訳になりそうで。知りたいというシンプルな動機だけの方が、物事を掘り下げられると思っています。
──そうやって果敢に切り込んでいく丸山さんを、読者や視聴者は楽しみにしているわけですが、闇社会が人々を惹きつける理由はなんだと思いますか。
丸山:まず、人間はひとりではなく集団で生きる生き物です。集団で生きるということは、どうしても矛盾が生まれるわけで、その矛盾を解消する装置として、裏社会や闇社会が存在せざるを得ない。きれいな世界を作ろうとしても、手を汚す人間が一定数生まれてしまうことは、歴史も証明しています。今の社会もそうですよね。そして、それを知りたいのは、人間の本質的な心理だと思うんですよ。人間は本質的に暗闇を怖がります。それと同時に、怖くて見えないところに何があるのか気になってしまう。だからこそ知りたいし、知っている人がいたらその話を聞きたい。犯罪や闇社会は秘匿されているものだから、それを明らかにしたいという欲求が生まれるんじゃないでしょうか。
──これから、探っていきたい場所や人は?
丸山:実は、最近「イケメン」に興味があります。というと誤解されそうですが、友人の編集者から相談を受けて、雑誌のリニューアルに参加したんです。『オーディション・ブルー』(白夜書房)という雑誌なんですが、芸能界のメインストリームの真ん中を走っている俳優さんたちに会って話を聞いています。
僕はどうしてもアンダーグラウンドやサブカルチャーの人間だと思われているし、自分でも自覚しているんですが、どメジャーの俳優さんにも会ってみると学ぶことがたくさんあるんですよ。メディアの見方がだいぶ変わりました。だから、好奇心を軸に動きさえすれば、新しい興味は生まれるもんだなと思いました。
──ニューヨークの定点観測は継続するのでしょうか。
丸山:もちろん。まだ見れてないところもあるし、ニューヨークで革ジャンを買わないと。
──え? 革ジャンですか?
丸山:Schott(ショット)のレザージャケットです。エスニックタウンの料理も全部制覇してないし、ブルックリンは結構歩いたけど、ブロンクスはまだ行ってないところもあるし、ジャージーシティや南の方とか。ニューヨークあたりは、廃墟や廃路線もあるし、ニューヨークを起点、そして通過点としていろいろ見て歩きたいですね。
──ちなみに、西海岸は?
丸山:西海岸もちょこちょこ行ってまして。メキシコ、アメリカ、カナダをひとくくりにして、ウェストコーストをひとつの海岸として旅したいっていう構想があるんですよ。でも、まだ発表するメディアが決まってないので「ぜひうちで」という方がいましたらご連絡ください(笑)
取材・文=松田美保