織田信長はトレンド大好きなスイーツ男子ってどこまで本当? 『信長の忍び』副読本!
更新日:2018/10/1
「私、信長様の忍びになります!」――。天下統一を目指す織田信長に仕え、太平の世を築くために尽力する少女忍び・千鳥の活躍を描いた4コマギャグマンガ『信長の忍び』(重野なおき/白泉社)。信長をはじめ、木下藤吉郎(のちの豊臣秀吉)や明智光秀など、戦国武将たちをコミカルに描きながら、戦国時代の乱世を生きる人々の生き様をドラマチックに描写しており、2016年からTVアニメ化されたシリーズは現在、第3期まで放送されている。
『マンガで攻略! はじめての織田信長』は、そんな『信長の忍び』をベースに、戦国時代を楽しく学べる副読本だ。執筆したのは日本史の塾講師も務める歴史コメンテーター・金谷俊一郎氏と、原作の取材協力も行っている歴史ナビゲーター・長谷川ヨシテル氏。8月29日にはシリーズ2作目となる『マンガで攻略! はじめての織田信長2 本願寺と武田信玄に挑む』も発売された。こちらは1570年から3度にわたって繰り広げられた“信長包囲網”による攻防と、宗教勢力・本願寺や戦国大名・武田など、信長の前に立ちはだかる強大なライバルとの戦いを中心に解説している。
本書は『信長の忍び』で描かれたストーリーの背景にある歴史的状況を補足して伝えると同時に、日本史が苦手な人でも親しめるように、戦国武将たちの意外な素顔や真実をエピソードなども交えながら紹介しているところが特徴だ。たとえば、織田信長と聞くと、「比叡山の焼き討ち」のように冷酷無比で恐ろしいイメージを抱きがちだが、武田信玄や上杉謙信といった強い相手にはとことん低姿勢で、高価なプレゼントを贈ったり、婚姻関係を結んで同盟を維持したりと外交的努力をしていて、何とか合戦を避けようとしていた様子がうかがえる。
また、信長には無類の「スイーツ好き」説があって、ポルトガルからやってきた宣教師たちに干し柿を配ったり、逆に彼らからの献上品に金平糖をリクエスト(?)したり、四国統一を目指す長宗我部元親が信長との対立を避けるために砂糖1800㎏を贈ったりと、さまざまな“甘い”逸話も残っている。当時、砂糖はとても高価だったため献上品に適していたという考え方もあるが、『信長の忍び』にもあった「実は天下統一ではなく天下“糖”一を目指している」などのネタと合わせて、信長の思わぬ一面に親しみが持てるのではないだろうか。他にも本書では、織田信長を悩ませた一向一揆を掌握していた本願寺顕如や、戦国最強とうたわれた武田信玄など、さまざまな武将たちが紹介されている。
まったくの余談だが、本書でも解説されている武将の中に、森可成という人物が出てくる。信長の尾張統一時代から付き従った古参の武将で、フィクションの世界で人気の高い信長の小姓・森蘭丸の父親だ。実は、筆者の実家が岐阜県にある森氏の菩提寺で、境内には森可成をはじめ長可、成利(蘭丸)、長隆(坊丸)、長氏(力丸)といった一族の墓がある。自分自身、日本史に興味を持つ大きなきっかけになった武将だったこともあって、数ある歴史マンガでも珍しい、可成を強くてイケメンというキャラクターとして描いた『信長の忍び』にはとても親しみを感じていた。可成が討ち死にした宇佐山城の戦いのエピソードも、悲劇ではあるものの見せ場が得られたことを密かに喜んだ思い出がある。
こうして自分の身近な何かと接点を見つけることで、日本史はぐっと面白くなる。そういう意味で『信長の忍び』は、戦国時代に親しみを持つ良いきっかけになるマンガだ。『信長の忍び』で描かれた戦国時代の基本的な流れを本書で学びながら、より深い日本史の世界へと浸ってみてはいかがだろうか。
文=小松良介