“ごみ捨て場”と呼ばれた終末期病棟で、看護師が見た現実とは?
更新日:2018/10/9
医療に携わる人たちは、誰もが「人の命を救いたい」と考えているだろう。だが、命を救うことができない現場がある。それは、病気や怪我、老衰などが原因で“もう助からない”患者たちが集まる終末期病棟だ。そこで働く人たちは、その患者たちの最期にただ寄り添うことしかできない。
本稿で紹介する『お別れホスピタル』(沖田×華/小学館)は、“ごみ捨て場”と呼ばれた終末期病棟を舞台に、2年目の看護師がさまざまな人たちの“死”を目撃する衝撃的なマンガだ。作者は、先日NHKでドラマ化もされた『透明なゆりかご』(講談社)の沖田×華(おきた ばっか)さん。産婦人科医院での“生まれてくる命”を描いてきた彼女は、本作では“死にゆく命”のあり方を描く。
終末期病棟の現場は、過酷の一言に尽きる。まず、患者とコミュニケーションをとることがむずかしい(患者からの暴言、暴力、セクハラは日常茶飯事のようだ)。それに、話しやすい“お気に入り”の患者を見つけたとしても、すぐに亡くなってしまうから余計に虚しさがつのる。目の前で患者が亡くなったときは、その看護師が“死後処置”を行い、遺体を葬儀業者に引き渡す…そんな日々の連続だ。こうした環境に耐えかねて、新人はたいてい1年くらいで辞めてしまう。
主人公の辺見は、そこでさまざまな患者の“死に様”と向き合うことになる。カントリーマアムを1日中ねだる「カントリーばあちゃん」。自分のことを今でも軍人だと思っている「軍曹」。病院でも祈りを続ける元教祖のおじいちゃん。男性ヘルパーに反応して大声で下ネタを叫ぶおばあちゃん…。理性のタガが外れはじめた患者たちからは、抑えきれない“生(なま)の感情”があふれ出している。皮肉なことに、それはとても人間らしい思いばかりで、何より彼らが生きていることを証明している。
辺見は、忙しい日常の中でなるべく患者の“死”を受け止めようとする。だが、その最期は当然、安らかなものばかりではない。読者である私も、いずれ必ず来るであろう“自分の死”を想像せずにいられなかった。
文=中川 凌