日本人の4割が蝕まれている“自覚のない病”…世にも恐ろしい睡眠負債の真実
公開日:2018/10/4
現代人は忙しい。平日は仕事や学校で長時間拘束されているし、家に帰れば家事がある。それに、家族や恋人と過ごしたり、趣味に打ち込んだりするプライベートの時間だって大切だ。
しかし、1日は24時間しかない。そこで、私たちはしばしば睡眠時間を犠牲にし、無理やり活動時間を捻出しようとする。
ところが、である。人間の健康と睡眠に関するさまざまな科学的研究が行われてきた結果、睡眠不足は恐ろしい害を人間の体や脳にもたらすことがわかってきた。
これは、徹夜だとか、1日の睡眠時間が5時間以下だとか、そんな極端な睡眠不足に限った話ではない。1日わずか1時間の睡眠時間の不足も、長期間積み重なっていけば大きな健康上のリスクになりうる。
どうやら睡眠を軽視することのツケは、私たちのイメージよりはるかに大きいらしい。そのことを教えてくれたのが『命を縮める「睡眠負債」を解消する 科学的に正しい最速の方法』(白川修一郎/祥伝社)である。
著者は睡眠研究のパイオニアとして知られ、「睡眠負債」という概念を日本に定着させるのに一役買った人物だ。
ここで、睡眠負債という言葉の意味について、本書の記述を借りて簡単に紹介しよう。
英語では「sleep debt」。睡眠負債とはこの英語を直訳したもので、ただの“睡眠不足”という以上に、睡眠不足の累積(=負債、借金、債務)という“返済すべきもの”といったニュアンスを含んでいます。つまり睡眠不足は、その日だけの問題ではなく、解消しなければ毎日積み重ねられていく怖いものなのです。
「睡眠負債」は2017年には、ユーキャン新語・流行語大賞トップ10に選ばれた。それは裏を返せば、私たち日本人の多くが睡眠に関する問題を抱えている証拠ともいえる。
1日の睡眠時間が6時間未満という日本人は、20歳以上に限っていえばなんと4割近くにも上る。一方、多くの人にとって最適な睡眠時間は7時間前後だということが研究からわかっている。つまり、日本の大人の多くが、毎日1~2時間の睡眠負債をためているということになる。
「5時間睡眠だけど元気に過ごしている」という人も、一度自分の生活を見直してみるべきだ。「睡眠の質がよければ睡眠時間が少なくても大丈夫」という話は、どうやらあまり信用しないほうがよいらしい。
本書に紹介された自治医科大学の研究によれば、毎日の睡眠時間が6時間以下の人の死亡率は、7~8時間の人のなんと2.4倍という結果が出ている。本書のタイトルにもある通り、睡眠不足はまさに命を縮めるのである。
短時間睡眠でも大丈夫というショートスリーパーも確かに存在するが、ほとんどいないというのが実情らしい。もし、いたとしても完全に遺伝的な体質によるものであって、努力によって後天的になれるものではない。普通の人はショートスリーパーを目指すのではなく、とりあえず7時間前後の睡眠時間を確保することを考えたほうが賢明だろう。
睡眠には、血圧を下げる、脳や交感神経を休ませる、成長ホルモンの分泌を促して体を回復・成長・発達させるなど、私たちが思っている以上に多くの役割がある。さらに、最近では、認知症の原因物質の脳への蓄積を防ぐ働きがあることもわかってきた。それは逆に言えば、睡眠負債の持つリスクがあまりにも大きいということでもある。
睡眠負債は生活習慣病、認知症、肥満、うつなどあらゆる病気を引き起こす可能性がある。たとえ、すぐには病気にならなかったとしても、脳へのダメージは深刻だ。
睡眠が足りないと脳がうまく働かなくなり、集中力ややる気、注意力、感情をコントロールする力などが低下する。当然仕事や勉強でのハイパフォーマンスは望めない。さらには、交通事故などの思わぬ事故にも遭いやすくなるという。
睡眠をおざなりにして活動してもメリットどころか、むしろデメリットしかない。睡眠はまさに、心身ともに充実した毎日を送るための要なのだ。本書に書いてある具体的なアドバイスも参考にしつつ、いかに睡眠負債をためない生活を送るか。その心がけが最終的に、私たちの将来を大きく左右することになるのだ。
文=紀村真利