佐野玲於「『自分には余計な情報がいっぱいあったんだ』と気付いた、ロケ地・カウアイ島での時間は自身を見つめ直す時間にもなりました」
公開日:2018/10/7
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、村上春樹、屈指の感動作を映画化した『ハナレイ・ベイ』で、サーフィンに明け暮れる思春期の息子を演じたGENERATIONS from EXILE TRIBEの佐野玲於さん。「役者としての自分の分岐点となった」と語る同作について、そしてパフォーマーとしてキャッチしていることについてお話を伺った。
「アートは情報を内包しているので、それを見ているか、見ていないかで、自分の感覚は全然違うものになってくると思うんです。見てきたものが、自分のクリエーションに活かされると思うので、できるだけ触れるようにしています」
ファッション、音楽……クリエイターたちを刺激し、その世界観からは多種多様なものがインスパイアされてきた。お薦め本として選んでくれた日本マンガカルチャーの先駆け、大友克洋『AKIRA』を佐野さんはアートとして愉しんでいる部分が大きいという。80年代に生まれたその作品に感じるのは“新しさ”。
「音楽やファッションにおいても、最先端の新しさとは過去を辿ることだと思うんです。それは、ずっとルーティーンで回ってきているものなので。音楽もダンスも10年周期。新しいことを追いかけていくと、また戻ってくる。クリエーションの答えって過去にあるんですよね。『AKIRA』はそういうことも感じさせてくれる作品なんです」
映画『ハナレイ・ベイ』で、“私は、彼のことが好きではなかった”と、シングルマザーで彼を育ててきた母が回想する、サーフィン中にハワイで死んだ息子・タカシを演じるときは、自分自身の過去のことを辿っていったという。
「松永監督に“憎たらしい息子でいてくれ”と言われました。そんな息子を演じるために、自分の身勝手な子供の部分や思春期に抱いていたイライラを辿っていきました。通じる部分がいっぱいあったんですよね、タカシとは。僕もひとり息子で母子家庭育ち。タカシは18歳でひとりハワイへサーフィンに行った。僕も19歳のとき、ひとりでロサンジェルスにダンスの修行に行った。そうしたことを思い浮かべ、そのときの気持ちを掘り起こすうちに、どんどんタカシという人物が演りやすくなっていきました」
吉田羊演じる母・サチの回想のなかで動いていくタカシ。ハワイ・カウアイ島の大自然のなかにいる彼の表情は、そこにある空気と溶け込むような心地よさを連れてくる。
「環境に喰らいました、カウアイ島の。山を見ているだけで涙が出てきてしまったんです。島にはいい意味で人と自然しかなくて、そこで暮らす人たちは無駄なものを削ぎ落として、自分の人生をしっかりと生きている。そんな環境に身を置いたとき、僕には余計な情報がいっぱいあったんだと気が付いた。撮影で行ったカウアイ島での時間は、自分自身を見つめ直す時間にもなりました」
10年間、タカシの命日の頃にハナレイ・ベイを訪れていたサチも、自分自身のなかの大切なものを見つめ直していく。
「喪失するということは、改めて人にとって大きなことだと思いました。この映画のクライマックスは、観る方によって受け取り方もそれぞれだと思うのですが、僕はすごく愛情を感じました。大切な人に会いたくなった。エンドロールが流れている頃、きっと大切な人の顔がご自身のなかに浮かぶと思います」
(取材・文:河村道子 写真:干川 修)
映画『ハナレイ・ベイ』
原作:村上春樹(「ハナレイ・ベイ」『東京奇譚集』所収 新潮文庫刊) 脚本・監督:松永大司 出演:吉田 羊、佐野玲於、村上虹郎、佐藤 魁、栗原 類ほか 配給:HIGH BROW CINEMA 10月19日(金) 全国ロードショー
●ハナレイ・ベイでのサーフィン中、鮫に襲われて息子は死んだ。シングルマザーのサチはそれから10年間、彼の命日の時期にその湾を訪れる。そこで出会った2人の若い日本人サーファー。彼らから“ある話”を耳にする──。
(c)2018 『ハナレイ・ベイ』製作委員会