倉科カナ「“あいあい傘”というタイトルに込められている想いが愛おしい。それは私の結婚観、家族観にも重なってきます」
公開日:2018/10/8
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『あいあい傘』で、生き別れてしまった父に25年ぶりに会いにいく娘・さつきを演じた倉科カナさん。切なくも心に沁みる作品の撮影現場でのこと、そしてそこに重ねたみずからの女優として、女性としての想いとは――。
「森絵都さんの『カラフル』、小路幸也さんの『空を見上げる古い歌を口ずさむ』など、私はどこかファンタジックな空気の漂う物語が好きなんです。今回、お薦め本として選んだ恩田陸さんの作品にもそうしたテイストのものが多くありますよね」
小・中・高校時代は、自転車で図書館へ行き、借りられるだけ借りて、一週間以内にすべて読み、再び借りに行き……という、本のある日々を送ってきたという。
「小学校の先生に、読書の楽しさを教えていただいて。入口は江戸川乱歩の『怪人二十面相』でした。夢中になって、次から次へとそのシリーズを読んでいましたね」
「けれど女優になってから、なかなか以前ほどには読めないんです」と、ちょっと寂しそう。
「いったん撮影に入ってしまうと、申し訳なくなってしまうんです、台本に対して。撮影の待ち時間などに、本を読む時間はあるのですが、“その時間があるなら、もう一回、台本を読み直したらどうなの?”って、もうひとりの私が言うんです(笑)。だからひとつの撮影が終わり、次の作品に入る前の時間には、たっぷりと読書を愉しみます。“今だ!今しかない”って(笑)」
女優という仕事にも、読書に対しても、真摯な姿勢で臨む倉科さんの素顔が、そんなエピソードからうかがえる。幼い頃から読書に親しんできたのは、やはりどこかに“飛びたい”という気持ちがあったからだそう。
「自分が今いるところから飛びたかったんでしょうね。ですから役として違う世界を生きる、この仕事はぴったりだと思っています」
映画『あいあい傘』でも、物語のなかを“生きる”ということを大切にしたという。
「自分の境遇とどこか重なってくるさつきちゃんを演じるとき、あまり役作りにとらわれないようにしたいと思いました。そこで宅間監督に初めてお会いしたとき、“ただ、父に会いに行く、という気持ちだけで現場にいていいですか?”ということをお伝えしたんです」
そのシンプルな気持ちが、映画ではさつきの感情の揺れを連れてきている。これほどまでに、倉科さんの様々な表情を見たことがないというほどに。そして、その表情は観る側に刺さってきたり、問いを投げかけたり、浸透してきたり――。
「監督が“倉科さんの代表作にしたい”とおっしゃってくださって。本当に愛のある撮影チームでした。市原隼人くん、高橋メアリージュンちゃんなど、共演には同年代の方も多かったので、現場も毎日楽しかったですね」
市原隼人演じるテキ屋の清太郎が、“縁があれば、また会える”と語るシーンがある。心に沁みた、その言葉には不思議な“縁”も感じたという。
「連続テレビ小説『ウェルかめ』に出演していたときのセリフで、沢山ある中で、一番に記憶に留めているものがあるんです。それは“縁がつながるところが道だよ”というセリフ。それを私はずっと大切にしているんです。縁がつながっていたから、私は女優として10年演じてこられ、そして今、ここにいる。ひとつひとつの縁を大切にしていきたいという気持ち、そしてそうしたことを、ていねいに描いたこの映画のなかに、私は希望を感じているんです」
“愛と愛がひとつになって「あいあい傘」”。タイトルに込められた意味にも。
「別々の傘で歩いていれば、行きたい方向が違っても、すぐに別の道を行くことだってできる。けれどあいあい傘はそうじゃない。互いを気遣って、肩を寄せ合って――それは私自身の結婚観や家族観にも重なります。つらいことや困難を一緒に乗り越え、そのとき、相手をどう気遣えるか。映画の最後に出てくるセリフにはそれが籠っている。私もそのように生きられたらいいなぁと思っているんです」
(取材・文:河村道子 写真:山口宏之)
映画『あいあい傘』
監督・脚本:宅間孝行 出演:倉科カナ、市原隼人、立川談春、原田知世ほか 配給:S・D・P 10月26日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー●恋園神社のある田舎町に祭りが近づいた日、さつきは25年前に姿を消した父の六郎を探しにやってきた。六郎を知るテキ屋の清太郎と出会い、町を散策する。そこで次第に明らかになる六郎の生活。さつきは意を決して、父の新しい家族に会いに行こうとする──。
(c)2018映画「あいあい傘」製作委員会