こんな「プーさん」見たことない! ピグレットとはボケ合い、毎回噛み合わないままシュールなオチへ…
公開日:2018/10/17
赤いシャツを着た、はちみつ好きなくまのぬいぐるみ、「くまのプーさん」。世界中で愛される“プーさん”だが、ストーリーをきちんと知らないという人は多いのではないだろうか。その“プーさん”の北米版のマンガが、初めて日本語訳され、『くまのプーさん オリジナルコミックス日本語訳版』(翻訳:和波 雅子/KADOKAWA)として発売された。本書は1970年代~80年代にかけて北米で連載された英語版をそのままに、日本語翻訳も同時に掲載するという、通常のマンガとは少し変わった体裁をとっている。
早速、プーさんの愛らしい表紙に惹かれ、読み始めると、このマンガがただ可愛らしいだけではないことがすぐにわかる。
プーさんは親友であるクリストファー・ロビンや、小さなブタのぬいぐるみのピグレット、トラのぬいぐるみのティガーなどの仲間たちと共に100エーカーの森でのんびりと楽しく暮らしている……と思いきや、その会話が実にシュールで、哲学的なのだ。表紙や絵柄からほんわかとした日常を想像していると不意に「やられた!」と思わせるような、ブラックジョークが飛び出てくる。
思わずハッとさせられるような鋭い言葉で惹きつけられたあとに、日常の和やかな雰囲気や仲間想いの描写に癒される。プーさんと森の仲間たちは、辛さと甘さをバランス良く味あわせてくれるのだ。
さらに読み進めると、プーさんも100エーカーの森に住む仲間たちも、どこか少しずつズレていることがわかる。きっと100エーカーの森には我らの常識とは違う、もっと自由で気ままな思想が存在しているのだと思う。愛らしいキャラクターたちが思い思いのまま動き、あるがままに好きなことをする。それがまたなんとも可笑しく、クスっとさせてくれる。
コミックに収録されたエピソードの中では、基本的にプーさんと仲間の誰かが掛け合いをしていることが多い。森に住まう多くの仲間のなかでも、最もよく一緒にいるのがピグレットだ。プーさんとピグレットは大の仲良しなのだが、お互いに軸がズレているため、会話内ではボケ合い、噛み合わないまま、毎回シュールなオチを迎える。なんとも不思議な世界観だ。読者は100エーカーの森に迷い込んでしまったような気持ちになる。しかし、読み進めるたびにその感覚がとても心地良く感じてくる。
本書は不思議な魅力がぎっしりと詰まった、じつに読み応えのあるコミックだ。
長年の時を超えても、今なお多くの人々に愛され続けるプーさんの原点はこんなに魅力的だったのか! と驚いた。また、プーさんはアニメ化されるだけではなく、ゲームなどにも登場し、最近ではなんと実写映画化もされている。
2018年9月公開の実写映画である「プーと大人になった僕」を観る予定がある方は、劇場に行く前にぜひ本書を読んで欲しいと感じた。プーさんの原作で新たな一面を知ったあと、映画を観れば、きっと数倍深く楽しめるだろう。
プーさんの世界はじつに自由で気ままで、何も小難しいことがない。晴れた日はおしゃべりしたり、遊んだり、散歩をする。美味しい物を食べて、新しい遊びを見つけたり、たまに哲学的なことを考えてみたりもする。そして雨の日は何もしないで寝る。じつに楽しそうだ。何とも羨ましい!
100エーカーの森に迷い込んでみたくなったら、ぜひ本書を手に取ってみよう。
文=ホリアヤ