「好き」の気持ちはどこへ向かう?――『やがて君になる』キャスト対談:高田憂希×寿美菜子(後編)
更新日:2018/10/12
10月5日から放送をスタートした、TVアニメ『やがて君になる』。原作の中で繊細に描かれる登場人物たちの心情を丁寧にすくい、『やが君』ならではの美しい背景をいきいきと映し出した第1話は、まさに「原作通り」。ここまでやるか、と思わされる、出色の第1話であったと思う。そして、その印象をより強いものとしているのが、小糸侑役・高田憂希と、七海燈子役・寿美菜子による、劇中のやり取りだ。インタビュー中でも、最初のPVを収録する際に加藤誠監督が「燈子さんと侑さん、まんまですね。安心しました」と述べたというエピソードが披露されているが、ふたりが体現する侑と燈子の言葉は、ごく自然に、しかし同時に確かな手応えを伴って、観る者に届いてくる。キャスト対談の後編では、収録中のエピソードを端緒に、お互いに対して思うことや、ふたりで歌うエンディング主題歌について、話を聞いた。
燈子さんの「わかった、気を付けます」が……想像より100倍くらいかわいくて!(高田)
――高田さんにお聞きしたいんですけど、劇中で燈子から言われた言葉で、はっとしたセリフがあれば教えてもらえますか。
高田:第4話で……(収録に使った台本を見せながら)ハートマーク書いちゃってるんですけど(笑)。
――おお、これはすごい(笑)。
寿:(笑)そうだそうだ、思い出した!
高田:ほんとになにげない一言だったりするんですけど、燈子さんと侑がふたりで帰っているときかな、「ちょっと距離が近いです」って言うところで、無自覚な燈子さんに対して侑が「ちゃんと距離取ってくださいよ」って言ったときの、燈子さんの「わかった、気を付けます」っていう一言、二言が……ひとりで台本を読んで想像していたより、100倍くらいかわいくて!
一同:(笑)。
高田:超かわいくて、「うそ!」ってなって。侑としてはここでほっぺがゆるんじゃダメなんだけど、「もう、緩む!」みたいな(笑)。ここ、侑もちょっと「んっ」ってなったんじゃないかと思うくらい、ほんとにかわいさが詰まっていたので、「これは永久保存だな」って思いました。アニメで観るときも、意識して観てみようと思います。
寿:意識させないように、というお気遣いをいただき、全部録り終わって、「ここ、すごい好きなんです」ってハートマークを見せてもらって。「おお、めっちゃハートついてるね!」みたいな(笑)。すごく嬉しかったです。アフレコ中も毎回、みんなで「ふぅー、言ったね!」とか「次の話数、どこまでいくの!?」みたいになるんですよ。収録は女子ばっかりで、もちろん男性もいるんですけど、男子が「ひゅーひゅー」って言ってる感じで、女子が「ひゅーひゅー」って(笑)。
高田:男性の方々のほうが、ちょっと照れちゃうみたいです。
寿:ほんとにありがたいことに、1話限りだったり、いろんな役で出てくださった方々が皆さん、「すごくいい作品だね」って言って帰ってくれるのが、個人的にも嬉しくて。「楽しみにしていてください」「ぜひ観てください」って思ってるんですけど。
――寿さんが侑のセリフにハートマークをつけたところは?
寿:わたしの台本、淡泊なんですよ(笑)。
高田:(笑)。
寿:侑って、いっぱいしゃべってるじゃないですか。それこそモノローグで、本心では「はい」って言ってるけど裏では別のことを思ってる、みたいなことがいっぱいある中で、そのモノローグがわたしは好きで。3話になるのかな、燈子がお土産を持ってくるくだりがあるんですけど。
――書店のレジにいる侑に渡しに来るシーンですね。
寿:そう、侑にミニプラネタリウムを渡しに来て。わたし自身、燈子を演じているからでもあるんですけど、それを家でちゃんと使ってくれてることが嬉しかったですね。「ちゃんと開けてくれたんだ」って。まず点けて、「きれいだな」って見上げて、燈子のことを思い出してくれるシーンなんですけど、侑が「自分もそういう気持ちになれるのかな」「いつか届いたりするのかな」って言ってるところは、「ほんとは思ってくれてるんだ」っていう嬉しさがあったので、わたし的には「なしじゃないんだな」と思って、ちょっとやる気になるっていう――「何に?」みたいな感じですけど(笑)。「燈子の熱量はここで持っていけばいいのね」っていう気持ちになりました。侑のモノローグは、ほんとは聞いてないふりしてなきゃって思うんですけど、台本を読んだり、アフレコでしゃべってるところを聞いてると「ああ、嬉しいなあ」って思ったりしますね。
――お土産を渡すシーン、確かに印象的ですよね。侑の「どれだけわたしのこと好きなんですか」っていう言葉もなかなかインパクトあったし。
寿:そう、これも「強気だねえ」と思っていて。このセリフは、「人生で言うことあるかな」って話をしてたよね。
高田:しました、「人生で言うことなさそう」って。
寿:すごく好きなシーンです。
――では、一緒に収録をしていて、お互いの「ここがすごいな」と感じるところはどこですか。
寿:侑って、最初は憂希ちゃんも悩んでいたところではあると思うんですけど、モノローグの部分が重くなるというか、「ほんとはこう思ってる」って吐露してるので、シリアスな感じになりがちだったりするんですね。その中で、監督は「そこはもうちょっとライトに」っていう話をしてくださるんですけど、PVを撮ったときから「重すぎず軽すぎず」っていうところが、「すごく難しいことだな」って思いながら聞いてて(笑)。
でもそこで「こうですか? こうですか?」っていろんなパターンを憂希ちゃん自身が投げかけて、常に提案をしてるんですね。しかも、瞬時に理解して出しているのがすごいなって思って。対応力があるというか。人によっては、「ちょっと考えさせてください」って時間を置いてからできる人もいるし、アプローチの仕方はいろいろある中で、こんなにレスポンス早くできる人はなかなかいないなあって思うし、それでも常にちゃんと侑がいるところがすごいなあって思いながら……見てますよ?(笑)
高田:ありがとうございます。
――先輩に大絶賛されましたね。
高田:本当に恐縮してます。わたしが思う美菜子さんのすごいところは、まず人として、とっても魅力的な方だなあ、というところです。とっても天真爛漫というか、笑顔がすごく明るくて、まわりの人のこともすごく見ていて、でも自分が思っていることや表現したいことに対してはまっすぐで。美菜子さんが演じるからこそ、燈子さんの魅力が100%、いや120%引き出されているなあって、一緒にやっていて思います。それこそ、原作を先に読ませてもらって、「燈子さんはこんな声なのかな」って想像していたあの頃――あの頃って(笑)。
寿:(笑)うん、あの頃ね。
高田:そこから今、一緒にやっていて、「ほんとに燈子さんがそこにいる、なんなら自分が想像していた燈子さんよりも燈子さんだあ」みたいな――表現が難しいんですけど、そう思ってしまうくらい素晴らしいな、と思っているんです。心を開いている沙弥香さんと会話するとき、身近にいる方と会話するとき、特別な感情を持つことができた侑と会話するときの心の距離感って、それぞれすごく繊細な演技だと思うんですけど、それが表現されていて。だから侑をやっていても、なんの迷いもなく燈子さんと会話できるというか。「そうだよな、燈子さんってこういう人だよな」という印象を第1話のときから感じていて、そこが本当にすごいな、と思います。
――この作品だからこそ引き出されている自分の新たな一面はあったりしますか?
寿:燈子は自然にできすぎていて、自分が「ここかな」って思った表情をしてるんですよ。こういう流れだったら燈子はこういう気持ちで、こういう顔をするのかなっていう想像とわりと一致してくるので、もしかしたら思考回路が一緒というか、似ている部分があるのかもなって思いますね。違和感なく馴染めてるので、ドハマりした感覚も抱かないくらいナチュラルな印象だったりします。
高田:わたしもほんとに自然なまま演じさせてもらっていて、「今のは、侑にしてはちょっとはしゃぎすぎたかな」と思ったところも、そのまま受け取っていただけるので、「これでいいんだ」と思えるというか、思わせてもらえる現場です。わたしは、今まではわりとキャラクターを「こういう子だよね」ってガチガチに作り上げてから、現場に入って修正をしてたんですけど――。
――事前に作り込むのは、そうしておいたほうが安心だから?
高田:はい、そうです。役者として、自分ではない人を演じるところが第一にあるので、作ってから臨んだほうが自分の中で安心するんですけど、『やがて君になる』はあえてそういうことをあまりしないようにしていってみようかなって思った作品です。原作を読ませてもらったときに、侑にすごく共感できたというか、自分の中で「うんうん、わかる」って思うことがすごく多かったんです。これは、変に作り込みすぎると逆に侑じゃなくなっちゃう気がするな、と思ったので、なるべく自分の自然体な声、自然体な演技でやっています。ある意味、わたしの中では冒険なんですけどね。
「侑とふたりでカラオケに行ったなら」っていう設定でレコーディングしていたら、すごく楽しくなっちゃった(笑)(寿)
――原作のあとがきを読むと、作者の仲谷鳰さんがアニメの加藤監督を信頼なさってる感じが伝わってくるんですけど、現場はどういう感じで進んでるんですか。
寿:監督がすごく丁寧に作品を作ろうとしてくださってるのが伝わってきます。最初のPVを撮る日にわたしたちふたりを見て、「もう、燈子さんと侑さん、まんまですね」って、すごい笑顔で言ってくれたんですよ。ちょうど、髪型と格好もあいまって、だと思うんですけど、「まんまですね、安心しました」「えっ、まだしゃべってない!」みたいな(笑)。
高田:そうですね、あれはすごく印象的でした。
寿:監督さんって、「絵のパートは僕たちに任せてください」ってドシっと構えてくれるタイプも多い中で、加藤監督は役者ともよい距離感で、現場ではずっと明るい方なんです。逆に、「モノローグの部分」は見たことがないのでわからないんですけど(笑)。
高田:確かに。毎話、アフレコが終わるたびに、監督からの一言メッセージがあって。「今日はこうこうこうでしたね。次は、侑はあのシーンがきますから、頑張ってくださいね」みたいな。
寿:挨拶して普通に帰る、ではなくて、みんなが作品について触れたくなる、自然と話したくなる作品なんだろうなって思います。だから「来週はこういうシーンがあるから」って、台本を渡す前から言いたい、みたいなところもあるんだと思うんです。
――エンディング主題歌の“hectopascal”はおふたりがキャラソンとして歌われていますけど、とてもいい曲だなあ、と思いました。
寿:いい曲ですよね、ポップな曲だし。
高田:そうですね。自分の中で、わりとしっとり系だったりするのかな、というイメージがあったので、ふたりで歌う曲がこんなにポップで、しかも歌詞がすごく『やが君』に寄り添った歌詞というか、侑と燈子さんが考えそうなことを歌詞にしてくださってるので、歌うときも入りやすかったし、楽しかったです。
寿:わたしは憂希ちゃんが歌ってくれたあと、侑の声を聴きながら歌う収録だったんですけど、燈子的には「侑とふたりでカラオケに行ったなら」っていう設定でレコーディングしていたら、すごく楽しくなっちゃって(笑)。「こんなにかわいく歌ってくれて嬉しい」みたいな気持ちになったし、掛け合いの感じも楽しかったです。
高田:カップリングの曲もあるんですけど、そっちは順番が逆で、燈子さんが先でわたしがあとだったんです。わたしも、燈子さんが一回歌った曲を聴いてから臨んだんですけど、確かにあれはちょっと、テンションが上がりました。そこでまた侑にしては、はしゃぎすぎになったりしつつ(笑)。まさにふたりでカラオケに行っている気持ちで、侑自身もちょっと楽しそうに歌えてたらいいかな、と思ってました。
――まだ収録は続きますが、侑と燈子を演じているおふたりから見て、『やがて君になる』という作品の魅力とは何であると思いますか?
寿:燈子の目線で言うと、侑のおかげで少しずつ「好きっていう気持ちは、これなのかな」っていうことをちょっとずつ知っていきつつ、「人間とはいかに」くらいの深さを感じながら作品を見てます。人間関係の矢印の向きが、いろんなところにあって、それが好き=LOVEもあれば、普通の好意もあれば、全然違う人もいるっていう、その人間関係がここまで明確に見えて、誰ひとりキャラクターに意味のない子がいない、その作られ方がすごいなって思っていて。生徒Aの子でさえも、「確かにこのセリフ、絶対必要だよね」って思うし、侑のまわりだったら、こよみちゃんや朱里ちゃん、他にたくさん人が増えてもひとりずつの個性が立っているので、関係性が見えてくると面白さがどんどん膨らんでくるな、と思っていて。もしかしたら、「自分は誰に一番近いのか」っていう視点で観るのも面白いのかもしれない。「人間らしさ」というところが魅力かな、と思います。
高田:この、「くっつくのかと思ったら離れていく」というもどかしい距離感って愛おしいなあって、すごく思っていて。人の気持ちの揺れ動きをすごく繊細に描いている作品だなって思います。「“好き”ってなんなんだろうな」って自分の中でも考えたりすることがあるんですけど、観てくださってる人にとっても、きっと「人を好きになるってどういう気持ちだったのかな」って考えるきっかけになると思いますし、「人を好きになるってとても素敵なことだな」って感じていただけたら嬉しいです。お互いの気持ちが交差していくところはもどかしいんですけど、そこが魅力にあふれていると思うので、ふたりの恋と素敵な物語を、アニメも原作も、ずっと追いかけてほしいです。
取材・文=清水大輔
TVアニメ『やがて君になる』公式サイト http://yagakimi.com/