「ドイツ人は残業しない」って本当? 20代女性が等身大生活で観察したドイツ

社会

公開日:2018/10/15

『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(雨宮紫苑/新潮社)

 まだ見ぬ世界や新しい経験を求めて、海外移住にあこがれを感じる人は少なくないだろう。インターネットを通じて、一瞬で世界中の情報が手に入る現在は、一昔前よりも海外情報も手に入れやすく、海外旅行やホームステイ、留学などがより身近なものとなっている。しかしそれでも移住となると、まだまだハードルは高い。

『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(雨宮紫苑/新潮社)は、日本生まれ日本育ちの著者が、大学在住時に留学したドイツに移住し、ドイツでの就活に挫折したり、さまざまなカルチャーショックを受けたりしながらも、ブログをきっかけにライターとしての活路を見出し、フリーライターとして自立した海外生活を送る現在の様子までが、ありのままに描かれた1冊だ。

■“おもてなし”のギャップから感じたこと

 著者はドイツで、ドイツ人と一緒に働き、共に生活していく中で、「日本の価値観が絶対ではないのだな」「そもそも日本の価値観って何だろう?」と考えるようになったという。

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 例えば、東京五輪誘致時の滝川クリステルさんのプレゼンテーションでも触れられた、日本の“おもてなし”文化。プレゼンの中では、おもてなしのことを「セルフレス・ホスピタリティ(無私のサービス、献身)」と表現していた。果たして無私のサービスは本当に誇れるのだろうか。

 ドイツの接客業では、「お互いが平等」という認識が根底にあり、良いサービスを受けたいのであれば良い客でなければいけない。客には、サービスが悪ければチップを払わない自由があり、接客する側も、悪質な客にはサービスをしない権利を持つそうだ。それに対して、日本の接客業はセルフレスが美徳とされているのか、ややもすると「客なら横柄でも許されるだろう」とか、「店員はとにかく客に尽くさなければならない」という空気を感じることもあるという。

 本書内では、この他にも、著者がドイツで感じたさまざまな興味深いエピソードが紹介されている。

・日本の大学よりも格段に卒業が難しいドイツの大学教育システム
・「ドイツ人は残業しない」というイメージをくつがえす、ドイツ人の働き方
・家のつながりが重視されがちな日本とは対照的な、ドイツの家族の精神的なつながり

 こういった事柄に著者自身が触れて、感じて、考えたことが、20代の等身大の感性で詳しく描かれている。これらを読むことは、読み手の私たちにとっても、単なる日本と他国との“比較”だけではなく、「日本人の持っている価値観や、外から見たときの日本人らしさって何だろう」と考えるきっかけにもなるだろう。ぜひ、本書を手に取って確認してほしい。

■成長していく著者のことも応援したくなる1冊

 本書は、ドイツという国やそこで暮らす人たちに興味がある人だけでなく、海外留学や移住に興味のある人にもおすすめだ。著者は、日本での学生時代に部活で感じた「先輩絶対主義」や、日常生活での「他人との対立を避けるために、はっきりモノを言わず、空気を読む文化」などに馴染めなかったことも背景にあって、ドイツへの移住を決めたのだという。一見軽々と移住を決断し、キラキラした海外生活を送っているのかと思いきや、就職活動で挫折し、自信喪失してしまう。しかし、自分の得意な“文章を書くこと”で活路を見出してフリーライターとして仕事を得て自立していく様子は、地味かもしれないがキラリと輝いている。本書が初めての本である著者は、現在20代。10年後に、どこでどんなことを感じ、どんな文章を書いて私たちに伝えてくれるのか。応援したくなる1冊だ。

文=水野さちえ