サッカー日本代表の真実が分かる!? “80%事実”のサッカー日本代表小説『アイム・ブルー』
公開日:2018/10/15
本記事を読み始めてくれたあなたは、おそらく私と同じ「サッカーを愛する皆さん」の一人だろう。ならばこの夏のロシアでの熱戦は記憶に新しいと思う。そしてその前にあったドタバタ劇も…。
2018年4月9日、ロシア大会2か月前に代表監督が解任された。協会からの説明はぼんやりとしていて納得し難いものだった。もちろんサッカーファンの意見は賛否両論となる。ただ反対派も、解任を是とした側も、その明確な根拠や理由――事実を知りたがった。
大会は終わり、日本代表は次の4年に向けて歩み始めている。にもかかわらず、もやもやしたままのサッカーファンは多くいるかもしれない。そんな方々に読んでほしいのが『アイム・ブルー』(木崎伸也:著、ツジトモ:イラスト、F:制作協力/講談社)だ。
■小説なのに80%が日本代表の事実?
本書はサッカー日本代表を描いた小説である。物語は2030年のワールドカップ直前から始まる。代表チームは混乱のさなかにあった。もともと監督と選手の確執が存在していた中で、監督が事故に遭い、監督交代を余儀なくされる。以前よりはうまくいくはずが、選手たちは新しい戦術への違和感を隠せない。チームはとまどい、いさかいも起こった。こうしてバラバラになったチームが再生していく過程が、監督と選手それぞれの視点で描かれている。
作者はサッカージャーナリストの木崎伸也氏。多くの日本代表選手たちを取材し、有名スポーツ誌などをはじめ、各メディアに寄稿している。個性豊かなキャラクターイラストは、人気サッカー漫画『GIANT KILLING』の作画を担当するツジトモ氏によるものだ。
本作はこの夏、ロシア大会で戦った日本代表をモチーフにした物語だ。チームが混乱から崩壊し、結束するドラマは生々しく、リアリティに満ちている。それは当然かもしれない。なぜなら本書のキャッチコピーは「80%の事実と20%の創作」なのだ。
「黄金世代がいる2006年のチームは技術が高い」「2014年のチームはイタリア人監督が4年にわたってゾーンディフェンスに取り組み一定の成果を得た」。架空の未来の設定ではあるものの、これら現実の代表チームの歴代エピソードが作中にはちりばめられ、物語の臨場感を高めている。そしてチーム内に起きる問題の数々、雰囲気、架空の代表選手たちの設定もリアルすぎるくらいに描かれている。
現実と、実際には読者が知りえない事実がミックスされ、ノンフィクションを読んでいる錯覚に陥る。読み進めていくうちに、この選手は実際の誰なのだろう? 木崎氏が記事にしにくかったことを小説の形で発表しているのだろうか…? と深読みもしたくなる。
■団結し、全てを青くする
本書に「日本代表はいつの時代も“いちばん大事なこと”を忘れている」というセリフがある。いちばん大事なこととはなんなのか。これは木崎氏が代表を取材してきて得た実感なのかもしれない。答えは作中にあるので引用する。1990年のワールドカップイタリア大会で優勝したドイツ代表の主力選手が、のちに代表監督になったときに言ったある言葉だ。
ワールドカップの本番で最も大切なのは、コンディションとチームの団結だ
物語の中でサポーターたちはつねにスタジアムをブルーに染める。監督は自分の心はブルーに染まっていると言う。大会直前にバラバラだったブルーのユニフォームを着た選手たちは、ひとつにまとまることができた。
はたしてロシアで戦った2018年の日本代表チームはどうだったのだろう。
真実を知ることができないサッカーファンは、ぜひ本書を読んでほしい。ここに描かれている事実が、自分なりに腑に落ちれば、もやもやが晴れるかもしれないから。断っておくが今さらロシア前のことを蒸し返したくてすすめたいわけではない。タイトルになっている「I’m Blue」の意味を理解し、本書が提言する「日本サッカーが向かうべき未来」を知り、一緒に、ひとつになって考えていただきたいのだ。
文=古林恭