「巨乳で美人なお姉さん」に偏愛されたら…男子高校生に向けた「愛」がおかしいお姉さんの話
更新日:2018/10/22
古来より誰かを援助するときに用いる方法論として「匿名」がある。「あしながおじさん」や「紫のバラの人」など、正体を明かさずに対象を見守り続ける姿が多くの人の胸を打つのだ。『男子高校生を養いたいお姉さんの話(1)』(英貴/講談社)も誰かを無償で援助する漫画ではあるが、本作に登場する「お姉さん」はちょっとタイプが異なる。
主人公の「空本実」は普通の男子高校生だが、ある日、両親が借金を残して蒸発してしまい、彼は怖い人たちに囲まれてしまう。その窮地を救ったのは、マンションの隣の部屋に住む巨乳で美人な「お姉さん」だった。彼女は主人公一家の借金を全額一括返済すると、そのまま実を自分の部屋へ住まわせることに。なぜ自分を助けてくれたのか分からない実だったが、お姉さんによれば「君のことが大好き」とのこと。しかし異性としてお付き合いしたいとかいう話ではなく、見ているだけで幸せなのだという。軽く顔を合わせる程度しか知らないお姉さんから一方的な偏愛を受け、彼女に対してちょっと恐怖を覚える実なのであった。
匿名支援者といえば、姿を現さず陰から対象を見守るケースが多い。しかし本作の場合、お姉さんは対象の実と一緒に暮らしているところが従来型とは異なる。しかし、お姉さんは決して自分の名を明かそうとはしないのだ。なぜならば、彼女曰く「(実に)名前とか呼ばれたら絶対死んじゃう」ためである。さらに実に対する神聖視は彼の名前にまで及び、名前を呼ぶたびに歯を磨いてうがいをする始末。曰く「口内清めてからじゃないと…御尊名なんて口に出来ない…」のだとか。このようにお姉さんの常識離れした対応が実を翻弄していくというのが、本作の基本的な流れである。
こうして謎多きお姉さんに養われることとなった実ではあるが、ただ養われるだけでは申し訳ないと考えるのは道理であろう。そのため彼は何か家のことを手伝おうとするのだが、そこはやはりお姉さん。「君に苦労させるなんて私は絶対イヤ!!」ということで、実を働かせようとはしない。「ただ養われるだけのダメ人間にはなりたくない」と抵抗する実だったが、お姉さんは「たとえ君が独りで立ち上がれなくなったとしても、お姉さんがいるから安心してね…!!」のひとこと。アフターケアも万全の「ダメ人間製造機」ぶりを発揮するのだった。
こうしてお姉さんの実に対する行動の数々を見ていると、なんとなく憧れのアイドルに接するファンの姿を極端に描いたような印象である。まあ実際、ファンは「推し」に対してお金を遣いたがる傾向にあるようだし、好意をお金で示すことを昔から「貢ぐ」などといったりする。もちろん正体不明の相手から一方的に好意を寄せられたら不安のほうが大きいだろうが、本作のような「巨乳で美人なお姉さん」になら飼いならされてみたいと思うのもまた人情だと思うのだ。
文=木谷誠