ゲイカップルが繰り広げる平凡でドラマティックな日常。『きのう何食べた?』最新巻の見どころは?

マンガ

更新日:2018/10/22

『きのう何食べた?』14巻(よしながふみ/講談社)

 見ているだけでお腹が空いてしまいそうなグルメ漫画は、書店に数多く並べられている。だが、『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)は、王道のグルメ漫画とは少し違うストーリー展開からも目が離せなくなる作品だ。

 2007年から『モーニング』(講談社)にて連載中の本作は、ゲイのカップルが主人公。几帳面な性格の弁護士・筧と、人当たりのいい美容師の矢吹のふたりの食生活をメインに描きながら、ゲイの人たちが抱える人生上の葛藤や周囲の反応などにも隈なくスポットライトを当てていく。

 本作の料理シーンには、調味料の分量や注意したいポイント、調理手順なども細かく記されているのが特徴。お菓子の作り方が丁寧に描かれている回もあるので、料理初心者から腕に自信がある上級者まで、幅広く参考にできるグルメ漫画である。

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 また、レシピが単調に紹介されるだけでなく、ひとつひとつの料理が話の本筋にしっかりと結びついているため、読み応えもばっちり。作品全体から醸し出される温かくて平和な雰囲気は、心に癒しを与えてくれる。

■気になる最新巻のストーリーと料理は?

 最新巻である14巻にも、いつも通り食欲をそそられる激ウマレシピが盛りだくさん収録されている。登場する「休日の朝がゆ定食」「さばの竜田焼き」「ニラとトマト入り麻婆豆腐」「パウンド型で焼くフィナンシェ」「ピーマンとじゃこの和風パスタ」といった献立も、きっと自宅で作ってみたくなるはず。

 本シリーズは登場人物たちも作中で年齢を重ねていくストーリーになっているため、最新巻ではお墓に関する話や熟年離婚といったテーマが、生活に密着する話題として取り上げられているところにも注目してみてほしい。意外に目が向けられにくい“男性(夫)が感じる周囲からの妊娠はまだかプレッシャー”にもスポットが当てられているので、年齢や性別問わず考えさせられる問題提起もあり、印象に残る仕上がりとなっている。

 既巻通り、食の大切さだけでなく人生の深さや生き方についても考えさせてくれる最新巻は、往年のファン心を裏切らないはずだ。

 グルメ漫画というジャンルでは収まりきらないほど深みがある本シリーズは、ジェンダーレスに関心がある人や生きづらさを感じている人の心も明るく照らしてくれる。何気ない日常の大切さを噛みしめ、明日への活力をつけたいときには、ぜひ手に取ってみてほしい。

文=古川諭香