あなたの文章が「もっと」読まれるためのコツ
更新日:2018/10/23
筆者がライター業を始めて6カ月になる。最初は編集者に原稿を提出するたびにたくさん赤字を入れられていたが、最近は直しの回数も減り、提出した原稿をほとんどそのまま載せてもらえることも多くなってきた。だが、ある程度の質と量をこなせるようになってきた一方で、自分の中に文章の“パターン”ができ、構成がマンネリ化し始めていることも感じていた。そんな筆者の悩みを知ってか知らずか、先日編集者が紹介してくれたのが本書『エッセイの書き方 読んでもらえる文章のコツ』(岸本葉子/中央公論新社)だ。
読み進めていくと、これまで文章で悩んでいたポイントが的確に言語化されていることに驚く。著者の岸本葉子さんは、エッセイを書き続けて30年という大ベテラン。彼女がエッセイを書くとき、何を考え、それをどう文章に落とし込んでいるのか――本書は、その技術を余すことなく教えてくれる。その内容は、仕事で文章を書いている人だけに限らず、SNS発信や自分のブログをやっている人にも大いに役立つだろう。
■そもそもエッセイとは何か?
岸本さんが定義する“エッセイの基本要件”はこうだ。本書は、この定義をもとに話を進めていく。
A「自分の書きたいこと」を、
B「他者が読みたくなるように」書く。
「自分の書きたいこと」があるからこそ、私たちは文章表現を始める。だが、「自分の書きたいこと」をただ書き連ねるだけでは、誰にも見向きされない、独りよがりの文章になってしまう。書くこと自体が目的ならそれでもかまわないが、“誰かに何かを伝えたい”という思いがあるのなら、「他者が読みたくなるように」書く必要がある。エッセイを書くときは、このふたつを往復しながら、個人的な体験や思考を、他人に伝わるように書かなければならない。
■起承転結の「結」は、そんなに大事ではない
私は、国語の授業で「起承転結を意識しなさい」と言われ、中でも「締めとなる“結”を大事にしなさい」と教わってきた。だが、著者は、「転」にこそ「自分の書きたいこと」の中心を持ってくるべきだという。エッセイでは、テーマが与えられているかどうかにもよるが、実はなんとなく結論は決まっているものだ。そのため、「転」で話の方向をがらりと変えようとすると、どうしても無理が生じてしまう。だから、伝えたい具体的なエピソードを「転」に込め、そこから逆算して他のピースを埋めていけばよい。「起」「承」で「転」のための準備をし、「結」にはエッセイとしてそれらしくなるものを入れればよいという。
■文章を推敲するときのポイント
本書では、こうした文章を組み立てるコツや、より読みやすくするための方法が多数紹介されている。だが、どれだけ経験を積んだとしても、一発で完璧な原稿が書けるようになるわけではない。その道30年の著者でさえ、今も最低3回は書き直しているという。著者によれば、推敲のポイントは“少しでも他者に近づくこと”だという。書いた直後に直そうとすると、執筆中の“興”が残っているため、自分の文章を客観的に見ることがむずかしくなる。そのため、翌日に直しができるように前倒しして予定を組み、ときにはプリントアウトして“他者の目線”を作るようにしているという。筆者も、記事は書きあげてから一晩寝かせ、翌日の朝いちばん頭がスッキリしているときに見直してから、編集者に提出するようにしている。
本書が一貫して重視しているのが“他人に読まれる”という意識だ。「内容やテーマが良ければきっと読まれるはずだ」と思う人もいるかもしれないが、それはほんのひとにぎりの幸運な文章だけだ。エッセイ、ブログ、SNSの投稿――どんな形式のものであれ、よく読まれている文章には、それ相応の工夫の跡がある。あなたが人に伝えたい何かを持っているならば、“読まれるための努力”を惜しむべきではない。
文=中川 凌