村上虹郎「中村文則さんの原作を読んだ時、溢れ出る心理描写に“これは感情の日記だ”と思いました」
更新日:2018/11/6
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、11月17日公開の映画『銃』で主演を務めている村上虹郎さん。原作との出会いや撮影現場での秘話、また最近よく読んでいるという本の内容について語っていただきました。
村上虹郎さんが主演を務めた映画『銃』の原作は、中村文則さんのデビュー作でもある。出演のオファーが来る前から、先輩俳優に「虹郎に合う役がある」と、この原作小説を紹介されたというエピソードは本誌でも紹介した。実は、村上さんは他人に本をすすめられることが結構多いそうだ。
「本好きな方が周りにたくさんいるんです。だから、教えていただいたらすぐに買うようにしています。ただ、撮影があると役に集中するので、小説が読めなくなる。すると、どんどん部屋に本が溜まっていくんですよね。今、未読のものが7割ぐらいあります(笑)。とはいえ、常に頭は働かせていたいし、世の中のことをもっと知りたいという思いも強い。最近は小説以外の本を読むことも増えてきました」
例えば、どんな本ですか? と訊ねると、返ってきた言葉は、なんとピーター・ドラッカーやエドワード・バーネイズなど。
「今の日本映画界って、大ヒットするか否かの二極化になっていると思うんですよね。単館で上映されるような作品がどんどん減ってきている。それが寂しくて。もっと渋谷のユーロスペースや新宿のテアトル新宿が賑わう環境を作りたい。そのためにはどうすればいいかを勉強しているんです。その合間を縫って、教えていただいた小説を一冊ずつ読んでいっている感じですね(笑)」
実を言うと『銃』も映画出演の話があるまで未読だったそうだ。
「だから逆に、読むかどうかですごく悩みました。というのも、僕は基本的に原作のある映画に出る時、あえて元の本は読まないようにしているんです。映画にとって大事な要素は台本に書かれていますし、これは語弊があるかもしれませんが、“必要のない情報”を知ってしまうことにもつながる気がして。でも、プロデューサーの奥山和由さんからも、『やってもらいたい役がある』というオファーの受け方をしたので、“2人の方からすすめられるって一体どんな役なんだろう”って我慢できなくなったんです(笑)」
1ページ目を開いてからは、「あとは一気読みでした。止まらなくなって」と村上さん。
「銃を手にしてからのトオルの心の変化――例えば、簡単に命を奪うことができる銃というものへの何ともいえない愛情や、危険なものを手にしたときの高揚感などがものすごく生々しく描かれていて。その溢れ出るような心理描写に、まるで“感情の日記”のようだなと思いました」
撮影現場では気持ちを作ることだけに集中した。
「武(正晴)監督は俳優に自由にやらせてくれる方でした。それに、原作者の中村さんと武監督は同郷で、家も近かったらしく、だからこそ作品に流れる空気感は、監督がすごく鮮明に感じ取っていた気がするんですよね。ですから、演技に迷うことがあっても監督と会話をすることで、そこからヒントをもらうことができました」
また、この映画は最後にちょっとしたサプライズがある。父・村上淳との共演だ。
「一緒の作品に出るのは僕のデビュー作(『2つ目の窓』)以来なので、4年ぶりですね。撮影前も、撮影後も、特に何かを話したということはなかったです。親父からいつも言われているのは、『過度に過信はせず、過度に謙虚にもならず』という言葉で、現場でもそれを背中で見せてくれている感じでした。……ただ、何となくですが、ちょっと張り切っているように見えましたね(笑)。自分から率先して動いたり、スタッフさんに声をかけたりして。あれは、僕がいたからなのかなぁ……。普段の現場での様子を知っているわけではないので、気のせいかもしれませんけど (笑)」
取材・文:倉田モトキ 撮影:干川 修
公式HP:http://thegunmovie.official-movie.com/
公式Twitter:@GunMovie
『銃』
原作:中村文則『銃』(河出書房新社) 監督:武 正晴 脚本:武 正晴、宍戸英紀 出演:村上虹郎、広瀬アリス、リリー・フランキーほか 配給:KATSU-do、太秦 11月17日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
●雨が降りしきる中、河原で銃を拾った大学生のトオル。やがて彼はその凶器が持つ美しさと圧倒的存在感に惹かれ、理性を失っていく。公園で猫を撃つと、今度は次第に人を撃ちたい衝動に駆られ……。
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