風間杜夫「ノンフィクションなのに、まるでつかさんの青春私小説を読んでいるように楽しめました」

あの人と本の話 and more

公開日:2018/11/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、現在、舞台『セールスマンの死』に出演中の風間杜夫さん。おすすめ本として紹介してくれた『つかこうへい正伝』をもとにつかさんとの思い出を語っていただくとともに、若手演劇人たちとの“競演”の楽しさについてお話をうかがいました。

風間杜夫さん
風間杜夫
かざま・もりお●1949年、東京都出身。子役として活躍したのち、「劇団つかこうへい事務所」に参加。82年の映画『蒲田行進曲』、翌年のドラマ『スチュワーデス物語』で人気を博す。近年の出演作品に映画『蚤とり侍』など多数。

「僕がつかさんと出会ったのは、彼が岸田戯曲賞をとったあと(1975年)。名前は知っていましたけど、舞台は観たことがなくってね。それがちょっとした縁で、別の方が演出するつかさんの作品に僕が出ることになったんです。その稽古場にひょこっと遊びに来たのが最初の出会い。その後、つかさんの作品に数え切れないぐらい出ましたけど、会うのは稽古期間と本番ぐらいで。その意味では、この本のおかげで僕もつかさんのいろんなことを知ることができましたね」

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 劇作家・つかこうへいが演劇の世界に足を踏み入れ、1982年に「劇団つかこうへい事務所」を解散するまでの軌跡を綴った『つかこうへい正伝』。学生時代より、誰よりも多くつかのことを見てきた作家・長谷川康夫が、関係者へのインタビューや残された資料を元に4年近くかけて完成させた、まさしく“正伝”と呼ぶにふさわしい一冊だ。

「この本には、僕らが知っているつかさんがすべて詰まっていると思いました。いいところも、悪いところもね(笑)。それに長谷川君自身も脚本家であるから、話の展開が面白い。ノンフィクションなのに、まるで青春私小説を読んでいるように楽しめましたね(笑)」

 つかこうへいといえば、日本の演劇史を語る上で欠かせない存在。流れるような美しい言葉(セリフ)は、すべて“口立て”の手法で作られたもの。いまや伝説となったその創作過程もこの本には克明に描かれている。

「つかさんは“言葉の魔術師”みたいなところがありましてね。原稿用紙に台本を書くのではなく、稽古場で思いついたセリフをその場ですぐに役者に言わせるんです。“音”として出させてみて、それを聞いて次につながる新しい物語を考えていく。とにかく稽古場ですべてを作る人でした。長谷川君は慣れてるからいいでしょうけど、僕なんかは最初のうちは、戸惑いしかなかったですよ(笑)。『言葉のイントネーションが違う!』って怒られたりもしますし(笑)。“この人、何を言ってるんだろう?”って感じでしたね。でも、不思議なもので、繰り返していくうちにだんだんと何を求めているかが分かってくる。それはつかさんも同じで、役者にやらせてみて、自分が作りたい世界が見えてくるようでした。よく『俺は役者に(ホンを)書かせてもらった』って言ってましたけど、“口立て”の中からいろんなヒントを拾い上げていたんでしょうね」

 「つかさんが作る作品はどれも魅力的でした」と風間さん。だから、最初につか作品に出て衝撃を受け、その後も出演し続けることになる。「面白い戯曲や演出家がいれば、迷わず飛び込んでみる。それは今も変わらないですね」。

「今回の『セールスマンの死』を演出する(長塚)圭史君と知り合ったのは13年前でした。彼が20代最後の作品として『LAST SHOW』を作・演出することになり、その時に声をかけていただいたんです。若い演劇人と一緒に舞台を作るようになったのは、あの作品がきっかけでしたね。それからは荒川良々君や平岩紙ちゃん、それに劇作家では赤堀雅秋君など、いろんな方と舞台を作って刺激をもらってます」

 ちなみに、風間さんが長塚さんの演出作品に出演するのは、これで三度目。そこで長塚演出の印象をうかがってみると「作品に誠実な人」との答えが。

「『セールスマンの死』でも、一週間ずっとホン読みをして、全員で理解を深めていきました。立ち稽古になって役者たちに疑問が出てきても、演出家としての意見を主張するのではなく、『まずはみんなで考えましょう』というスタンス。彼の人間性もあるのかもしれませんが、僕はそんな彼の芝居への取り組み方が大好きなんです」

 また、楽しみな点といえば、共演者たちも。今作でも山内圭哉や菅原永二など、次世代を担う俳優たちと共演している。

「山内くんが演じるビフと父親の間には確執がある。そこをしっかり見せるためには本気で感情をぶつけ合わないとダメなんですよね。先日稽古でいがみ合うシーンがありましたが、彼の恐ろしいほどの形相を見た時、“本気になって喧嘩のできる役者さんだな”と思いましたね(笑)。それと、非常に楽しみな共演者がもうひとり、妻役の片平なぎささんとは『スチュワーデス物語』以来なんです。稽古場で会った時は『お互い歳を取りましたね』なんて笑い合っていましたが(笑)、どんな夫婦になるのか非常にワクワクしています」

(取材・文:倉田モトキ 撮影:干川 修)

 

『セールスマンの死』

『セールスマンの死』

作:アーサー・ミラー 翻訳:徐 賀世子 演出:長塚圭史 出演:風間杜夫、片平なぎさ、山内圭哉、菅原永二、村田雄浩ほか KAAT 神奈川芸術劇場(ホール)で11月18日(日)まで上演中 
●かつては敏腕だったセールスマンのウィリーも60歳を越え、会社からお荷物扱いを受けていた。自慢だった息子は30歳を過ぎた今でも自立ができないでいる。彼の家族のため、自分のためにとった最後の行動とは――?