『アイドルマスターシンデレラガールズ』7年の軌跡①(高垣楓編):早見沙織インタビュー
更新日:2018/11/7
『アイドルマスターシンデレラガールズ』のプロジェクトが2011年にスタートして、今年で7周年。11月と12月にメットライフドーム&ナゴヤドームでの6thライブを控える『シンデレラガールズ』は、7年間で大きく成長を遂げ、多くのプロデューサー(=ファン)に愛されてきた。今回の特集記事では、2014年の1stライブ(舞浜アンフィシアター)に出演したキャスト6人の言葉から、『シンデレラガールズ』の軌跡をたどってみたい。彼女たちは、自身が演じるアイドルとどう向き合い、楽曲にどんな想いを託してきたのか――第1回は、高垣楓役・早見沙織のインタビューをお届けする。
すべてが私ではないけど、高垣楓さんのどこかに私は必ずいることを感じる
――『アイドルマスターシンデレラガールズ』に7年間関わってきて、今このプロジェクトに感じてる印象を教えてください。
早見:どんどん熱くなるコンテンツなんだなって、7年経った今でも思いますね。はじめは、まさかこんなに大きくなっていくとは、全然想像していなくて。『アイドルマスター』全体としてすごく人気があることはもちろんわかっていたんですけど、関わらせていただいて、その熱量の大きさを肌で味わったところはあります。その感じが今でもずっと変わらないですし、どんどん大きくなっています。
――7年間、高垣楓さんを自分の役として責任を持って向き合ってきて、彼女の印象が変わった部分とか、あるいはやっているうちに自分が変わった部分があるとすれば、どういうところですか。
早見:面白い出会いだなあ、と思っていて。はじめは自分よりも年上だったし、ちょっと追いかけている気持ちがあったというか、お姉さんであることを意識しつつ役に向き合うところも大きかったです。ただ、最近のエピソード(『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』のコミュ)で明らかになってきてることも多いんですけど、「決して遠いところにいる人ではない」ということは、7年間一緒にいて感じますね。いろんな考えを私にくれる、というか。彼女の言葉に、私自身が揺さぶられることも多くて――ちょっと話が飛んでしまうんですけど、いいですか?(笑)。
――(笑)どうぞ。
早見:このインタビューでお話するにあたって、「今日はこれを言えれば」っていうことを先週くらいにお風呂の中で考えていて(笑)。高垣楓という人は、私のすべてではないんですけど、でも確実に私の中にいる存在であり、逆もしかりで、高垣楓さんのすべてが私ではないと思うんです。「すべてが私ではないけれど、高垣楓さんのどこかに私は必ずいることを感じる役だな」と思いました。
――それは、最初からそうだった?
早見:思えば最初からそうだったかもしれないけど、意識するようになったのは、こうしてインタビューの機会をもらったり、最近のコミュを収録しているときですね。シンプルに言うと、けっこう内面が近いかもと思うときがあって。でも、決して、丸々この人の内面全部が私、ではないんですよ。楓さんのパーソナルな部分は、私にも共通することは確かにあるし、そういう意味でも、私にある部分は楓さんにもあるところだと思っていて。もちろん、見えない部分もまだまだあるので、近いものを持っている部分があるという意味で、全部ではないけれど確実に私の中にいる人、みたいな気持ちになったのかな、というか。性格も近いところがあるし、彼女の考え方やパーソナルな部分には、「わかるわかる」というよりもハッとさせられたり、気付きをもらうこともありますね。
――それはお互いが寄っていってるというよりは、もともと共通する部分があったんですか。
早見:たとえばなんですが、楓さんって、外から見てすごく真面目なことを考えてそうなときに、「洗剤買い忘れた」みたいなことを思ってたりする人なんですね。そういう部分って、わかりやすく「あ、確かに、そういうところは私にもあるな」って。だけど、最近のコミュは心理描写がどんどん複雑になってきているというか、よりハッとすることが多いですね。
――複雑になるというのは、さらに深度を増してる、ということでもあると思うんですけど、それは今までに録ったセリフや早見さんが演じた彼女の姿形が、コミュにおける楓さんのセリフを呼び込んでる、という部分もあるんじゃないですかね。
早見:そうかもしれないです。そこが『アイドルマスター』の本当に素敵な部分だし、とんでもないところだな、と思います。それはプロデューサーの皆さんがそういうものを引き寄せているというか、呼び出している部分もまた、『アイドルマスター』の場合は本当に大きいんだと思います。そこがすごいな、と。
――その中でも、『シンデレラガールズ』は登場人物が多くて、もちろんそこには濃淡があるけれども、楓さんの場合は特に立体化した感じがしますよね。それは演じ手の資質によるものもあるでしょうし、何よりプロデューサーの皆さんが高垣楓像をどんどん作っていったところが大きくて。
早見:そうなんですよね。それが決して180度違う方向に行ったりしないところが、この『アイドルマスター』のすごさです。いわゆるアイドルらしく、かわいくてきゃるっとした部分を見せてほしいとか、楓さんだったらクールビューティなところ、歌姫っぽいところを見せてほしいとか、いろいろな部分がありますけど、それだけが楓さんを形作ってるわけではないと思っていて。楓さんの場合、それ以外も網羅してるんですよ。たとえば、見た目には完璧なキャラクターがいるとして、お茶目な部分を見せたら、それだけでギャップがあって、人間的にも濃厚になる。でも楓さんは、すごく完璧に見えて、「でもそうじゃないんだよ」と本人は思っているけど、ちょっとお茶目なことをしたりハメを外すことがあったとして、それすらも「楓さんって素敵だな」と思われてしまうことへの本人の悩みまで網羅されているんですよ(笑)。「お茶目でかわいい一面があるんですね」「あの歌姫の楓さんにそんなところがあったなんて」って、よいように言われることへの悩みがあるし、「そう思われたくない」と思っているけど、反面心の中にはそれにちょっとすがりたい自分もいる。それを崩したいけど、本当の意味で崩れてしまうのが怖い自分もいる。そういうところまで描かれてるところが、私は大好きです。
――マトリョーシカみたいな話になってきましたね。それって、開けても開けても、そこには高垣楓像がある、ということで。
早見:確かに。だから彼女の言葉は読んでいてすごくハッとするし、「ここまでマトリョーシカのふたを開けるんだ?」みたいなことを思ったりしますね。ある意味、「この人はこういう人なんだ」っていうファーストインパクトがあるからこそ、その印象だけじゃない部分を知りたくなるし、想像が膨らみやすいから、より膨らませたくなる人なのかもしれないですね。アイドルとしてではない部分をずっとやってきたし、パブリックイメージとプライベートな自分とのギャップだったり、そういう部分にもきちんとフォーカスが当たってるところは、シナリオを読んでいてもグラグラきます。そこが、自分としてはとても内面威力を発揮する、というか。
――内面威力とは?
早見:外への脅威とかではなく、自分の中で威力を発揮する、というか。もちろん、意識はするんですよ。ライブだったら、「楓さんとして歌わせてもらう」という意識は確実に持ってるんですけど――無理に楓になろうとしない、と言ったら変ですけど、ステージに立たせていただいたとき、言葉を読ませてもらったときに自然に出てくる楓さんが、私にとっての楓さんなのかなあ、という気はしていて。特に、ライブで楓さんとしてステージに立たせていただくことは、彼女から自信をもらえて、とても幸せな瞬間です。よく、舞台に立つ人の喩えで「上からピアノ線で吊られてるような立ち姿を意識しなさい」って言ったりするじゃないですか。そういうことを変に意識しなくてもそうさせてくれる楓さんの居心地があって。それがある種の自信につながっているところは確実にあるし、パワーをもらっていますね。
楓さんと一緒に飲みたい(笑)
――高垣楓として、ソロ以外にもけっこうな数の楽曲に参加してきたわけですけど、中でも思い入れの強い楽曲について話してもらえますか。
早見:はい。何よりもまず一番に挙げるのは、やっぱり“こいかぜ”ですね。そこに始まり、そこに帰る、というか。レコーディング当時、私は20歳くらいで、最初に歌ったら大人っぽすぎて、確かちょっと若く歌ったんですよ(笑)。でも今になってみると、ある意味まだ慣れていない楓さんになってた気がします。この先いろんな人と関わってアイドルとしてどんどん発展していくことで、今のお茶目で、酔っ払うとすごくて、年下へのいろんな目線や社交的な部分もある楓さんになっていくのですが、はじめはけっこう人見知りだし。そういうところは、初期はかなり意識していましたね。オーケストラ版の“こいかぜ”(2018年1月リリースの『THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER こいかぜ - 彩 -』)も歌わせていただいたんですが、そのときはほぼ何も考えなかったんですね。曲の壮大さに合わせてより壮大に、というイメージでは歌ったんですけれど、そこで自分の中の変化を感じました。
――6年越しに“こいかぜ”をもう一度録ることについては、どう思いました?
早見:緊張しました。ありがたいことに、投票の結果で決まったんですね。後ろのオケは変わらず同じ音源のまま、自分から発せられる声だけで6年を表現しなければいけないという、ものすごいプレッシャーを感じましたね。でもそこはスタッフの方々もわかってくださったので、「壮大な組曲にしちゃおう」ということになって、楽章形式になりました。レコーディングは楽しかったです。“こいかぜ”を6年間いろいろなところで聴いて、歌ってきたんだなということを、すごく実感しました。喉が慣れているというか(笑)。
――(笑)高垣楓楽曲としては“FLY ME TO THE MOON”のカバーもありますけど。完成度がすさまじく高いし、早見さん自身の音楽活動とも表現がリンクしているなあ、と思いました。
早見:そうですね。この曲は、自分がジャズを習っていたときに歌っていた曲なんですよ。だから、私の歌の歴史的にはものすごく遡って、「うわ~、これ習ってたぁ」みたいな(笑)。メロディは自分の中に入っているから、そういう意味では“こいかぜ”と近くて、喉が覚えているところがありました。
――2016年にさいたまスーパーアリーナで開催された4thライブへのサプライズ出演は衝撃的でした。誰が出てくるかわかったときの会場の沸き方がとにかくすごくて。
早見:そうですね、とても緊張しました。緊張したし、歓声が大きすぎてイヤモニが何も聞こえなくなる経験をして初めてしました。ほとんどオケが聞こえなかったんですよ。そういう意味では、自分にとってもすごく汗をかいたサプライズでした(笑)。そのときに、「ああ、これがやっぱり『アイドルマスター』の熱量だ」と思いました。すごく素敵な光景でしたね。
――一面が緑色になる光景を目の当たりにしたとき、どんな気持ちになりましたか。
早見:とても温かい気持ちになりましたね。ステージに出る直前と、出て数小節は緊張してたんですけど、曲が進むにつれて、緑の海に安心感をもらえたというか、「ひとりで歌ってるけど全然ひとりじゃない」という気持ちにはなりましたね。思い出深いですね。「今日、ここにいられてよかったなあ」と思いました。
――では最後に。ここまで7年間をともに歩んできた楓さんに今かけたい言葉は何ですか?
早見:う~~ん……一緒に飲みたい(笑)。「高垣」っていうお酒があるんですよ。それを一緒に飲めたら幸せですね。たぶん、すごく深い話ができると思います。だって、私の一部はあなたであり、あなたの一部は私、なので。
――それこそ、最初に出会った頃と今とでは、話せることも違うんでしょうね。
早見:違うでしょうね。なんだろう、ちょっと親しみを感じてる自分もいる、というか。それだけ、いろんなものがお互い混ざり合ってきたということかもしれないですけど、遠い場所にいる人ではないなあって感じてます。
取材・文=清水大輔