「芸大」で「俳句」?『ガイコツ書店員』の著者が送る新しい俳句青春マンガ!

マンガ

更新日:2018/12/18

『ほしとんで』(本田/KADOKAWA)

 芸大を舞台にした、笑えて学べる青春マンガ『ほしとんで』(本田/KADOKAWA)。今期アニメ化もしている大人気マンガ『ガイコツ書店員 本田さん』の著者の最新作だ。

 文章を書くことが好きで、芸大の文芸学を専攻している尾崎流星(おざき・りゅうせい)は、「一切の覇気から解き放たれている」という紹介がされるほどの、平凡な男子学生。小説ゼミを希望していたのに、興味も知識もない「俳句ゼミ」に入ることになってしまう。

 俳句ゼミにいるメンバーは、明るいオタク男子だったり、ミステリアスなハーフ女子(見た目が『あたしンち』のお母さん……)だったり、赤ちゃんを抱っこしている主婦、地味めの文学少女と、個性豊かな面々だ。

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 無気力男子・流星が、講師の坂本先生や、個性が有り余っている仲間たちと共に俳句を学び、その魅力に少しずつ惹かれていく……という、一風変わった青春模様が描かれている。

 ちなみに、『ガイコツ書店員 本田さん』を、みなさんはご存じだろうか? こちらはコミックエッセイの雰囲気を残したコメディマンガで、書店員の「お仕事あるある」を、本田さんの目線と冴えわたるツッコミを通して読める日常ものだ。

 本作は、その「日常の面白さ」が、「芸大で俳句をする」という馴染みのない舞台と見事マッチした作品である。フィクションだけど、「どこかにこういうゼミあるんじゃ?」と思わせてくれるような「細かなネタ」と「日常感」が、とても面白かった。

「芸大」は普通の人からすると、かなり異色な空間だろう。その中で、これまたマイナーな俳句を題材にした物語なので、自分の人生には少しもかすっていないし、俳句にも別に興味がない……それでも、なぜか楽しく読めるのだから、本作にはたくさんの魅力が詰まっているのだ。

 俳句のことを何も知らない読者にとって、「学び系マンガ」なのも魅力の一つ。俳句には、決まった形式がある。文字数は「5・7・5」で、「季語を入れる」、「切字を使う」。こういう決まり事があるので、とっつきづらいイメージがあるかもしれない。

「切字」は「かな」「や」「けり」などのこと。「これってどうして必要なの?」と思っている読者諸君。本作曰く「それがあれば俳句っぽくなるマジカルひらがな」らしい。なるほど。分かりやすい(笑)……ちゃんとした説明も書かれているのでご安心を。

 だが何と言っても、本作の一番の魅力は登場人物だろう。『ガイコツ書店員』の時から思っていたが、本田さんの描くキャラは、漏れなくみんな「いい人」だ。「善人」というわけではなく、アクが強かったり、協調性がなかったりしても、読んでいて嫌な気分になるキャラがいない。だから、登場人物たちを応援したくなるし、もっとこの人たちの「日常」を知りたいとページをめくってしまうのだ。

 普段私は「ザ・オタクキャラ」はそんなに好きではないのだが、(オタクを誇張し過ぎて、人格というよりオタクの集合体みたいなキャラになってるのが、あんまり面白くないかな……と)、本作の寺田君はとても好き。

 マシンガントークで、将来の夢がマンガ家という寺田くんは、見た目も行動もオタク。けど、なんだか好き。多分基本的に「いいやつ」だからだと思う。

 ちょっと自意識過剰な同ゼミの文学少女、薺(なずな)さんも、いいキャラしている。授業の講評(自分の小説や俳句を講師から評価される)で、「作品の評価なのに、まるで自分自身の価値のことを言われてるみたい」と一喜一憂したり、会話の糸口が掴めず自分から話し掛けるのが苦手だったりする。「気持ちが分かり過ぎてツライ」という読者も多いはず。

 本作、LINEマンガで連載中なので、手軽にスマホで読めるのもいい。そして無料のマンガだからと甘く(?)見ていると、その内容の濃さに驚くだろう。紙の本で読んだ方がより面白さが伝わるかもしれない。読み直していると、見落としていた笑いの「小ネタ」なんかに気づいたりするから。

「俳句」と、何気ない「日常の面白さ」に気づける本作、幅広い年代の方に共感と笑いを届けてくれるのではないだろうか?

文=雨野裾