山口組分裂の原因はブラック体質!? 新団体が打ち上げた脱・反社プランとは…
更新日:2019/7/23
かつては一枚岩として、「最高収益をあげるマフィア」などと世界中に悪名を轟かせた指定暴力団山口組(総本部・神戸市灘区)。そのおかげなのかYakuzaはTsunami同様、海外でも通用する日本語の一つになった。
しかし2015年8月、山口組から13団体が分離独立し、「神戸山口組」を結成。さらに2017年4月、神戸山口組からの離反組が「任侠団体 山口組」(その後「任侠山口組」と改称)を結成。こうして2018年9月現在、「山口組」(六代目山口組)、「神戸山口組」、「任侠山口組」の3つの組織が、同じ山菱の代紋を掲げつつも、事実上、袂を分かった鼎立状態として存在する。
いったい山口組、ひいてはヤクザ社会に何が起きているのか。そして、最後に分派し、あえて「任侠」という冠を付した「任侠山口組」とはどういう組織で、中心人物はどんな考えで離反したのか。その詳細を教えてくれるのが、文庫本で再登場した『山口組三国志 織田絆誠という男(講談社+α文庫)』(溝口敦/講談社)である。
一枚岩だった山口組が分裂したのはブラック体質が原因!?
本書タイトルにある織田絆誠代表(52歳)こそが、「任侠山口組」の中心人物だ。「ヤクザ取材歴が約半世紀」という著者のジャーナリスト溝口敦氏は、織田代表を「これまでの山口組に存在しなかったタイプのリーダー」だと評す。そして、どうヤクザ組織の欠点を改めるかなど、明確な目標と展望を持ち、「ヤクザ社会を変えようとしている」とも記している。
本書は、織田代表へのインタビューにより、離反した理由や「任侠山口組」が目指す姿などを明かす。そしてまだあまり知られていなかった、織田代表の出自や人となりなども詳細に紹介する。さらに、そもそも鼎立状態となった経緯や、「山口組」(六代目山口組)、「神戸山口組」それぞれについても触れることで、各団体の勢力や考え方など相違点を浮き彫りにする。
ちなみに織田氏の肩書を組長ではなく代表と表記するのは、同組にはヤクザ組織としては異例の組長ポストがないからだ。富と権力が一極集中する組長ポストは廃止し、代表は置くものの、上下関係より横並びの組織づくりをする。同組の特徴にして改革の第一歩なのだ。
そもそもの分裂の理由は、わかりやすく言えばこうだ。「山口組」のブラック体質(上納金制度ほか)に嫌気がさし、「神戸山口組」が分派した。ところが「神戸山口組」もやはり同じ体質であると気づき「任侠山口組」が分派した。その数あるブラック要素の詳細は本書に委ねるとして、ここでは、その一要素にして織田代表にとっては大問題である「ヤクザ組織=反社会団体というレッテルに甘んじている体制」ついて触れておこう。
「脱・反社会組織」を目標とする「任侠山口組」
冒頭に書いたように、かつては巨額の収益を上げていたとされる山口組だが、現在は暴対法ほか、取り締まりが厳しくなり、ヤクザ組織は一転、存亡の縁にいるという。そうしたなかでも、依然として「反社会組織」というレッテルをはがそうとしない「山口組」、「神戸山口組」に織田代表は危機感を抱き、「任侠山口組」を立ち上げたのだ。
おこがましいかもしれませんが、「任侠団体」と冠に付けたのは、要するに我々の最終目標が「脱反社」だからです。
著者のインタビューにこう答える織田代表。「任侠」とは、「仁義を重んじ、困っていたり苦しんでいたりする人を見ると放っておけず、彼らを助けるために体を張る自己犠牲的精神」だ。博打もするが弱者は助けるいにしえのヤクザの原点。また、山口組を巨大化させた3代目田岡組長の重んじた理念であり、本来なら山口組が何をおいても継承すべき精神。そこに回帰するのが、「任侠山口組」なのだという。
ヤクザが地下に潜ったら日本の治安は悪化する!?
そして「脱反社」のための具体的なプランもこう明かしている。
一つには国内の治安維持。来日不良外国人や海外マフィアを監視することや、オレオレ詐欺を働くような半グレ集団を教育し、治安維持に協力する。また、海外の民間軍事会社と提携して海外での邦人警護を担い、ヤクザならでの情報網を駆使すれば、テロ対策にも協力できるという。
しかし、こうした社会貢献的なシノギ(稼業・正業)さえも、政府や国民が認めないというのであれば、「ヤクザは地下に潜るしか道はない」と織田代表は言う。ただしそうなれば、半グレや他国のマフィアらの活動が活発化し、ドラッグのさらなる蔓延や犯罪の増加など「日本の治安悪化は100%避けられないでしょう」と警告する。
ヤクザ改革を謳う織田代表だが、2017年9月12日、神戸市長田区の路上でヒットマンの襲撃を受けている(ボディガード役が殺され織田代表は無傷。犯人はいまだ逃走中)。今後、改革を含め山口組三国志の行方は、著者にさえ予測不可能だという。
日頃、身近ではないヤクザ社会が、いつ、すぐ近くに忍び寄るかはわからない。いかに彼らの存在を嫌悪しようと、いつの時代も光と影はセットでこの世に存在する。そんなヤクザ社会の最新動向を知っておきたいという方は、ぜひ、本書を手にしていただきたい。
文=町田光
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