「世界史を嫌いになる理由」をすべてそぎ落としたら…
公開日:2018/11/23
高校生の頃、筆者は「世界史とは年号を覚える教科である」と信じて疑わなかった。そして、いまだに全国には年号を覚えることに必死になっている高校生が数多くいることは想像に難くない。
その理由は、世界史の先生から「年号を覚えろ!」と言われるからである。しかも世界史は、世界各地の歴史の集合体なので、同時期にどこで何が起こったのかを横展開で見ていく必要がある。時系列だけでなく空間を移動しなければならない“アクロバティックな教科”なのである。さらに登場人物がたくさん出てきてしまう。年号を覚え、地域ごとの出来事を覚え、膨大な人物名を覚える。もうお手上げである。
世界史は覚えることが多すぎるから、よっぽど物好きな人でないと高得点が取れないと思い込んでいる人も相当数いるに違いない。
しかし、そんな多くの生徒が苦手とする世界史に、救世主的な教科書が登場した。『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』(山崎圭一/SBクリエイティブ)である。
この本の最大の特徴は、「世界史は年号を使わずに学べ!」と書かれている点にある。今までの世界史の常識をくつがえす発想だ。事実この本をパラパラめくってみると、ひとつも年号は出てこない。「年号のない世界史なんて、世界史じゃない」とか言う世界史マニアが出てきそうだ。
この本も世界史の教科書である。しかし、高校で使われている既存の教科書とはかなり違う。人類の出現からはじまるところは同じだが、文明の誕生から4大文明をヨーロッパから、中東、インド、中国と数珠つなぎに解説していく点が斬新である。
これまでの世界史では、ヨーロッパを少しやると、同時期の中東はどうなっていて、インドはこうで中国はああで、といきなり地域ごとの横展開がはじまったりする。だから訳が分からなくなって途方に暮れる生徒が大量に排出されることになる。
とはいえ、既存の教科書が、地域を行ったり来たりするのは2つの理由がある。
ひとつは、単に高校で使っている教科書がそうなっているからである。特に生徒に分かりやすく講義してあげようという発想のない先生だと、教科書を最初から順番にやることになる。すると、自動的に地域を行ったり来たりして説明していくことになるわけだ。
もうひとつの理由は、同時期にどこで何が起きていたのかという横のつながりもしっかり理解を深めなければならないと考えられていたからである。
本書では、同時期に各地域で何が起きているか観ることを完全に捨ててしまったのである。ヨーロッパを最初から最後まで学んだら、その次に中東を最初から最後までやり、その次にインドを最初から最後までやり、中国を最初から最後までやる。同時に起こっている歴史を地域ごとに順番に数珠つなぎにしてしまっているのだ。
たとえるなら、テレビを見るときに、NHKを見ていてチャンネルを変えてフジテレビを見て、さらにテレビ朝日を見て、またNHKに戻って見るというように横断して見ていると、すべての番組を断片的にしか見られないのに似ている。結局、あまり内容が頭に入らないまま、すべての番組が終わってしまった経験は誰もが持っているであろう。
しかし、NHKの番組を最初から最後まで見てから、録画しておいたフジテレビの番組を最初から最後までしっかり見て、その後にテレビ朝日の番組を見ていけば、落ち着いて見られるので内容もしっかり理解できる。このロジックをこの本では世界史の学習に取り入れたのである。
この本の著者は、公立高校で世界史を教えている現役の高校教諭であり、世界史の講義を動画で配信しているYouTuberでもある。実際に動画を観てみると、驚くほど分かりやすい。「高校の時、こういう先生に習いたかった」と、自分の青春を振り返って残念な気持ちになる。
この本は、現役の高校生・受験生だけでなく、かつて世界史が苦手だった社会人に強くおすすめである。実は世界史が楽しい教科だったと開眼できる機会を得られるのだから。
文=長沼良和