学術的基礎に立ちながら一般人にもわかりやすい古代史関連オススメ本が集結! 「第6回古代歴史文化賞」授賞式レポート

文芸・カルチャー

公開日:2018/11/22

 毎年、古代の歴史文化に関する本が数多く出版されているが、興味はあるものの「専門的すぎる」「どれを読んだらいいのかわからない…」と、なかなか読む機会がないという方もいることだろう。そんな方に「少しでもオススメ本を広めたい、もっと関心を持ってもらいたい」と設立されたのが「古代歴史文化賞」だ。三重県、奈良県、和歌山県、島根県、宮崎県という古代史にゆかりの深い5県が連携して、毎年、学術的見地にしっかり立ちながらも、一般向けにもわかりやすく書かれた古代歴史文化に関する本を表彰している。開催6回目をむかえた今年も、先ごろ大賞受賞作が決定。一体、どんな本が選ばれたのか、授賞式の模様と共にお届けしよう。

 都内某ホテルで開催された「第6回 古代歴史文化賞授賞式」。会場には、大賞ノミネート作の著者、選定委員、各県の代表が顔を揃えた。挨拶に立った京都大学名誉教授の金田章裕選定委員長によれば、今年は専門家や有識者による推薦委員と歴史関連書籍を出版している出版社から推薦本が83冊あがり、重複などをのぞいて49作品が審査対象に。厳正な審査の結果、5作のノミネート作に絞られたという。

 大賞発表の前には、ノミネート作の著者に記念品贈呈が行われた。5つの白い封筒からそれぞれが選び、中にある紙に書いてある県の特産品詰め合わせが贈られるという趣向は、5県共催の「古代歴史文化賞」ならでは。

 そしていよいよ、金田委員長が大賞を発表。当日の午前中の会議で決定されたばかりという今年の受賞作は『儀式でうたうやまと歌 木簡に書き琴を奏でる』(犬飼 隆/塙書房)となった。続く表彰式では、賞状や副賞賞金のほか、古代の出雲国造が天皇に献上したという霊力をひめた玉の宝器を、島根の現代の工房で再現した「美保岐玉」が正賞として著者の犬飼隆氏に贈られた。

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【大賞受賞作】
『儀式でうたうやまと歌 木簡に書き琴を奏でる』
犬飼 隆/塙書房

(書籍紹介)
近年遺跡から出土するようになった歌を書いた木簡から、古代日本ではやまと歌が儀式の音楽として歌われていたことがわかってきた。そうした儀式は中国から朝鮮半島を通じて7世紀の日本に入ってきたものであり、やがて日本古来のものとして認識されて和歌誕生へとつながっていく。歌がどのように歌われたかに注目し、和歌の起源について大胆な仮説を提示する。

(選定理由)
歌の成立について多角的な側面から総合的に検討し説得力がある上、歴史用語を現代的に言い換えるなどわかりやすさへの配慮もある。和歌の成立以前における歌の姿を具体的に明らかにしただけでなく、東アジアの中での日本の漢字文化成立過程を踏まえて歴史的に考察しており、日本の伝統がどのように形成されたのかを考えさせる力作。

(著者より)
本人は堅い内容を淡々とまとめたつもりでいましたので、このように評価をしていただけるとは思いがけず、光栄です。この本がみなさんに、日本の和歌の魅力をあらためて味わっていただく上で役に立てばありがたいことです。

 続いて他のノミネート作品は「優秀作品賞」として大阪府文化財センター理事長の田辺征夫委員長代理によって選評が述べられ、それぞれ表彰が行われた。閉会に際し金田委員長は「今年の受賞作は東アジアを舞台としたスケールの大きな作品、今までにない視点での研究を盛り込んだ作品に恵まれた」と総評を述べ、「古代歴史文化賞は歴史学、考古学をはじめ、文学、語学、民俗学、あるいは古代を大賞とした分析科学など幅広い範囲を対象にしています。この賞への理解がさらに高まり、多くのみなさんが賞の決定を楽しみにしてくれる賞に成長するようつとめると共に、本日の受賞作を多くの方に手にとっていただけることを期待したい」と締めくくった。

【優秀作品賞】
『古墳の古代史 東アジアの中の日本』
森下章司/筑摩書房

(書籍紹介)
日本独自の前方後円墳を中心に東アジア各地の王墓と比較すると、日本の王墓は中国で権力を誇示する大きな墓が衰退した時代に成立したものであり、内部構造や管理形態などが大きく異なることがわかってくる。世界史的な見地でみる日本の古墳の特色とは?

(選評)
前方後円墳を中心とした日本の墳墓と、中国・朝鮮半島など東アジア各地の王墓を包括的に比較した試みとしては初の本。大変興味深い指摘も多く、日本の古墳の特色を広い視野で世界史的に明確にしようとする試みは意欲的。

(著者コメント)
日本の古墳をいろいろな地域と比較してみたいという気持ちで書きました。一般の方に考古学の史料や古墳に関心を持ってもらいたいと思っていたので、少しでも評価されたのなら光栄です。

【優秀作品賞】
『日本神話はいかに描かれてきたか 近代国家が求めたイメージ』
及川智早/新潮社

(書籍紹介)
現代の日本人が持つ神話のイメージはどこからきたのか? 「神話を描く絵」の変遷は、近世から近代にかけて『古事記』『日本書紀』が時代の要請で再解釈され定着したことを現在に伝える。神話は変容するものであり、その浸透に絵画が大きな役割を果たしたことを明らかにする。

(選評)
日本神話のイメージがどうできあがったのか。引札や挿絵など絵画の変遷から具体的、ビジュアル的に明らかにし、こうした絵画がいかに大きな影響を与えたかを論じる。従来にない斬新な手法を高く評価した。

(著者コメント)
日本神話を近代がどのように受容したのかを研究している中で、今回は図像を中心に考えてみました。図像は文章より直接的でわかりやすく影響力も強いことが、やってみて自分でもわかりました。ありがとうございました。

【優秀作品賞】
『文明に抗した弥生の人びと』
寺前直人/吉川弘文館

(本紹介)
稲作が九州を中心とした西日本に取り入れられ、やがて東日本に伝播したというのが従来の弥生時代像。だが列島の文化は多様であり、実際には先進的文物により統合が進んだ社会と、集団の平等を維持する縄文的社会が共存。むしろ縄文的要素は西日本に影響を与えていたのだ。

(選評)
弥生時代においても、平等性を維持する縄文文化のやり方を継承した東日本のあり方を積極的に評価していること、新しい弥生時代像を提示している点を高く評価した。

(著者コメント)
考古学は歴史の中の忘れられた人たちの立場に立って、その史料を泥だらけになりながら掘り返す、非常に時間のかかる学問です。そうした学問の楽しさや苦しさが多くの人に伝わればと書いたので、とても嬉しいです。

【優秀作品賞】
『倭の五王』
河内春人/中央公論新社

(本紹介)
5世紀に日本列島から中国に使者を派遣した5人の王。それぞれの王はどのような外交を行ったのか。その目的とは、そして中国・朝鮮と交渉する過程で古代王権とその政治組織がどのように成長していったのか、日本の古代国家の成り立ちを外交の分析から明らかにしていく。

(選評)
外交に注目し、いかに王権と政治組織が確立していったかがダイナミックに描かれている。日本の古代国家の成り立ちを無理に記紀に頼らず、より確かな中国の書を軸に展開した点も斬新だった。

(著者コメント)
日本古代史の文献史学が専攻ですが、今回は中国史、朝鮮史、考古学など学問の分野を超えて取り組んだらどうなるかを試みました。そこが評価されたことは大きな励みであり、より研究を深めていきたいと思っています。

取材・文=荒井理恵