仕事が来ない、不払いクライアントとの攻防…「フリーランス」になる前に知りたいメリット・デメリット
公開日:2018/11/22
最近は新しい働き方として「フリーランス」という言葉を耳にする機会が増えたのではないか。企業や組織に所属するのではなく、自分の仕事は自分で取ってくるという働き方は、自由な仕事のスタイルとして注目を集めている。だが、実際にフリーランスとして働くというのはどういうものなのか、きちんと理解するのは簡単ではない。身近にそうした仕事の仕方をしている人がいれば別だが、多くの人は「フリーランスってどういうもの?」と疑問を浮かべるだろう。
『フリーランスで行こう! 会社に頼らない、新しい「働き方」』(高田ゲンキ/インプレス)は、イラストレーターとして独立し、フリーランスで活動した著者による体験記である。自由な働き方に憧れ、独立を果たした著者だが、実際の仕事は理想どおりの部分もあれば希望とはかけ離れた現実にぶつかる部分もあったという。たとえば、フリーランスになりたての頃、いくら待っても仕事が来なかった。サイトを立ち上げ、友人知人に名刺を配って回ったにもかかわらず、一向に依頼が来ないことに焦ったという。だが、その原因はいたって簡単なものだった。本気で「営業」をしていないから仕事が来なかったのだ。
著者いわく「実力さえあれば仕事が来る」と思っていたらしいが、仕事を受けるには営業は欠かせない。それに気づくと、今度は数多くの出版社に手あたり次第にアポイントを取り、営業をかけまくった。すると、ひどく落ち込むような対応をされる時もあったが、次第に仕事が舞い込むようになったという。フリーランスにとって「営業」は生命線であると実感したというのだ。企業に勤めていると実感できないが、従業員の仕事というのは、営業部あるいは社長自らが「取ってくる」のが普通である。フリーランスは仕事に関わること全てを自分でしなければいけない以上、営業もまた「仕事」になるのだ。
また、フリーランスならではのトラブルについても経験談が語られている。すでに納品した作品について、「利用するイベントが中止になったから料金は支払わない」と支払いを突っぱねられたり、イラストを勝手に改変したうえで「著作権に関する契約が済んでいるから納得してくれ」と無理強いされそうになったりしたという。そこで助けになったのは、著者の奥さんが「法学部出身」であったこと。支払い拒否には「少額訴訟」で、無断改変には「著作人格権」で対応し、事なきを得たという。だが、法律的に正しい主張にさえ、「たくさんの企業が関わる案件でワガママをいうのか」「今後は仕事を回せなくなる」といった恫喝まがいの言い分で押しきろうとするクライアントもいる。だが、著者は数多くのクライアントと仕事をするという方法を選択していたため、無理難題を突き付けられても拒否することができたのだ。
フリーランスという言葉には不思議な魅力がある。「自由な働き方ができる」と言われれば、企業に勤めて大変な思いをしている人にとっては、どうしようもなく憧れてしまうものかもしれない。しかし、実際にフリーランスとして仕事をするには自ら営業し、トラブルがあれば自力で解決することが求められる。決して「好きなことを仕事にする気楽な働き方」ではないのだ。多くの苦労があることを承知のうえで、それでも「自分の好きな仕事で稼げるようになりたい」と願う人にとって、フリーランスという働き方は素晴らしいものだろう。著者は、憧れのイラストレーターから贈られた言葉として「安定は敵」「孤独を力に変えろ」と教わったという。フリーランスで働くという不安定さや孤独さが、いかに大変なものなのか、そして大切なものなのかを知るうえでも本書は読んでおく一冊だろう。実際にフリーランスで働こうとする人が参考にするのはもちろん、勤め人として仕事をする人にとっても「こういう働き方もあるんだ」と知るキッカケになるだろう。
文=方山敏彦