「マイナス感情」でいっぱいになりそうなアナタへ――京都・鞍馬寺94歳女性貫主が教える、人生との向き合い方
公開日:2018/11/27
巷ではパワースポットという言葉が人気で、休日ともなるとパワースポット巡りをする人が増えているという。日常生活から解放されて、自然豊かな地を訪れパワーを吸収するというのだ。そんなパワースポットの一つとして知られているのが、京都市左京区にある鞍馬寺。ここでは、94歳にもなる女性貫主(かんす)が日々を過ごしており、今彼女が書いた本『すべておまかせ~京都・鞍馬寺94歳女性貫主が教える あるがままの生かされ方~』(信楽香仁/トゥーヴァージンズ)が話題になっている。
日々生きていると、ちょっとしたことでイライラしたり、思い悩んだりすることだらけだ。そんな状況を変えようともがきながらも、自身でうまく切り替えることはなかなか難しい。そんな人にぜひとも読んでもらいたいのが本書である。著書の信楽香仁氏は、1945年、彼女が二十歳のときに入山し、それ以降現在まで鞍馬寺でのお勤めを果たしてきた人物だ。自然が厳しい京都の山深い土地で生活したからこそ得られた、自然との付き合い方や自然に感謝する心などについて本の中で言及している。
・今生きているのは、太陽や月のおかげ
・お水さん、遠路はるばるようこそ
・ゴミを捨てるときは「ご苦労様でした」
・あなた次第でどこでもパワースポット
など、毎日の生活の中でちょっと見方を変えるだけで、生きていくのは楽になれると教えてくれる内容となっている。たとえば、蛇口をひねると当たり前のように水が流れてくるが、その水は一体どこからやってくるのだろうか。地上に降った雨がダムに溜まり、それを浄化して水道管を通りわたしたちのもとへ届けられる。そもそも自然の恵みの雨がなければ、飲み水を確保することも難しいのだ。そういうことに思いを馳せると、「あたりまえ」のことが「ありがたい」に変わると著者はいう。
本書の中で印象的だったのが、著者が眠る前に毎日電気や水道に感謝して声がけをすること。火の元を確認して回るときに、「電気さん、ありがとう」「お水さん、ありがとう」と実際に声に出すのが習慣となっているそう。睡眠も「活力を充電させていただく貴重な時間」だと捉え、今日一日への感謝を感じながら眠りにつく。とにかく謙虚で感謝の心を忘れない彼女の姿勢に背筋が伸びたような気になる。どんな小さいことへも感謝の心を持つことが、幸せに生きるためのコツなのかもしれない。
誰しも、物事がうまく進まないときがあり、焦ったり悲観したりとマイナスの気持ちに飲み込まれそうになる。そんなとき、著者は「まだその時期じゃないんだ」と思うようにしているという。
植物も種を蒔いたからといって、すぐに芽が出るわけではありません。芽を出す時期があり、花が咲く時期があり、実がなる時期がある。それ相応のときがあります。加えて、お日さまの力も、雨の力も借りないといけません。さまざまな条件が整わなければ、なにごとも結実しないのです
マイナスの気持ちから解放されると、不思議と状況が好転して計画が実現することがあるもの。常に前向きな気持ちでいると、良い運や出来事をも引き寄せるのかもしれない。さらに、日常生活の中で活かせる知恵として、仏教では「ものや人自体には善いも悪いもない」と捉えることを教えてくれる。作物を育ててくれる太陽さえも、日照りのときには厄介者として扱われてしまう。
善し悪しは人間の色眼鏡を通して判断した結果生じるものであると考えれば、自分の周りの出来事を「ありのまま」に味わうことができるのではないだろうか。職場や家庭で誰かにイライラして責め立てることもあるだろう。しかし、それは自分の価値観だけで判断したことではないか、相手にも事情があるのではないかなど、一呼吸おいてみることで世界の見方が変わるのかもしれない。
本書の最終章には、一日一日をより明るく生きるための指針となる珠玉の言葉が31日分集められている。仏教のエッセンスを取り入れた言葉が、読者にわかりやすくまとめられているのがうれしい。生きること、人としてのあり方、人間関係で役立つ言葉などが、毎日を前向きに過ごすための力となってくれるだろう。
文=トキタリコ