『新世界』未収録の“幻"の「おわりに」を公開! キンコン西野亮廣「正直者がバカを見ない未来の方が面白い。だから、作る」

ビジネス

更新日:2018/11/30

 芸人として舞台にも立ちながら、メンバー1万3000人超えという国内最大規模のオンラインサロンも運営するキングコング・西野亮廣さん。彼の最新の書籍である『新世界』(KADOKAWA)では、それまで『革命のファンファーレ』(幻冬舎)などで言及されていたお金や広告に対する価値観をベースに、オンラインサロンを運営したことで得た実体験などが多数事例として紹介されている。

 時代の大きな流れや、それに伴う価値観の変容、そして自身の実体験から得た気づきなどが書かれた本書籍の中で、西野さんは「声の小さな人も暮らしやすくなる世界を作りたい」という。

 はたして西野さんはなぜそのような世界を思い描き、日々リスクを背負いながらも行動し続けるのか。そのモチベーションの源泉について聞いた。

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 ちなみにこの取材は、西野さんが8700冊の新刊にサインをする日に行われた。サインをするために手を動かしながらも、質問に答え続け、ときにじっと考えながら言葉を選ぶ西野さんの姿があった。

■オンラインサロンの規模を大きくしたら経済圏が生まれた

西野亮廣氏(以下、西野):なんか、すみません。サインしながら、とか偉そうですよね。

――むしろ貴重な様子を窺えて面白いです。今日中にサインを終わらせるスケジュールなんですか?

西野:いや、実は1秒1冊のペースでも終わらないらしくて、今日は諦めました。とにかく今できるところまでサインしようかな、と。

――今回の書籍を拝読しましたが、今までの本と比べて特に印象的だったのは「オンラインサロン」の内情が詳しく書かれていたことです。ここは『新世界』の中で西野さんが特に伝えたかった部分になりますか?

西野:そうですね。今回の新刊で伝えたかったのは、まずひとつは「オンラインサロン」について。そして、そのオンラインサロンの隆盛によって今後、何が必要になり何が必要じゃなくなるか、それを僕なりの目線で考えて書きました。

 オンラインサロンが盛り上がれば盛り上がるほど、一般的な「会社」というのも形ややり方を考え直していかないといけなくなる。たとえば、今日ここで働いているスタッフって、自分からお金を払ってここにいるんですよ。

――え、アルバイトではないんですか。

西野:僕も最初はアルバイトが手伝ってくれるのかな、って思っていたんだけど、現場に来てみたらオンラインサロンのメンバーで。昨日僕が「西野が働いているところを見学できる権利」を20人くらい限定で販売したんです。

 だから今日はどこかでメンバーが見ているんだろうなって思って来てみたら、見学どころか普通に働いている。もはやブラック企業の向こう側ですよ(笑)。でも、ここが理解できていないと、いまだに「お金で人を釣ることができる」って考えちゃうでしょ。もうそういうの難しくなってきているんじゃないかな、って思うんですけど。

――お金を払ってでも働きたい、という人が集まる組織ってなかなかないように思います。書籍を読んで、西野さんのオンラインサロンではこれだけ双方向でお金や仕事が巡っているのか、と驚きました。もはや小さな経済圏ができているような印象です。しかも、それを1万人以上の規模感で実現できている。

西野:最初は数百人規模だったんですけどね。その規模感ならハンドリングできるなというのはわかっていて。オンラインサロンって昔から「狭く深く」が大事にされてきたんですね。人数が増えれば増えるほどコミュニティの濃度が薄くなって価値が下がる、と言われてきた。

 でも、それって本当かな? って思ったんです。だって、どこも多くても1000人規模くらいで、実際には誰も万人規模は試していない。やってないのになぜそんなこと言えるのかな、って。もし万人規模が実現したら何かまた面白いことが起こるんじゃないか、って思ったんですよね。だから、最初は興味本位でやってみた感じですね。失敗したら閉じればいい、くらいの気持ちで。そしたら実際には、今おっしゃっていただいたような「経済圏」が生まれていた。

――今までのオンラインサロンの限界だと思われていたところを突破したら、また違う景色が見えたんですね。

西野:僕、最近は時間もお金もサロンメンバーにしか落としてないですからね。歯医者に行くならサロンメンバーがやっているところに行くし、引っ越すならサロンメンバーがやってる不動産屋さんに相談しに行く。その、「サロンメンバーがやっているお店」が一目でわかるマップも作ったので、メンバー同士の交流もそこで生まれているんですよね。

――経済が回り、マップが作られ、新たな社会のようなものができていますね。

西野:そう、もう町みたいな感じで。だから距離感もバカになって面白いですよ。ちょうど今、僕の友人でありサロンメンバーであるホームレス小谷っていうやつがパラオに行っているんですけど、それもサロンメンバーがパラオにいるってわかっているから。「あいついるんだ、じゃあパラオ行こうかな」って。

――じゃあ行こうかな、って距離ではないですけどね。

西野:うん、でも知っている人がいるというだけで心の距離感は近くなる。そういう意味で、今の僕にとっては感覚的に岐阜よりもパラオの方が近くて行きやすいんですよ。そこには物理的な距離では測れないものがあって、別軸の地球を作っているような気持ちになる。それが面白いんですよね。

■僕が気持ちいいから「知名度の低い人」を勝たせたいんです

――確かに、初めてのお店に行くときによくある「店員さんがそっけなかったら嫌だな」という不安も、そのマップのお店であれば解消されますね。行くのは初めてでも、そのお店にいる人は知っている。

西野:そう、それにそのマップのおかげで「いい人の店にお金が落ちる」っていうのがまたよくて。宣伝がうまい人とかではなくて、サロン内でコミュニケーションをとっていてよい距離感で話してくれる人のところに集まる、とか。いい人のお店に集まって、ずるい人のお店には集まらない。それがいいなって思うんですよ。

――「ずるい人」というのは具体的にどういうタイプの人ですか。

西野:「せこい人」って言った方が正しいかもしれませんね。ギブアンドテイクのテイク、つまり回収が早い人。「僕はこれだけやったんだから、これだけ返せ」とすぐに取っていってしまう。10年くらい前はそういう人たちが大きい顔していたと思うんですけど、今ってどちらかというと、「お前何回ギブすんねん」って突っ込みたくなるくらい与えてばかりの人間の方が人が集まるじゃないですか。田舎のおばあちゃんみたいな。

――そういうタイプの人の方がこれから生きやすくなる、というのは時代の流れとしてあるかもしれません。それに加えて、西野さんの個人的な感情としても、「何回ギブすんねん」みたいな人に対して特別な感情はあったりするのでしょうか。

西野:僕はすっごい田舎、兵庫県の山奥で生まれ育ったんで、かなり身近な存在ではありましたね。頼んでもないのに、あれ食べろこれ食べろって言ってくるような人たちが周りにたくさんいた。

――子供の頃の原体験が、今の人間観に影響している部分もあるということでしょうか。

西野:言われてみたらそういう面もあるかもしれないですね。単純にそういう人の方が喋っていて気持ちがいいというのもありますし。あとは、正直者がバカを見る時代がずっと続いていたので、それを終わりにしたいな、という思いもあります。なんでこいつこんなにいいやつなのに、ひもじい思いしてるんだ、みたいな。

――今回の書籍でも「知名度の低い正直者」がより暮らしやすくなるような未来図を描いていましたが、知名度のある西野さんが知名度の低い正直者にそこまで肩入れする理由やモチベーションはどこから来ているのでしょう。

西野:単純にそっちの方が人数が多い、というのはありますよ。それだけニーズがあるから、という話。あとは、自分の父親のような人間が好き勝手できる世の中の方が、僕や堀江貴文さんのような人ばかりがブイブイ言っているよりもいいなって思うんですよね。

 たとえば、満足度ってスコアの高さよりも伸び率だと思っているんです。94点から95点にあげるよりも、0点の人が50点とれるようになった方が楽しいじゃないですか。そういう意味で、声が小さい人を勝たせてあげた方が楽しいですよね。単純に自分が気持ちいい。

――社会的な意義などよりも、もっと率直な自分の欲求なんですね。

西野:そうですそうです。もう、オナニーですね。自分が気持ちいいからやる。僕の父ちゃんがこんなことできるようになったよ、という話を聞いた方が「やった!」って思えるし、ええことやったなって納得できるし、それだけでニマニマしながら酒飲める。

■夢を語りたいなら起き上がり癖をつける

――日本社会をどうにかしたい、というよりは、もっと身近なところから変えていきたい、というか。

西野:そうですね。僕ちょっと頭が悪いので、日本社会のこととかよくわからないんですよ。でも、たとえば自分の父ちゃんとか、相方の梶原とか、梶原の家族とか、彼らのことであれば「こうすれば守ることができる」ってわかる。というより、そんなことしかわからない。その先のことはわからないです。

――そういう想いをもちながらも、オンラインサロンの規模はどんどん大きくなっているのがまた面白いです。

西野:そうですね。今1万3000人くらいで、10万人くらいになればいいなと思っています。それくらいの規模になれば、サロンメンバーだけで映画やドラマを作ることもできる。そっちを一回見てみたいなって思ったんですよね。……といっても僕は最近何もしてなくて、ただ酒飲んで夢語ってるだけ。スタッフの人たちが頑張って実現まで動いてくれているんですよ。

――なるほど。ただ、夢を語れるというのも、またひとつの才能のように感じます。西野さんはなぜそれほど具体的なビジョンをもって夢を語ることができるのでしょうか。

西野:うーん、「起き上がり癖」がついているかどうか、ですかね。ドカンとこけたあとに、じゃあここからどうやって巻き返すかな、と考えられる癖がついていると、失敗してもなんとかなるっしょ、と楽観的に思えるし、夢は語りやすくなるかもしれない。僕はそこは自分をすごく信用しているんですよね。結局なんとかなるんだろうな、って。

――それはやっぱりどれだけチャレンジしてきたか、というところなんですかね。

西野:そうですね。起き上がる力って、こけないと身につかないので。だからこそ繰り返し挑戦し続ける。

――こけることを恐れずに、繰り返し挑戦して起き上がり癖をつける。ちなみに西野さんは何か挑戦するとなったときに恐れはないですか。

西野:これはオンラインサロンをやっているとすごくわかりやすいんですけど、今日何人増えて何人減ったか、というのが数字で出るんです。じゃあどういうときに増えるんだろう、って見てみると、勝っているときではなくて「負けててもちゃんと挑戦しているとき」に増えるんですよね。ズコーッとこけたときとか、来週どうなっちゃってるんだろう、みたいな状態のときが人数が増える。それはシンプルに数字として表れているから面白いですよ。

 勝負すれば人が増える、というのはわかっている。勝とうが負けようが関係ない。だから、僕にとっては挑戦しない理由がないんです。

――今回の書籍には、西野さんがそうやって挑戦し続けた結果が具体的な事例とともに書かれていますよね。だからこその説得力があると思いましたし、多くの人にとって最初の一歩を踏み出したくなる一冊だと思いました。

西野:以前出した『革命のファンファーレ』って、主にお金と広告の話をしていて、いわば一歩踏み出した人に向けた本だったんです。本を書いた、じゃあ、どうやって売るの? ミュージシャンになった、じゃあ、どうやって集客するの? そういった話を書いた本だったんですね。

 でも今回の本は、もっと手前の、踏み出せない人たちに向けた本です。そういう人たちに向けて、「こっちの道に行ったらこんなことあったよ」とか「こっち行った方がいいんじゃね」みたいなことを伝えている。

――西野さんが実際に踏み出したからこそ見えた世界を共有する、というイメージですか。

西野:そうですね。「ここ落とし穴あったよ」とか「ここ険しいって言われているけど、実はそうでもなかったよ」という話もある。たとえば僕は「ひな壇に出なかったら死ぬぞ」と言われていたけど、死ななかった。この道は大丈夫だよ、ってわかったので言うことができる。たぶん、その「情報」さえ共有していれば、誰だって最初の一歩って踏み出せると思うんですよね。

取材・文=園田菜々 撮影=岡村大輔

 

 ここで、ダ・ヴィンチニュースだけに、西野さんが2018年初夏に書き終えたという『新世界』未収録の原稿を掲載させてもらうことができた。『新世界』の322ページからはじまる「おわりに」の“幻”の第一稿だ。いっさい修正を加えていない生原稿は、実際の『新世界』と大きく異なる。ぜひ読み比べてみてほしい。

おわりに

 2030年には日本の労働人口の約半分が人工知能で代替可能になると言われている。

 まったく賑やかな時代に生まれたもんだ。

 すべての職業には寿命があって、これまでだって、その時代時代で無くなっていく仕事はあったんだけど、ここまで一遍に仕事が無くなる時代は、地球が始まってから初めて。

 過去、誰も経験したことがないんだ。

 ボクらの父ちゃんや母ちゃん世代までは「どの仕事に就くか?」だったけど、仕事自体が無くなるこの時代を生きるボクらに出された宿題は、「どうやって新しい仕事を作るか?」

 ボクらは「仕事」無しでは生きられない。

 厳密に言うと、「役割」無しでは生きていけないんだ。

 一体、何故か?

 ボクらは“他人から求められること”で精神的なバランスを保ち、健康を保っている。

 ホラ、キミの周りにもいる「朝から晩まで活き活きと走り回っているヤツ」って、まるで風邪をひかないだろ?

 酒もタバコも大量摂取しているのに、やたらと元気な90歳だっている。

 心と身体は表裏一体で、精神的に崩れると、身体も弱くなる。

 ガン治療には「生きがい療法」があるぐらいだ。

 ロボットが仕事を代替えする時代に生きるキミは、決してロボットには代替えされない仕事を作る必要がある。

 その時、考えなければいけないのは「収入」ではなくて、「役割」や「生きがい」の方だろうね。

 目覚まし屋の仕事は、目覚まし時計に代替えされた。

 でも、目覚まし時計があっても、寝坊してしまうことがある。無意識のうちにアラームを止めてしまっていたり、そもそもセットし忘れていたり。

 何故、そういうことが起こるかというと、目覚まし時計のことを信用しすぎていて、安心しきっているからだ。

 その油断が、「目覚まし時計があるのに寝坊した」というワケの分からない事態を生む。

 この問題を解決したくて『めざまし小谷』というサービスを始めてみた。

 ホームレス小谷によるモーニングコールサービスなんだけど、注意書きには「ご予約いただいた時間になると小谷から電話がかかってきますが、激しい確率で小谷が寝坊しますので、期待しないでください」とある。

 5~6回に一度しか電話がかかってこないんだ。

 「かかってこないかもしれない」という不安を抱えた利用者は、モーニングコールがある5分前に目覚まし時計をセットする始末。

 結果、『めざまし小谷』のサービス開始から今日まで、利用者の寝坊はゼロ件。

 史上稀に見る糞サービスだけど、大変喜ばれている。

 利用料金は一回50円。べつに払わなくてもいい。

 大切なのは、利用者とホームレス小谷の双方に「役割」があることだ。

 こんな仕事がロボットに代替えされるわけがない。

「ふざけやがって(笑)」で許されるホームレス小谷のパーソナルな部分を利用した仕事なので。

 人間にしかできない仕事なので。

『めざまし小谷』は、さすがにやりすぎだとしても、やっぱりキミがこれから作る仕事は、ロボットには代替えされない仕事でなければいけないし、可能であるなら、他の誰でもなく、キミにしかできない仕事であるのが望ましい。

 この本の最後にお話しするのは、『キミにしかできない仕事の作り方』だ。

 さて。

 そもそも「仕事」は、どういう場面で生まれているだろう?

 答えは「差異」だ。

 普通の人がヒットを打てない中、イチロー選手だけがヒットを量産するから、彼の行動に価値が発生している。

 いかにして普通の人と「差異」を生むか?

 もっとバカな言い方をすると、「いかにして天才になるか?」だね。

 はやい話、キミが『天才』になっちゃえばいいわけだ。

 こんなことを言うと、決まって「『天才』というのは生まれもったものだから…」と言われちゃうんだけど、ボクはそうは思わない。

 『天才』とは後天的なもので……つまり、作りだすことができる。

 説明するね。

 1980年代に一世風靡した漫才コンビ『紳助・竜介』の漫才に「飛行機が、なんで飛ぶか分かるか?」というネタがある。

 竜介さんは「そりゃプロペラがあって、羽があって…」と航空力学で返すんだけど、紳助さんは「そんなもんで、あんな鉄の塊が飛ぶわけないやろ!」と一喝。

 その後に続く、言い分が痛快だ。

「よく聞けよオマエ。あれだけ人を乗せてて、あれだけ料金をとってて、滑走路を走り出してもうてて、まもなく滑走路が無くなって、このまま行ったら海に落ちてしまう ……こうなったら、飛ばないとアカンやん」

「飛行機が飛ぶ理由は、飛ばざるをえないから」という無茶苦茶な言い分だけど、しかし真理だ。

 ボクらの哲学や思考や運動能力は「環境」が支配している。

 鳥は羽を生やさざるをえない環境に追いやられたから羽を生やしたし、海から陸に上がった生き物は陸に上がらざるをえない環境に追いやられたから、陸に上がり、陸で生きていく為に手足を生やさないといけなくなったから、手足を生やした。

「極端な才能」は「極端な環境」が生んだわけだ。

「極端な環境」が必ず先にあって、その後に帳尻を合わせるように「極端な才能」が発生している。

「環境」と「才能」の発生順は、いつもコレ。

 ボクたち生き物が、生き延びるようにプログラミングされているからだろうね。

 逆に言うと、皆と同じような環境に生きていると、そこから天才になるのは難しい。

 天才にならなくてもいい環境だからだ。

 たとえば、キミがケーキ屋だとする。

 ケーキの売り上げで店の家賃を払い、翌日のケーキを作り、あまったお金で新作ケーキの開発をして……という環境を選んだ時点で、キミが他の店をブッちぎるのは、ほぼ不可能だ。

 他の店も同じやり方をしているからだ。

 極論かもしれないけれど、「本業で収益を出すことを捨てる」というのも、キミが天才になる為の一手かもしれないね。

 ちなみにボクは、

 テレビタレントだけれどテレビの収益で生きていないし、

 漫才師だけれど漫才の収益で生きていないし、

 作家だけれど作家の収益で生きていない。

 なので、結果的に、テレビと交渉ができるようになったし、本の印税を全額、本の広告費に充てることも可能になった。

 本業以外で収益が出せていると、本業でエッジの効いた活動をすることができる。

「本業での収益を放棄する」という「極端な環境」を与えてみたら、本当に「極端な才能」が発生するかどうかを、試しに実験してみた。

 遊び半分で、都内に『キャンディ』というスナックを作ったんだけど、まず最初に決めたルールは「飲食すべて無料」

 飲食店なのに、飲食を無料にしてみた。

 つまり、本業での収益を放棄してみたんだ。

 さて、どうしよう?

 従業員さんのお給料も払わなくちゃいけないし、家賃や光熱費、なによりも飲食無料なので仕入れ代もバカにならない。

 そこで月額500円のファンクラブを作ることにした。

 ファンククラブ特典は、3つ。

①全国どこにいてもスナック『キャンディ』に来ているお客さんと、動画配信で繋がることができる「オンライン呑み会」に参加できる。

②スナック『キャンディ』を運営する「株式会社スナック」の経営に口を出せる。

③スナック『キャンディ』の場所を教えてもらえる。

 特典は、この三つ。

 ③のせいで、住所非公開のお店になっちゃったけど、それもまぁ良しとしよう。

 そんなこんなでスナック『キャンディ』のファンクラブを募集したところ、800人が集まった。

 「やったぜ。ファンクラブの売り上げで、店が回せる」と喜んだんだけど、800人×500円で、月に40万円。

 そこからファンクラブのサイトの手数料が引かれて、35万円。

 お店の家賃が25万円で、そこから従業員さんのお給料や、光熱費、さらにはバカみたいな仕入れ代がかかってくる。

 お金がまるで足りないことに気がついたんだ。

 

 死ぬかと思ったよ。

 この時点でスナック『キャンディ』が抱えている問題は二つ。

 一つ目は「お金が圧倒的に足りない問題」、そして二つ目が更に深刻な「ゲロ問題」

 飲食無料なので、ガバガバ呑まれてしまう為、ゲロ率が極端に上がってしまうんだ。

 狭い店内でゲロなんて吐かれたら大変な空気になるし、グロッキー状態にある犯人は確実に許されない。

 スナック『キャンディ』は立ち上げ間もなく、「お金不足」と「ゲロ満足」という深刻な二つの問題により瀕死状態にあった。

「なんとかしなければ」

 800人のファンクラブの皆と足掻きに足掻いた結果、なんと、この「お金不足」と「ゲロ満足」という地獄問題を一気に解決するスーパーアイデアが飛び出てきた。

『一ゲロ=罰金10万円』である。

 これにより、ゲロが支援になり、ゲロを吐いた人間には「ごちそうさまです!」という声がかけられ、皆からヒーローとして称えられる。

 スナック『キャンディ』は地球初の「ゲロの売り上げで回っている飲食店」となった。

 ここでポイントは、『一ゲロ=罰金10万円』というアイデアが頭で考えて出てきた答えではないということだ。

 まず最初に「飲食無料」という『極端な環境』を与えて、それでも生き延びようとしたから、「ゲロの売り上げで回る飲食店」という『極端な才能』を生んだんだ。

 キミは、お役所の仕事に不満はあるかな?

 キミは、頭の固い上司の仕事に不満はあるかな?

 上への確認ばかりを繰り返して、まるで自分で責任をとる覚悟がないアイツらの動きはイチイチ遅い。

 アイツらせいで、キミはもとより、ミが大切にしてる気持ちや、キミの家族にまでシワ寄せがいく始末。

 ホント、ムカつくよね?

 ここで「はい」と答えたキミに訊きたいんだけど、その環境は、なぜ変わらない?

 なぜ、いつまでたってもキミや、キミの大切にしているものが、傷を負い続けている?

 その理由は一つしかない。

 キミが弱いからだ。

 極端な環境に身を投じることを避け続けた今のキミには、力が備わっていない。

 もしキミに守りたいモノや守りたい人がいるのなら、その方法はキミ自身が強くなるしかない。

 流れに振り回されない圧倒的な力さえ手にいれれば、キミが守りたいモノを守ることができる。

 言い訳をしちゃダメだ。

 今、キミの目に映っているもの全てが、これまでの結果だ。

 もう、情報は伝えた。

 武器は渡した。

 ここから先は頭で考えちゃダメだ。

 「現実」というものは、行動を起こしていない人間の想定を軽く越えてくる。

 足を動かしていない人間が出す答えには何の価値もない。

 考えるだけ身体が固くなる。無駄だ。

 武器の使い方は、戦いながら覚えるんだ。

 今、この瞬間に覚悟を決めた方がいい。

 できるか?

 強くなってください。

 僕も強くなります。

 そうすればボクらは、今いる場所よりもずっと高い場所で必ず出会えるので、そこで一緒に呑みましょう。

 互いの土産話はそこそこに、そこでも未来の話をしたいね。

 キミの挑戦が上手くいくことを願っています。

 くれぐれも身体には気をつけて。

西野亮廣