思い切って「余計なこと」をやめる勇気。必要な「選択と集中」はどう選べばいい?
公開日:2018/11/29
環境の変化が予測できない現代では、個人も会社も“複数の収入源を持つ”ことが良いとされている。例えば、個人であれば、リスクの分散や、多角的なスキル・人脈の獲得…など、そうした働き方によって得られるメリットは多い。
だが、それがすべての個人や会社にとっての最適解とは限らない。たくさんある事業を思い切って減らし、得意分野へと一極集中することで大成功を収めている人もいる。本書『余計なことはやめなさい! ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方』(集英社)の著者・氏家健治さんもそのひとり。氏家さんは、かつては赤字だったイタリアンレストラン「ケンズカフェ(現在は、ケンズカフェ東京)」の業務において、“余計なこと”を次々にやめ、ついにはガトーショコラの販売だけに専念した。その結果、メディアにも多数取り上げられるようになり、今年は年商3億円を見込むまでに成長している。氏家さんは、なぜここまでの成功を収められたのだろうか。
■今やっているその商売、本当に意味はありますか?
本書で著者が強調するのは、業界の常識にとらわれず、本当に価値のある業務を見極めるべきだということ。赤字に苦しんでいた時のケンズカフェは、ディナータイムの客入りが圧倒的に少なかった。普通のお店ならそこで「ディナータイムの客入りを増やすために、○○をしよう」と考える。だが、著者は思い切ってディナータイム自体をやめ、夜は予約客の宴会だけを扱うようにした。それまでは客入りの少なさから、日によって食材ロスが大量に出ていたのだが、予約に応じて準備する“受注生産”である宴会業態に切り替えてからは、当然そのロスはなくなった。当たり前すぎて疑いもしなかった「飲食店はディナータイムに営業する」という常識を打ち破ることで、ケンズカフェは閉店の危機から脱却したのだ。
■余計なことをやめれば、集中して新しいことができるようになる
その後、著者は思い切った判断で、事業をガトーショコラ販売に一本化することになる。元々はコース料理のデザートとして提供していたガトーショコラが評判になったため、テイクアウトでの販売を開始。その後、自社のECサイトを立ち上げ、全国への宅配を始めた。ガトーショコラの販売が軌道に乗り始めると、著者は次々と“余計なこと”をやめた。なんと、ランチと喫茶、そして宴会形式のディナー…要するに、ガトーショコラの販売以外のことをすべてやめたのだ。
さらに、並行してガトーショコラの質と値段を上げ、ブランドの価値を着実に高めていった。著者は、疲弊する上に利益も少なかったランチや、準備が大変な宴会の業務に縛られることがなくなり、“いかにガトーショコラを売るか”だけに専念できるようになった。その結果、宴会をなくした年の年商は1億5000万円にまで到達したという。
ケンズカフェ東京は、2018年10月現在、食べログの全国チョコレート店ランキング1位だ。自分(自社)の得意分野に資源を集中し、圧倒的な成功を得る――まさに、経営学における“選択と集中”の典型的な成功例である。本書のやり方をそのまま大企業に当てはめるのはむずかしいかもしれないが、飲食店などの中小企業の経営、あるいは私たち個人が自分の働き方を考える上で、これは大きなヒントになるはずだ。
文=中川 凌