弱った心にじんわり響く“後ろ向き名言”――スナフキン「いつもやさしく愛想よくなんてやってられない」

暮らし

公開日:2018/12/3

『弱った心がラクになる 後ろ向き名言100選』(鉄人社)

 世の中にはびこる自己啓発は、どれもこれもが眩しすぎる。やれ「努力をすれば夢が叶う」だとか、やれ「ポジティブシンキングが大切!」だとか、本当に心が芯から折れかけているとき、熱い言葉を目にするとむしろ気持ちがさらに萎えてしまう瞬間もある。

 真に折れかけた心を救ってくれるのは、誰かが発した後ろ向きだけどちょっとした勇気を与えてくれるような言葉の数々。著名人やキャラクター、名も無きネットの住人などのフレーズを集めた『弱った心がラクになる 後ろ向き名言100選』(鉄人社)には、さりげなく背中を押してくれるようないくつもの言葉が収録されている。

◎スナフキンやのび太の言葉に癒やされる

 社会で生きていると、多かれ少なかれ協調性が求められる。人の顔色をうかがいながら自分を押し殺さなければならない場面もあるが、ふと、そんな生活に疲れたとき響いてくるのは物語『ムーミン谷の仲間たち』に登場するスナフキンのセリフだ。

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いつもやさしく愛想よくなんてやってられないよ。理由はかんたん。時間がないんだ。

 この一節は、9つの短編からなる同作の一つ「春のしらべ」で彼が発したもの。作曲中のスナフキンに煙たがられ、どこかへ消えてしまった小さくて毛むくじゃらな“はい虫”に対してとっさに投げかけたセリフだ。クールで理知的なイメージもあるスナフキンであるが、その後、彼は旅を続けながらはい虫を探し続けることになる。

 また、アニメ『ドラえもん』ではいつもジャイアンやスネ夫の使いっ走りとして、翻ろうされる機会の多いキャラクター・野比のび太の名言もなかなか深い。

ぼくはだれの言うことも聞いちゃう。それなのにぼくの言うことは誰も聞いてくれない。ぼくは、そんな生まれつきなんだなぁ。

 このフレーズが出てくるのは、シリーズ未収録の作品を集めたコミック『ドラえもん・プラス』第3巻「アリガターヤ」の一コマ。ジャイアンやスネ夫にカバンを持てと言われたのち、スネ夫の弟や犬に手伝ってもらおうとするものの拒まれてしまいことごとくスルー。川縁で打ちひしがれるのび太のもとへ、ドラえもんがやってきたときに発した一言である。

◎人生について著名人が残した言葉の数々

 ライフステージの変化に伴い、悩むべき場面は多い。人生おいては結婚も大きな分岐点となるが、歌手・俳優の美輪明宏は次のような言葉を残している。

結婚式がなんのためにあるかというと、あれは、自由との告別式よ。

 この一節は、雑誌『婦人公論』(2012年9月22日号)に掲載された俳優・藤原竜也と尼僧で小説家の瀬戸内寂聴、美輪明宏による鼎談で発せられたもの。藤原竜也が結婚について質問をしたときの回答であるが、一方の瀬戸内寂聴は「私のなかのお坊さんの部分は、藤原さんに『結婚してお幸せにね』と言うけれど、作家の私からは『表現して活きていく人は結婚なんてやめなさい』と言いたい」とアドバイスをした。

 また、人生についての名言というのは目にする機会も多いが、20世紀のドイツ文学を代表する作家の一人、ヘルマン・ヘッセは以下のような言葉を伝えている。

目的のない生活は味気なく、目的のある生活は煩わしい。

 この言葉が残されているのは、若く熱狂的な唯美主義者である主人公の破滅を描いた小説『ヘルマン・ラウシャーの遺稿と詩』である。目的があろうがなかろうが、人生というのは厄介なものだという意味を込めたと思われる一節。ヘッセは他にも「儚さがなければ、美しいものはない。美と死、歓喜と無情とは、互いに求め合い、制約し合っている」など、人生にまつわる数々の名言を残している。

 さて、数々の名言の中から一部を紹介してきた。日常生活にふと疲れてしまったとき、本書をそっと開けば鬱々とした気持ちがわずかでも晴れることだろう。

文=カネコシュウヘイ