見知らぬ誰かの手紙があなたを救うかも…メディアで話題沸騰の「水曜日郵便局」を舞台にした物語

文芸・カルチャー

更新日:2018/12/5

 あなたは、「水曜日郵便局」をご存じですか。それは、水曜日の出来事を手紙に書いて送ると、後日、別の誰かが書いた水曜日の手紙が自分宛てに送られてくるというプロジェクト。元々は熊本県津奈木町の「つなぎ美術館」によるアートプロジェクトとして始まったもので、2013~2016年に「赤崎水曜日郵便局」として開局。2年9カ月の間に、海外を含め、全国から1万通近い手紙が寄せられたのだそうです。その後、第2弾として2017年12月6日から宮城県東松島市にある旧漁港で「鮫ヶ浦水曜日郵便局」が開局。2018年12月5日には閉局予定とのことですが、『あさチャン!』や『おはよう日本』など多くのメディアで取り上げられ、大きな話題を呼びました。

 海に向かって投げ込むメッセージボトルのように、日本中の水曜日の物語という日常を、手紙で繋いできた「鮫ヶ浦水曜日郵便局」。自分自身の日常の出来事と引き換えに、全く面識のない誰かの日常に触れることは、時に不思議な出会いを生み出すことでしょう。そんな奇跡を生み出してきた「鮫ヶ浦水曜日郵便局」をモチーフにした物語が続々刊行されています。

 たとえば、小池アミイゴさん文・絵の『水曜日郵便局 うーこのてがみ』(KADOKAWA)は、心あたたまる絵本作品。うさぎのうーこは手紙のやりとりをするなかで、退屈だと思っていた自分の暮らしがとっても素晴らしいものだったことに気づいていきます。あらためて周りを見渡せば見えてきた小さなお花たち。空や海の青さ。楽しそうな水鳥たち。手紙をやりとりしていくなかで、身近にあった美しいものに目を向けられるようになるのです。

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 森沢明夫さん著の小説『水曜日の手紙』(KADOKAWA)もまた、ささやかな奇跡を描いたやさしい物語です。

 日常に行き詰まりを感じている主婦・直美は、パン屋になるという高校時代の夢を叶えた理想の自分として、空想の水曜日を手紙に書き始めます。一方で、絵本作家になるという夢を諦めて会社員生活を送っていた洋輝はとある決意の手紙を「水曜日郵便局」に送りました。小さな日常を生きる人たちが誰かの言葉に励まされていく。夢に憧れる2人の手紙がそれぞれ運命を、そして、周囲の人の人生をも変えていきます。

《勇気を出して(遊び心を持って)今日という水曜日から一歩、前へと進み始めます。たった一度きりの人生、死ぬときに後悔しないために》

 私たちの生活はほんの少しのヒントで輝き始めるものです。そのきっかけをくれるのは、誰かからの言葉。誰かの言葉があなたを変える。あなたの言葉が誰かを変える。そんな奇跡の連鎖の物語は、きっと物語だけでなく、日常にもあふれているのかもしれません。

 どこかでまた「水曜日郵便局」が再び開局することを願うばかりです。ですが、実際に「水曜日郵便局」を体験していなくても、絵本や小説の中で描かれる物語に触れているだけでも胸がいっぱいになれるのはどうしてなのでしょうか。作品たちが私たちに新しい気づきをくれるからでしょうか。日常にちょっと疲れてしまっている人、夢がありながらもあと一歩が踏み出せない人は、「水曜日郵便局」関連本を手にとってみてはいかがでしょう。あなたの心のモヤモヤを晴らしてくれるような、そっと背中を押してもらえたような、あたたかい気持ちになれる作品があなたを待っています。

文=アサトーミナミ