「泣き叫ぶ患者」「血の噴水を目撃」ハードすぎて震える…笑えて泣けるナース漫画

マンガ

更新日:2018/12/3

 病院を舞台にした漫画で人気なのが、ナースが主役の物語。本稿では有名作品からリアルなコミックエッセイコミックまで6作品をセレクト。医者よりも患者さんの立場に近いナースたちの目から描かれる病院は、ハードだけど、どこかユーモラス。ナース漫画は医者が主人公の漫画よりコミカルに描かれているものが多いのも特徴だ。もし自分が入院したら担当してもらいたい、またもらいたくない(笑)と思うかもしれない。

■看護は強気! 情熱を燃やし奮闘する「新米ナース」のお仕事とは

 ナースはただ優しい白衣の天使ではない、と思わされるのが、『おたんこナース』(佐々木倫子:作画、小林光恵:原案/小学館)である。主人公は新米看護師、似鳥ユキエ21歳。ユキエは看護技術習得に燃え、入院患者看護に燃え、悪質患者更正に燃える。とにかく負けず嫌いな性格で、日々さまざまなおもしろトラブルを引き起こす…。

 動物と獣医の卵たちとのおもしろ日常漫画『動物のお医者さん』でおなじみの佐々木氏らしく、ハードなナースの現実を、笑える物語に仕上げている。基本的にコメディタッチではあるが、ユキエが担当する患者の死亡などシリアスなエピソードも描かれる。

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 現実にユニークで人間味がダダ漏れているような、ユキエのようなナースがいたら、患者の不安や病院内の殺伐とした雰囲気を軽減してくれるのではないだろうか。

■流されない!全力ナースが医療現場を変える!

 リアルなナース漫画といえば『Ns’あおい』(こしのりょう/講談社)だろう。清天総合病院の救急救命センターに勤務していた美空あおいは、患者の命を救うためとはいえ、看護師の裁量を超えた医療行為を行ってしまう。

 彼女は責任を取らされる形で、さまざまな問題が渦巻くあかね市民病院に転属させられる。明るく元気な性格のあおいは患者第一の姿勢で、医師たちや勤務態度が悪いナース仲間を巻き込みながら、事なかれ主義や隠ぺい体質を持った病院を徐々に変えて行く。

 理想の看護師を体現するようなあおいの目から、病院内や医療そのものの問題を描いているストーリーだ。長期連載作品で単行本は全32巻。その人気からテレビドラマも作られている。

■仕事は辛いし年齢も…アラサーナースの「リアル」

『じたばたナース』(水谷 緑/KADOKAWA・メディアファクトリー)の主人公はアラサーのナース、秋野海。本作は看護師エッセイ漫画で、アラサー女性としてのリアルな悩みもあわせて描かれている。

 4年目、後輩もでき、職場でも一人前扱いされるようになってきた海。もちろん年齢も上がってきている。でもまだ失敗して「あんた何年目なの?」と怒られることもしばしば…。私このまま看護師続けていいんだっけ? 結婚はどうする? 描かれるのは悩みながらもちょっとトホホで笑える日常だ。認知症患者さんの看護、暴れる患者、看取りの現場など、シリアスな医療現場がほのぼのとした絵柄で描かれている。水谷氏らしい緻密な取材により、知られざる病院の裏側を描いた本格医療系漫画としても楽しめる作品だ。

■元、正看護師だった作者が描く消化器内科の現実

『ナースは今日も眠れない!』(田中ひろみ/サンマーク出版)は、元正看護師の漫画家(イラストレーター)による、オブラートに包まないナースのコミックエッセイだ。ナースというと「白衣の天使」のイメージ。でも実態はそんなに「きれい」なものではない、というのが本作だ。主人公=作者が通った看護学校は厳しく、実習現場は毎日、大事件の連続…。さらに実習が終わったらそれ以上の地獄が待っていた。配属されたのは「魔の病棟」と恐れられていた消化器内科。そこには悪魔のような教育係、山田主任がいた。

 震える手で患者に注射をして、ミスして怒られる。点滴の速度を間違えて問題になる。日々叱られながら、泣き叫ぶ患者と奮闘したり、目の前で「血の噴水」を目撃したり、生死の現場を体験していく新人ナース。実体験のリアリティは心に迫ってくるが、絵がかわいらしいこともあり、深刻になりすぎずに楽しく読めるだろう。

■「新人」精神科ナースが見た壊れた人の心

『精神科ナースになったわけ』(水谷 緑/イースト・プレス)は、取材に基づき、精神科病院で働く看護師や医師、そして患者を描いているコミックエッセイである。水谷氏は『じたばたナース』や『まどか26歳、研修医やってます!』など、医療現場のリアルを確かな取材力で描いた作品に定評がある。

 本作の主人公は精神科の新人ナース太田。彼女は過労やストレスで自分が壊れたことから、こうも簡単に壊れてしまう「人の心」に興味を持つようになる。そして仕事を辞め、看護師の資格を取り、「精神科」で働くことを決意した。しかし精神の病を抱える患者たちとの日々は、想像以上に大変で忍耐力が必要だった…。

 心も体と同じだ。誰でもいつ病むかわからない。そして心を病むきっかけは、人生の転機、環境の変化、さらに普段の生活の中にも無数に存在している。「精神科」に興味を持った人はぜひ一読をおすすめしたい。

■ナースが向き合う産婦人科の光と陰

『透明なゆりかご』(沖田×華/講談社)は、産科・婦人科でナースだった作者、沖田氏のリアルすぎる実体験などが描かれている。

 高校3年生の主人公、×華(作者)は母親のすすめで産婦人科の見習い看護師として働くことになる。そこで×華は「産婦人科は命が生まれるだけの場所ではない」と知る。幸せな出産のすぐそばで、妊娠中絶、DV、性虐待に悩み苦しんでいるだけに、残酷さが際立つ…。出産の光と陰を経験したことで、×華は辞めようとするが、出産の現場に立ち会い生まれてくる命の力強さに感動し、仕事を続けていく決意をする。

 生死を分かつ現場は言うまでもなくハード。しかし産科・婦人科はひょっとすると最もシリアスで壮絶な医療現場かもしれない、と思わされる。なお考えさせられるような出産周りの厳しい現実だけではなく、読後に温かい気持ちになれるハートフルなエピソードも描かれている。

 笑えるドジなナースの作品、患者第一の熱血ナースの物語、辛い現実の中で医療に従事しているナースを描いたものなど、バラエティに富んだ作品ばかりだ。

 作中ではコミカルに描かれているものも多いが、ナースが奮闘する医療現場は生死の境界線。当然シリアスな状況も多く、心がグッと掴まれる描写も。笑えて、感動できて、思わず涙してしまうナースたちのお仕事を、ぜひ読んでもらいたい。

文=古林恭