陽月 華「読んだ分だけ世界が広がる。見ることのできる窓も変わっていく。だから、“読まねば”と、そしていつも“読んでよかった!”と思うんです」
公開日:2018/12/9
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、奈良の平凡な家族を通し、「本当に守るべきもの、残すもの」を示す映画『かぞくわり』の主人公を演じた陽月華さん。1カ月以上にわたる奈良での撮影のこと、そして大の読書家としての“本との暮らし方”についてお伺いした。
「宝塚音楽学校に入学が決まり、寮に入るための荷物にまず入れたのは、『ガラスの仮面』全巻でした」
かつては押入れすべてに本が詰まっていたというほど、本との暮らしに馴染む陽月さん。けれど本好きはそのままに、“カタチ”は変遷を遂げてきた。
「かつては“マンガ喫茶か!?”と言われていた私の部屋ですが(笑)、ゆるりまいさんのコミックエッセイ『わたしのウチには、なんにもない。』を読んでから、決めたスペースに収まるもの以外は、手許に本を持たないことを決めたんです。今は電子書籍で読んでから紙の本の購入を決めるほど厳選しています」
本のスペースは、無印良品の正方形の木のボックス6つ。そのなかに並ぶ本は定期的に見直して入れ替えをする。だがそこから動かない本もある。
「歌舞伎の市川宗家を題材にした宮尾登美子さんの『きのね』。そして茨木のり子さんの詩集です」
今回、お薦め本として選んでくれた茨木のり子が暮らした家を写真で切り取った『茨木のり子の家』。そこで暮らした詩人の息遣いが感じられる一冊からは、その人となりが見えてくる。
「最も感銘を受けたのは、自分が亡くなったとき、これを出してほしいと遺していた“お別れの言葉”の自筆原稿の写真でした。遺された人々の気持ちに寄り添ってくれる文章はひとつの作品でもあるし、茨木さんそのものだと思えた。自身の人生をこうした言葉で語れるなんて、人として最高にかっこいい。私もこういう言葉を語れる人間になりたいと思いました」
陽月さんにとって、読書とは「読んだ分だけ、世界が広がる」ものだという。
「見ることのできる窓も変わっていく。自分のなかの変化も気付かせてくれるものだと思います。だから“読まねば”と、そして“読んでよかった”と常に感じさせてくれる大切なものです」
初となる主演映画『かぞくわり』は、大津皇子と伝説の姫を描いた折口信夫『死者の書』が創作のヒントになっている。舞台はその伝説が残る、山がご神体の二上山の懐にある奈良の地。今回、初めて1300年以上の歴史を誇る當間寺や日本最古の神社として知られる大神神社などの特別な許可を得て撮影が行われた。
「1カ月ちょっと奈良には滞在をしましたが、この土地が大好きになり、撮影の合間を見つけてはいつも辺りを歩いていました。作品には住人の方や、この地由来のアーティストさんも多く参加してくださり、主人公・香奈を演じるにあたり、そうした方々のお話、受け取った空気感は大きな力となりました」
核家族化が進んで久しいなか、日本文化誕生の地である奈良を舞台に発信されるのは、“本当の家族の役割”を考えること。
「いわゆる“わかりやすい”映画ではありません。脚本を読んだときも想像力を働かせないと、読み進めることが難しかったし、自分の解釈が合っているかもわからなかった。けれど、父役である小日向文世さんが、『みんなで話し合いをしよう!』と言ってくださり、監督も交え、脚本の段階から皆で語り合うことで、共通言語のようなものをつくっていったんです。そこから各々が“発信”していくという姿勢となり、映画づくりに取り組んでいきました」
平凡な家庭を軸に動いていくストーリーには、ふと幻想的な場面も現れる。伝説の姫の生まれ変わりという設定の香奈が力強く絵を描いていくシーンは圧巻だ。
「いろいろな要素の入った不思議な感覚が訪れる映画です。激しいぶつかり合いもありますが、それを経て、家族が行き着くところが、とても愛しくて。心のなかの型を外し、自由な気持ちで観ていただきたいと思います」
(取材・文:河村道子 撮影:干川 修)
映画『かぞくわり』
脚本・監督:塩崎祥平 出演:陽月 華、石井由多加、佃井皆美、木下彩音、松村 武、竹下景子、小日向文世ほか 配給:日本出版販売(株) 2019年1月19日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開
●奈良の平凡な家庭に育った香奈には“天命”があった。それを親に拒絶され、38歳になっても実家暮らし。だが謎の青年の出現から彼女の覚醒が始まり……。
(c)2018かぞくわりLLP