【ひとめ惚れ大賞】寝泊りしていたマンガ喫茶で書いた小説でデビューしました『鯖』赤松利市インタビュー
公開日:2018/12/9
帯文にある「62歳 住所不定 無職」というのはデビュー時のプロフィールです。かつては、会社を経営していました。35歳の時に起業してから20年間、ゴルフ場関係の仕事をやっていましたが、震災など様々な要因が重なって破綻しまして……。起死回生を狙って被災地である東北で違う仕事を始めました。でも、そこでも行き詰ってしまった。それで東京に逃げ帰り、日雇いで働きながらマンガ喫茶や路上に寝泊りしていました。デビュー作を書いたのも、そのマンガ喫茶です。
小説は昔から月40~50冊ほど読むくらい好きでした。が、最初に自分で書いたのは会社経営をしている50歳のとき。そのときは知人に読んでもらうためだけに書いたのですが、のちに書いた小説が日本ホラー小説大賞で最終選考に残って、手ごたえは感じていたんです。だから「このまま終わりたくない」と思ったとき、小説に賭けてみようと。デビュー作『藻屑蟹』を1週間で書き上げて、大藪春彦新人賞に応募、そこから現在に至ります。
デビュー2作目の『鯖』を書き始めたのは去年の冬頃。最初はまったく違うストーリーで、主人公さえ違ったんです。担当編集者からの様々な提案を受け、最終稿まで思い切った改稿を重ねました。編集者は最初の読者ですから、彼らのために書いているようなところもあるんです。編集さんが自分の意図とは異なるところをすごくおもしろがってくれたとき、600枚ほど書いたのを、最初から全部書き直しました。作品において自分の力は半分、あとの半分は編集者の力だと思っています。
ところでこの『鯖』、荒くれ漁師船団の物語なのですが、読んでくださった方の多くは私を元漁師と思っておられるようで。しかし今お話ししたとおり、まったく違う経歴なんですよね(笑)。
|| お話を訊いた人 ||
赤松利市さん1956年香川県生まれ。作家。経営していた会社が破綻し、日雇い労働で糊口をしのぐ。『藻屑蟹』で第1回大藪春彦新人賞を受賞。11月に双葉社から『らんちう』が刊行される。本人曰く「最初は青春恋愛モノだったけどイヤミスになりました」
取材・文/田中 裕 写真/首藤幹夫
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