秘密のヴェールに包まれた存在「秘密結社」──人はなぜ惹きつけられるのか

社会

公開日:2018/12/11

『秘密結社 世界を動かし続ける沈黙の集団』(ナショナル ジオグラフィック/日経ナショナルジオグラフィック社)

 古今東西、「秘密結社」という存在は多くの人間を虜にせずにはいられない魅力を放ってきた。私のようなオタクであれば、特撮ヒーロー番組の「悪の秘密結社」などはお馴染みの定番設定である。なぜ人々の心を魅了して止まないのかといえば、それは文字通り「秘密性」にあるのだろう。秘密だからこそ人は知りたくなるのであり、それが「許された者」だけとなればなおさらだ。そんな我々にとって『秘密結社 世界を動かし続ける沈黙の集団』(ナショナル ジオグラフィック/日経ナショナルジオグラフィック社)は、まばゆい宝物を詰め込んだ宝箱のようなものかもしれない。

 基本的に「秘密結社」が取り上げられる場合、その神秘性から話が「オカルト」方面で語られるケースが多い。しかし本書のアプローチは、あくまで歴史的事実に基づいた「真実の姿」である。本書の定義では秘密結社とは「特定の秘密を共有する者たちの集まり」だ。そしてその起源は古く、紀元前まで遡ることができる。古代は人々の神への崇拝が強く、その霊的な力を受けるための儀式などが「秘教」として存在した。それを源流とするならば、秘密結社の多くが「宗教」をその基礎とすることは容易に理解できよう。もちろん現在もそのスタイルは健在だが、それ以外にも多様なタイプの秘密結社が誕生している。ここでは本書に取り上げられている秘密結社から、気になるところをピックアップして紹介したい。

●テンプル騎士団

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 世界で最も信者の多い宗教は「キリスト教」だが、その聖地「エルサレム」は「イスラム教」や「ユダヤ教」にとっても同様である。そしてそのエルサレムをムスリム(イスラム教徒)から奪還するために1096年から行なわれた遠征が、世にいう「十字軍」だ。その過程で多くの「騎士団」が結成されるのだが、その中でもよく知られているのが「テンプル騎士団」であろう。彼らは聖地の守護や、聖地を訪れるキリスト教徒の保護を主目的としていた。優れた財務システムを作り上げ、運営は常に秘密裏に行なわれていたという。しかしテンプル騎士団に莫大な借金のあったフランス王フィリップ4世によって「異端」の濡れ衣を着せられ、多くの騎士たちが逮捕されたり処刑されたりした。そういう悲劇的な側面も手伝って、テンプル騎士団は後の秘密結社に大きな影響を与え、彼らの系統であると主張する秘密結社は数多い。

●オデッサ

 第二次世界大戦の末期、ナチス・ドイツの敗色が濃厚となり「SS」とも呼ばれたナチス親衛隊の高官たちは、ある秘密組織を立ち上げた。それが「オデッサ」である。SS隊員やその家族らを秘密裏に逃亡させるための組織であり、彼らはパラグアイなどヒトラー政権と友好のあった国々への脱出を試みた。本書によれば9000人ほどのナチ軍人や役人が南米に逃亡したという。人体実験を繰り返したナチの医師ヨーゼフ・メンゲレもそのひとりで、彼はブラジルで快適な生活を送りながらその生涯を終えている。オデッサを扱った小説『オデッサ・ファイル』は映画にもなっており、創作関係を始め多くの人を惹きつけるテーマといえるだろう。

 本書には古今東西、多くの秘密結社が紹介されているが、基本的にはその歴史や概要が簡潔に書かれている程度である。それでも興味の扉を開くには十分であり、気になったのならより詳細な文献を当たればよいのだ。秘密結社の魅力は知識欲や創作欲など、多くの欲求を満たしてくれるところにあるのだろう。だが一歩間違えれば、危険思想にハマり込む可能性もある。深淵を覗く者は、深淵もまたこちらを見ていることを忘れてはならないのだ。

文=木谷誠