圧巻のボリューム350ページ強! ガンダム・シリーズ最新作『機動戦士ガンダムNT』のノベライズは、「ニュータイプ」と「宇宙世紀」の新たな100年の副読本
公開日:2018/12/7
11月30日より全国ロードショーされている新作映画『機動戦士ガンダムNT』。「宇宙世紀」、「ニュータイプ」を全面に押し出した『NT』は、往年のファンにとっても『機動戦士ガンダムUC』以降のファンにとっても「刺さりまくる」新作ガンダムであり、その訴求力は『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』、『ボヘミアン・ラプソディ』などの名だたる大規模公開作と並び、週末興収で初登場4位の快挙に繋がった。
そんな『NT』のノベライズ版となるのがこの『小説 機動戦士ガンダムNT』だ。350ページ強という迫力のボリュームを前に、もしかしたら手に取るのを躊躇う人もいるかもしれない。でも、もしあなたが『NT』を観たorこれから観るのであれば、本作が必携必読の一冊となるのは間違いない。本編映画の予習&復習に最適なのはもちろんのこと、本作を読んで強く感じるのは、これまでガンダムの宇宙世紀で描かれてきた数々の物語の因果が集積する感覚だ。そして『NT』はこの集積を前提にしているからこそ、宇宙世紀の根底を為すニュータイプ神話の行方を追うに相応しい作品となったのではないか。
『NT』は、福井晴敏の小説を基にしたOVA『UC』のその後を描いた続編だ。ちなみに『NT』の基になったのは『UC』の外伝小説として書かれたのが『機動戦士ガンダムUC 不死鳥狩り』であり、福井は『NT』の脚本も手がけている。こうした背景を踏まえ、本ノベライズの著者である竹内清人は『不死鳥狩り』で示された細部と『UC』という前史・前提をコンバインすることで、単体の物語である『NT』に幾層もの深みをもたらしている。そういう意味でも350ページ強は必要不可欠のボリュームだったと言えるかもしれない。
もともとガンダム・シリーズはノベライズ=文学との親和性が高いコンテンツで、それは小説家の福井が物語のアウトラインを引いた『UC』、『NT』も同様だ。特に『NT』は『UC』の続編としてコンパクトにまとめられた物語ながらも、「亡くなった少女の【魂】がモビルスーツに乗って飛翔する」など、霊的な事象が頻出する展開と、ニュータイプ神話を改めて真正面から問い直す壮大かつ哲学的なコンセプトを有する作品であって、こうして膨大な文字情報として自分の脳内に再インストールすることで、映画版『NT』の矢継ぎ早なストーリー展開と圧倒的な視覚体験がより実体が追いついていく感覚がある。
人類の未来と組織の利害が絡み合いながら進むユニコーンガンダム3号機(フェネクス)の争奪戦――それが『NT』のメインプロットだが、このノベライズ版では3人の主人公ヨナ、リタ、ミシェルの前史、子供時代のエピソードにも負けず劣らずのページ数が割かれているのも象徴的だろう。ニュータイプといわれた彼らが辿った過酷な運命、大人たちの強欲の犠牲となり、争いのコマとして使い捨てられようとするその子供たちの姿は、ニュータイプ神話に暗い影を落として余りある。そして何よりもそれは、フェネクスの争奪戦が一応の決着を見る傍で、神話の行き着く先の未来の破滅を予感させるものだ。
そう、このノベライズ版の350ページ強にわたる描き込みの密度は、『NT』の克明な描写だけに止まらず、『NT』後の未来の破滅をもうっすら透視している。『NT』が宇宙世紀の新たな100年を描く「UC NexT 0100」プロジェクトの始まりの一作であることを思えば、まさに本作は予言の書たる一冊なのだ。
文=粉川しの