再婚した親の連れ子が元恋人!? 恋愛と家族愛の絶妙さを描く『継母(ままはは)の連れ子が元カノだった』

文芸・カルチャー

公開日:2018/12/15

『継母の連れ子が元カノだった』(紙城境介/KADOKAWA)

 血の繋がらない兄弟姉妹は家族関係を築けるのか、あるいは恋愛関係は成立するのか。多くの名作を生み出してきた普遍的なテーマだが、ならば、その逆はどうなのだろうか。かつて恋愛関係にあった男女が、兄妹または姉弟という関係を作り直す事が出来るのか。これほど興味深いテーマを向けられてしまえば、食いつかないわけにはいかない。

 読書好きで目立たないタイプの男子中学生・伊理戸水斗(いりとみずと)と、地味で人見知りな推理小説マニアの女子中学生・綾井結女(あやいゆめ)は、図書室での出会いをきっかけに恋人関係となる。しかし、初々しいカップルの関係は中学卒業を待つことなく破綻し、他人同士に戻った高校入学前の春休み、水斗の父が再婚する。父の再婚相手の名は綾井由仁(ゆに)、彼女には結女という水斗と同い年の娘がいた──。互いの両親の幸せのため、過去を隠して「義理のきょうだいらしからぬ言動をしたら負け」という約束を交わす。かつて恋人と呼んだ相手を「きょうだい」と呼ぶ、奇妙な高校生活がはじまる──。

 紙城境介(かみしろきょうすけ)『継母の連れ子が元カノだった』(KADOKAWA)は、破綻した元恋人同士が家族として同棲生活を送る様を描いた青春小説だ。WEB小説投稿サイト『カクヨム』が主催した『第3回カクヨムコンテスト《ラブコメ》部門』で審査員から高い人気を誇り、大賞を受賞した。

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 本作が人気を得た秘密は3つある、と考える。まずは、ライトノベル的エンターテイメントとして、高いクオリティのラブコメを描いている事。

 食事、買い物、登下校に入浴から就寝まで。一つ屋根の下で暮らしていればあらゆるイベントが発生する。いわゆる同居モノの見せ所だが、元カップル目線という切り口による斬新さで飽きさせない。

 水斗との恋愛経験をきっかけに人見知りを克服していた結女は、クラスで最も注目を集める美少女への変身に成功しており、多くのクラスメイトたちを惹きつける。コミュ力が高い爽やか少年、一度惚れると異性同性問わずに病的に尽くしてしまう美少女など、個性豊かな仲間たちの賑わいに水斗も巻き込まれ、にやにやと次の展開を期待してしまうドタバタなエンタメ感を味あわせてくれる。

 次に、思春期を描いた恋愛小説としても秀逸である点だ。

 物語では二人が恋人となってから別れるまでの過去も平行して描かれる。中学生の男女がはじめての彼氏彼女を得て、恋に恋して盲目に暴走し、自分勝手に独走し、不器用に互いを気遣いながらもすれ違ってしまい破綻していく様はまさに等身大で、恋愛小説としても読ませてくれる。

 普通の物語なら別れてのち後悔してよりを戻そうとしたり、大人になってからほろ苦く思い返したりするわけだが、この二人は家族として毎日向き合う環境に放り込まれ、その中でかつての己の未熟さや相手の真意、自分が本当はどうしたかったのかなどを気づかされる試練を与えられる。だが、男女の情愛への復帰は両親の不幸であり、家族の破綻だ。この葛藤には読者も共に考えさせられる。

 最後に、男女の愛と家族の愛。この違いは何なのか、それぞれの尊さを描くという深いテーマに正面から挑んでいるのが本作だ。 

「クソオタク」「クソマニア」「もやし」「チビ」
「もうチビじゃないでしょ!?」「僕の中じゃ未だにチビだ」

 口を開けば罵りあう二人の姿は、傍から見れば実に微笑ましい「バカップル」のそれだ。だが二人はカップルではない。人によっては仲の良い兄妹(あるいは姉弟)喧嘩にも見えるだろう、だが二人は本当にその関係になれるのか。

「……最近、学校はどう? か……彼女でもできた?」
「は? 何の皮肉だよ。もう懲りたよ、誰かさんのせいで」

 それは、家族としての好奇心か、否か。

「伊理戸水斗……よね? 私の義弟の」
「……伊理戸水斗だ。君の義兄の」

 かつての恋愛感情にけりをつける事で家族へと進むのか、過去の想いを受け入れたまま家族になることは可能なのか。それとも……。

 昔から、男女愛と家族愛はよく似ていると言われる。その一方で決して並び立たないものとされている。

 人間関係の究極ともいえる難題への答えは難しいが、本作の読後感は爽やかだ。二人の、そしてこの家族が向かう幸せの先を見届けたい。

文=榎元敦