漫画村閉鎖後も続く問題――ネタバレ・画像ダウンロードも著作権侵害?

社会

更新日:2018/12/14

セリフだけでも著作権侵害に

 先月27日、東京地裁で米YouTube社に対して動画投稿者の発信者情報(IPアドレスなど)の開示を命じる決定が下された。『闇金ウシジマくん』の「セリフ」をほぼ全文掲載していることが、悪質性が高いと出版元の小学館が判断、開示を求めていたものだ。

 現在もYouTubeでマンガのタイトルを検索すると、最新巻のあらすじを紹介するような動画が見つかる。そんな中、マンガの画像を使わず、セリフだけでも著作権を侵害することになるのだろうか?

 結論から言えば、著作権侵害にあたると判断されてもやむを得ない。著作権法2条1項1号(定義)では著作物を以下のように定義している。

「著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

 マンガはイラストとストーリーの組み合わせなので「美術と言語の著作物」ということになる。つまり、作品の完成パッケージが絵と文字を組み合わせたマンガであっても、「思想又は感情が創作的に表現された」セリフは「言語の著作物」として保護されている。

一般に分かりにくい著作権の扱い方についてクリエイター向けに解説してある1一冊。投稿サービスなどを利用する際には一読することをおすすめしたい。

 こちらの書籍でも解説されているが、紹介記事などでセリフやコマを利用する場合は、「引用」にあたる4つの要件を満たしている必要がある。(出典:文化庁『著作物が自由に使える場合』)

(1)他人の著作物を引用する必然性がある
(2)自分の著作物と引用部分が明確に区別されている。
(3)主従関係が明確である(自分の著作物が主体)
(4)出所が明示されている(48条)

 おそらく投稿者は、「セリフだけなら大丈夫だろう」という軽い気持ちで動画を投稿したかも知れない。しかし、マンガのセリフも著作物であることに加え、全てのセリフを投稿してしまっては、上記引用の要件も満たしているとは言えない。

 ただでさえ売上が減少傾向にある出版社にしてみれば、新刊の売上にも影響しかねないネタバレは頭の痛い問題だ。ましてやセリフ全文を掲載されてしまっては、見過ごすことはできなかった、というところではないだろうか。

画像ダウンロードも違法化?

 本連載でも取り上げた海賊版サイト「漫画村」に端を発するサイトブロッキング問題は、漫画村の閉鎖と、ブロッキングが憲法が禁じている検閲にあたり、インターネット上の表現の自由を侵しかねないという批判の高まりから、現在、一旦収束している状況だ。(ただし有識者会議などを経ない議員立法で再び提起される可能性も残されており予断は許さない)。

 また、来年10月に予定されている消費税増税を前に、軽減税率導入の前提として「有害図書」を自主的にその対象から排除するよう求める動きもあった。こちらも時事通信の12月1日報道によれば政府・与党は「仕組みがまとまっていない」として、導入段階では書籍・雑誌を軽減税率の対象としない方向で調整しているという。

筆者も理事を務めるNPO法人からは、軽減税率適用を目的とした有害図書基準の作成と「出版倫理コード」の採用に反対する声明を出していた。

 市場の縮小を背景に出版界では従来にないほど、税や著作権といった「制度」を頼りに売上を確保しようという試みが続いている。これらが一旦棚上げとなった今、注目されているのが「静止画のダウンロード」も違法化するという動きだ。

 すでに、音楽や動画のダウンロードは違法となり罰則も定められている。ここに静止画を加えることもできれば、海賊版サイトの利用に歯止めが掛かるのではないかというのがその狙いだ。

 しかし、マンガ家の赤松健氏も指摘するようにその「副作用」は大きいと言わざるを得ない。

 ここで指摘されているように現在も、個人ブログのみならず大手ネットメディアなど等でもマンガのコマやイラストを文中に著作者の許可なく転載されることは珍しくない。その画面を保存するといった行為も違法となれば、混乱は避けられないだろう。また、こういった転載は作品を知ってもらうきっかけともなっていたはずで、違法化によって自粛が拡がることも懸念される。

 何よりも、漫画村のような海賊版サイトの多くは「ダウンロード」を伴わずにマンガの閲覧が可能だった。静止画ダウンロードを違法化しても、海賊版サイトの利用を止める効果はほとんどないのではないかと言われているのだ。

 著作権を守り、ひいては作家を守る取り組みはもちろん重要なのだが、それは出版社の売上を守ることと必ずしもイコールではないことにも注意が必要だ。短絡的な「静止画ダウンロード違法化」は、マンガの認知、ひいては流通をさらに阻害する恐れすらある。出版社は出版社にしかできないこと、例えばネットを通じて正規の手段で作品が読まれやすくなる取り組みに投資するなど、読者の便益を追求することをまず優先してほしい。

文=まつもとあつし

<プロフィール>
まつもとあつし/研究者(敬和学園大学人文学部准教授/法政大学社会学部/専修大学ネットワーク情報学部講師)フリージャーナリスト・コンテンツプロデューサー。電子書籍やアニメなどデジタルコンテンツの動向に詳しい。atsushi-matsumoto.jp