壮絶な老人犯罪実録! 暴走老人の異常な執着、奔放な犯罪、呆れた言い訳…
公開日:2018/12/16
検察官「あなた逮捕された時、調書作りましたね?」
被告「ハァ~、作ってましたかね」
検察官「調書、見たことありますか?」
被告「あ〜見たことないすね〜。コレ、ボクの字じゃないっすね~」
これは実際に法廷であったやりとりである。被告人は高齢の犯罪者。彼らに共通する特徴は、法廷でも自由奔放にふるまうことだ。『暴走老人・犯罪劇場』(高橋ユキ/洋泉社)の著者は、刑事裁判の傍聴を続けて13年目。特に高齢者による犯罪に関心を引く点があり足繁く通っているという。
■高齢化社会で、高齢者による犯罪が増加している
「高齢者による犯罪」といえば、経済的に困窮しての万引きや、介護疲れによる殺人など、やむにやまれずの犯行というイメージがある。しかし、そうした例は高齢者犯罪のひとつの側面でしかないという。著者によると、驚くほどに身勝手な理由や思い込みで犯罪に手を染める高齢犯罪者たちが多いという。
覚えていないフリ、身勝手、奔放なふるまい…彼らは法廷で“老人力”をフルに使うそうだ。高齢になってから殺人など、アウトな行動に走る彼らを、著者は“アウト老(ロー)”と名付けた。一体、彼らはなぜ犯罪に走ってしまうのだろうか。
警視庁が平成29年7月に発行した『平成28年の犯罪情勢』によると、成人検挙人員に占める高齢者の割合は一貫して上昇しているという。65歳以上の人口10万人あたりの検挙人員は、14~16歳と同じく減少傾向にあるが、65歳以上の減少率は14~16歳のそれに比べて緩やかだった。つまり、検挙者数は全体として減少傾向にあるのに、高齢犯罪者の割合は高いままなのだ。
■高齢者はなぜ“アウト老”に変貌するのか
アウト老たちはカネの問題を抱えていることも多いという。貧困は若者にとっても犯罪の引き金になる。しかし、高齢者が貧困に陥った場合は、働こうとしても仕事が限られてしまう。そのために短絡的に金目当ての犯罪をしたり、自分を貧しくさせた相手への逆恨み感情を持ったりしてしまう。また、アウト老たちは妙にプライドが高いという。人間は経験や自信を重ねて生きていくものだが、彼らはプライドが高すぎるために、人の忠告を聞かなかったり、自分が正義だと信じたり、逆に被害者ぶったりする。また、他人に不寛容だったり、歪んだ正義感を持っていたりもするそうだ。
カネ、プライド、不寛容、歪んだ正義感…それらの要因は、あくまでも犯罪の「燃料」でしかないと著者はいう。それを「着火」させる要素は、高齢者ゆえの“性質”だ。まずひとつに、他者への執着心が異様に強いこと。トラブルになった相手にいつまでもこだわり続ける。もうひとつは、怒りを制御できないこと。怒りを打ち消すことができず、さらには爆発させてしまう。これらの“性質“は認知力の低下のせいでもあるが、先述した「プライドの高さ」や「歪んだ正義感」といった共通項が、執着心や怒りを増幅させていくという。
本書では、実際に起こった多数の老人犯罪を、法廷での生々しい、あるいは奇妙な様子を交えて書き記していく。アウト老たちのとぼけっぷりや異常なまでの執念はどれもインパクト絶大で、ページをめくる手が止まらなかった。高齢者犯罪は、我々がこの社会で生きているかぎり、決して他人事ではない。アウト老に巻き込まれないために、そして我々がアウト老にならないために、彼らの暴走の記録をぜひとも知ってほしい。
文=ジョセート