「好きなことを仕事に」は幻想!?——夢中で働くあの人は「仕事は〇〇」と考えている

ビジネス

公開日:2018/12/20

『今いる場所で突き抜けろ!―強みに気づいて自由に働く4つのルール』(カール・ニューポート:著、廣津留真理:訳/ダイヤモンド社)

 好きなことを仕事に―この言葉は間違っているかもしれない。たしかに好きなことを仕事にしている人もいる。わたしもそのうちのひとりだ。好きなことを仕事にできている人はそれでいい。

 しかし、世の中の多くの人は、自分の好きなことを仕事にできていないというのが現状である。就活生や転職希望者のなかには、「自分のやりたいこと」を追い求めて50社、100社と採用試験を受ける人もいる。その努力の末の内定はさぞ嬉しいものだろうと思うと、そうでもない。就活戦線を勝ち抜いた者でも、自分の内定に疑問を持つことがある。「内定先の企業で、自分の本当に好きなことができるのか?」という漠然とした疑問だ。

 そこで本稿では『今いる場所で突き抜けろ!―強みに気づいて自由に働く4つのルール』(カール・ニューポート:著、廣津留真理:訳)を読み解きながら、「好きなことを仕事に」を考えてみよう。

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■「好きなことを仕事に」という幻想

 本書の冒頭では、「好きなことを仕事に」は幻想であると述べられている。これは好きなことを仕事にできていない人だけでなく、好きなことを仕事にできている人に対しても向けられたメッセージだ。

 本書には、「好きなことを仕事にしたいと言う人=仕事が自分に何を与えてくれるのかを考えている人」という前提がある。たしかにそういう一面があることは認めざるを得ない。

 好きなことを仕事にしたいと考えている人は、「好きなことを仕事にできているように見える人」がはじめからその仕事に憧れていたと考えてしまいがちだ。そして、憧れる仕事がない自分、憧れの仕事についていない自分に不満を抱く。しかし、その考えは間違っていると本書は斬る。

「好きなことを仕事に」できている人は(はじめから好きでやっていた場合もあるかもしれないが)大方の場合、その仕事に打ち込む中で次第に好きになっていった、というのである。

彼らがなぜ自分の仕事を好きになっていったのか。それは、その仕事に取り組む中で「自分が世界に何を与えられるか」という意識を持つようになったからである。つまり、自分の“やりたいことありき”の考え方に染まらなかったからである。

■今いる場所で突き抜けられる仕事=自分でコントロールできる仕事

 本書はまた、自分でコントロールできる仕事をしているから楽しい・好きという感情が生まれるのだと説く。複雑でストレスの多い仕事であっても、その仕事を含んだ生活を自身で律し、意味のある生活を送ることで、自分の仕事にも愛着を持つことができるのだという。

 この「自分でコントロールできる」という特徴こそが、好きな仕事の追求のための強力な秘密兵器だということである。これはあらゆる職種・業種に当てはまる。

 本書にある例から取り上げると、教職にも「今いる場所で突き抜ける=自分でコントロールできる」が当てはまるという。とある問題を抱えた中学校の先生に権限を与え、“自分のやりたいように”仕事をさせたところ、先生たちの昇進率が上がったばかりか、生徒たちの成績も伸び始めたのだそうだ。これはまさに、自分でコントロールしたことによって、その環境で「突き抜ける」存在になれたということではないだろうか。

 ここまで、好きなことを仕事にできているように見える人は、「仕事が自分に何を与えてくれるか」ではなく、「自分が世界に何を与えられるか」というマインドを持っていること、「自分でコントロールできる」ことがやりがいにつながるということの2点に注目して、本書を紹介してきた。

 ただ、今いる場所で突き抜けられるようになるためには、これら2点だけでなく、本書に書かれている数々のメソッドをスポンジのように吸収していかなければならない。本稿をお読みのみなさんには、ぜひこの書籍を手に取ってもらいたい。

文=ムラカミ ハヤト