ふるさと納税は活かされている? 人口減少で待ったなしの地方都市にメスを入れる

社会

公開日:2018/12/18

『地方都市の持続可能性 ――「東京ひとり勝ち」を超えて』(田村 秀/筑摩書房)

 いま兵庫県に住んでいる私だが、昨年までは仕事の打ち合わせで毎週東京へ通っていた。新大阪から東京まで新幹線で移動する道中、見える景色が徐々に変わり建設中の高層ビルがたくさん見えてくると「東京」。これほどまで高いビルを一体あといくつ建てる予定なのだろう、すごく需要があるのだな…と見てきたのどかな風景と比べてよく思ったものだ。

『地方都市の持続可能性 ――「東京ひとり勝ち」を超えて』(田村 秀/筑摩書房)は、私の見ていたこのふたつの景色、東京と地方都市の対比をさまざまなデータや歴史から紐解いた1冊である。日本の地方都市はいまどのような状況にあり、そして今後どのような未来を迎えるのだろう?

■今後30年で日本には何が起こる?

 いまの日本は、著者曰く「東京ひとり勝ち」状態。

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 都市の活力を示すデータはさまざまなものがあるが、「人口」という指標でみるのが分かりやすい。2015年の国勢調査によると総人口の10.6%が東京に集中する一方で、地方都市の人口減少は著しい。これは過疎の小さな市町村だけではない。関西の大きな都市に住んでいる私としては正直なところあまり実感が湧かないというのが本音ではあるのだが、首都圏以外の(もちろん関西も含め!)中規模の都市や県庁所在地などの多くで、すでに人口減少は本格化し始めており、地域社会は目に見えて縮小傾向となっている。このデータに少なからずショックを受けるのは、私だけではないだろう。例えば、神戸市もこの2015年の国勢調査でついに人口減に転じてしまった。都市の縮小は、大都市にとっても他人事ではないのだ。

 では日本はこの先どのように変化していくのだろう。2018年に日本創成会議によって公表された2045年の人口や高齢化の状況予測レポートはさらに衝撃的な内容であった。そこでは人口減少の流れが止まらず、2015年に対して2045年には人口が6分の1ほどに減ってしまう予測がされているのである。

 このように全国的に人口減少が進む中で、東京都心への人口集中の流れは逆に止まらないと予測されている。2030年には東京都を除く他の46道府県全てで人口減となる。この予測に実感がないからこそ、一層不安を感じるのだ。

■人口減少時代に「生き残る都市」には何が必要か?

 全体的な人口減少の一方で、さらに肥大化して一極集中が増す大都市・東京も脆弱性を抱えており、それが日本の国力を脅かすことになりかねないことを認識しておくべきだ、とも本書は説く。その一例が、災害面での脆弱性だ。日本は残念ながら、天災の影響を受けやすい地理的状況にあるのだ。

 今年2018年も、地震、豪雨被害、台風、と日本列島は自然災害にたびたび襲われた。特に私の住む関西では、9月の台風21号の影響で関西国際空港が甚大な被害を受け、流通が麻痺してしまったためにスーパーやコンビニの店頭から商品が消え、不自由な思いをした。これが羽田空港で起きていたら…日本経済にさらに大打撃を与えただろう。

 首都機能の分散化が議論されてもはや40年。一時期に比べて停滞しているこの議論だが、そろそろ東京をスリム化し、地方都市に首都機能の多くを移転することで災害に耐え得る国に変えていく時期ではないか、また、それが結果的に地方都市の活性化につながっていくのではないだろうか、という著者の提言に思わず頷いてしまう。

 この他にも、都市の生き残りという観点から、本書では「交流人口(=地域を訪れる人の数)や関係人口(=地域に関わってくれる人の数)を増やす」「ふるさと納税をもっと上手く活用する」「個性を活かして特徴ある街づくりをする」といった提案について、実例を交えつつ紹介している。

 本書は、これからの都市の生き残り方法について「これさえやっておけばいい」という分かりやすい答えを用意するものではない。なぜなら、「都市に関わる全ての人たちが“自ら”なんとかしようという自治の意識がないと都市の未来はない」と著者が強く想っているからだ。自分の大切な場所(=都市)が東京であれ地方であれ、いまのまま何もしないでいては共倒れしてしまう。そうならないうちに、私たち一人一人がこの問題に向き合い、自ら考えなくては、と思わされる。

 まずは本書を通じて、日本の都市の現状や成り立ちを知る。その上で、一人一人が自身の大切な都市のあり方に関心を持つ。それが、日本の未来を描くにあたっては欠かせないのだ。この著者の想いに共感できる人は、ぜひ本書を手に取ってみて欲しい。

文=ナカタク