「しゃべくり007」で話題に! ぎりぎりアウト!? 高嶋政宏が「変態紳士」になったワケ
公開日:2018/12/19
誰が最初に考えたのか、「変態紳士」という言葉は面白いと思う。変態なら紳士じゃないだろうし、紳士が変態であろうはずもない。相反する言葉を結びつけたその人は、いかなる人物なのかと興味が湧く。だから、『変態紳士』(高嶋政宏/ぶんか社)という書籍タイトルを見かけて著者を知ったときには驚いた。高嶋政宏といえば芸能一家で育ったサラブレッドのイメージを持っていたし、男の目から見てもカッコイイなと思っていた。ところが最近は、バラエティー番組でSM好きを公言したり、妻への異常なまでの愛情を披露したりと、何やらおかしな方向へ向かっているのだとか。すでにある言葉を使っただけとはいえ、いかなる理由で自分のエッセイ集に「変態紳士」なんてタイトルを付けたのか。(※高は正しくははしごだか)
迷わずに自由に物事を見るとされる「不惑」の四十を過ぎ、己の使命や役割を悟ると云われる「知命」の五十を越えた政宏氏がSMと出会ったのは、約10年前の40代のときだそうだ。石井克人監督・妻夫木聡主演の映画『スマグラー お前の未来を運べ』への出演が決まり、作中で拷問するヤクザの役作りのためにSMショーを見に行くことにしたという。それまでにもSMショーを見たことはあるものの、役作りのために学びたいと思って訪れたさいに、首輪をつけられ四つん這いのM女に「大丈夫なの? 痛くない?」と軽い気持ちで声をかけたところ、彼女はキッと睨みつけ「やめてください! 好きでやってるんだから!」と返されたことに感動したのだとか。
政宏氏がSMに目覚めたことよりも驚いたのは、子供の頃はデブだったということ。高校2年生の夏休み前までは体重が110キロもあり、いわゆるスクールカーストでは底辺のいじめられっ子だったそう。それがモテたい一心で少年漫画雑誌の裏に載っていたサウナスーツを着て毎日走り、低カロリー食を続けたところ夏休みの1ヶ月で、なんと85キロにまで痩せたという。その努力の甲斐あってモテるようになったかというとさに非ず。学校を移って初対面なら良かったかもしれないが、「デブの高嶋が痩せた」というだけで全然モテなかった。なんとも悲しい思い出である。
政宏氏は、自分がハマッたものがあると妻にも知ってもらいたいと思うそうで、基本的には連れて行くことにしているのだという。それ自体は仲睦まじく微笑ましい話ではあるが、SMというのはどうなのか。一度だけSMの店に連れて行ったら、「吐き気がする。これからはあなた1人で行って」と言われたそうだ。さもありなんと思ったものの、よく考えたら禁止するのではなく、1人で行くのなら許可するなんて、なんとも理解のある妻で感心してしまった。もちろん政宏氏は夫婦生活での実践も望んではいるようで、しかし強要することは無く、「もっともっと甘やかせたいんです」などと、熱烈な愛情を注いでいることが読み手にも伝わってくる。
俳優というのは役を演じる者であって、その人となりは他人に分かるものではないとはいえ、政宏氏に勝手なイメージを抱いていた。その意外な素顔が語られている半面、政宏氏の生真面目さがところどころに見られた。役作りに取り組む姿勢はもちろん、妻と夫婦喧嘩したさいに怒鳴りすぎて「喉がやられる。仕事に影響するぞ」と冷静になるのは、俳優業を天職としているように思える。それでいて何度も出てくるSMの話題では、女性の美醜には興味が無いと述べ「その子が変態プレイを見せてくれるのかどうかが重要です」と断言するのだから、まさしく「変態紳士」という二律背反が成立している。
不惑というのは、惑わされないだけでなく枠にとらわれないことも意味し、それが知命につながるそうだから、政宏氏はそれを実践しているということになるだろう。そうそう、本書のエピローグの後には、映画でエンドロールの後にもうワンシーンが挿入されるように、政宏氏からの一言が添えられているので、くれぐれも読み逃さないように。やはり、紳士なのである。
文=清水銀嶺